8話 その先にあるもの ⑩
「ブラボォオオオオ! 感動的な終わり方じゃねぇか。一度壊れたやつが再生し困難を乗り越える。王道の連続、たっぷり楽しませてもらったぜ」
しばらく感動の余韻に浸っていたかったが、破壊王ベインの一声がすべてを破壊した。
「ベイン、あんたって……なんなのよほんと」
「なんでお前は俺達を試すような真似ばかりをするんだ?」
このままなにもしてこないなんて思ってはいなかったが、いらっとした気持ちを隠すことはできない返答の仕方になる。
こちらが嫌がるタイミングばかりを狙ってきたかと思えば、今度は自らが創り出した破壊の意思を浄化されたことを喜んでいる。俺達をただ破壊したいだけならばベインのやり方は理屈に合わない。そこが不思議でならなかった。
「おまえ達の知り合いになりたかったのさ。どうだ、もう他人とは思わないだろ。いくらお前達でもなぁ」
へへへ、不気味な笑顔を浮かべ、真意を読み取ることはできない。
「あんた狂ってるよ……こんなやり方されて喜ぶやつがいると思っての」
「思ってねぇよ。仲良しごっこをしたいわけじゃないんだ」
「知り合いになりたいけど、仲良しごっこはしたくない? 矛盾してるだろそんなの」
「してないさ、俺にとってはなぁ」
会話をしたところでベインがなんなのか、なぜこんなことをしているのかが、常に理解の外にいる。
人でないから考え方が違うのか? そのわりには俺達の感情を理解し、そのうえで攻撃をしてくる。こいつは底知れないなにかを秘めている。それがこいつの強さだとでもいうのか。
「お前達はいい感じに強く、楽しくなってきた。そろそろ食べごろだと思うんだ」
「なにが言いたいの?」
ブレイドは警戒し、みんなを守るために前へ踏み出す。
「次は俺が直々に相手をしてやるって言ってるのさ。それまでせいぜい幸せな時間を過ごしながら、俺がどんな存在か考えておくがいい。時が来たらすぐにでも破壊しつくしてやるよ。フッハハハッハハ」
破壊王ベインは気味の悪い高笑いをあげながら消えていく。
俺達が美味しくなってきた? だからこそ闘う価値があるとでも?
負けるわけにはいかない。
あいつがどれだけ強くても、どんなに絶望的な状況でも闘い、破壊から創造を守る。
俺達の未来を創っていくためにも。
「せっかく気持ちよく終われると思ったのにねぇ、雰囲気ぶち壊しだよ。ま、いっか。あいつも消えたことだし一件落着ってことでいいよね」
「今すぐには襲われることはないだろうな」
破壊王ベインが去って気が抜けたのか、いの一番に絵麻は床に倒れこんだ。
「ティアちゃんのお尻、かわいい」
「なにを言っておるのだ貴様は!」
さっきまでの緊張はどこへやら。絵麻は見上げた先にあるティアのお尻を楽しんでいた。疲れた分の栄養補給だとでも思ってそうだ。かわいいは栄養、解るけど解りたくねぇな。
「なんで逃げちゃうの。かわいいご褒美欲しいよ~」
「やらぬわはそんなものは」
ティアからしたらそんなのは紛れもな迷惑。お尻をみられることを回避するために芋虫のようにもぞもぞする絵麻から逃げ回っていた。
「えらいの~えらいの~褒めちゃう!」
ティア達のやりとりに気を取られていたら、ブレイドにふいを疲れた。
頭をなでられ、痛いのならぬ、えらいの~をされてしまった。
「そんね褒められることは……」
「まぁまぁ、ここは褒められとくべきだと思うよ。逢夢もそう思うよね」
「もちろんです。創磨はえらいの~えらいの~です!」
逢夢もえらいの~に参戦。俺のアタマンを撫ではじめれると。
「////////////」
「////////////」
撫でられている俺も、撫でている逢夢も顔を真っ赤にして照れていた。
「……それじゃあ戻るとするか。絵麻、いくぞ」
照れていたのもあって、早急に戻ることを提案した。
「ブレイド、おんぶ」
「はい、マスタ-」
よほどの疲れたのか、めちゃくちゃな甘え方を絵麻はしている。おんぶされているブレイド見送り、俺達も家へと戻ってきた。
「貴様も疲れておるなら早く休むとよい」
「疲れはしてるけど、書きたいことがたくさんできた。書いてから休むことにするよ」
「そうか」
「ティアありがとな。ティアがいなかったら今頃は……」
「我も貴様に救われておる、礼はいらぬよ」
小さな背中とは裏腹に、その精神は魔王たり得る。たとえ感謝するなと言われても、感謝せずにはいられない。俺はティアには聞こえない心の声でありがとうを伝え続けた。
逢夢に転移してもらい、自室に戻ってきた。
「さて、やるか」
ジャイアントブレイカーとの闘いは一段落ついたが、もうひとつの闘いが俺には残っている。
白紙のまま閉ざされてしまった未来の創造、その創造を輝かせる闘いに挑むためパソコンの前に置かれている椅子へと座った。
いつもの座っているこの椅子の感触が今日はなんだか特別なものに思える。心が高揚しているのか、早くキーボードを叩きたくてうずうずしているんだ。
「創磨、今日は後ろ姿をみていてもいいですか。あなたの描いている姿をこの目にいれておきたくて」
「ああ、みていてくれ。逢夢を輝かせ、読者の心を動かすような創造を創るところをな」
逢夢が後ろでみていることを感じながらキャラクター達が動きだした姿を創造し物語を創りあげていく。
鳴り止まないキーボードの音は夕空を越えても続き、夜空に星が輝きはじめる。それでもなお創造し続け、止まることはなかった。
正谷さんに二巻のラストを書いたテキストを送った後、オンライン通話をしていた。
「正谷さん、イベント終了後無理をいってしまってすいませんでした」
「きにすんなって。作家のやる気に満ちた表情を消してしまう編集者としてはもったいねぇからな。それよりも送ってくれた二巻について話をすすめようか」
正谷さんもある意味で常識外れというか、バイタリティ溢れていると思う。
絵麻をいきなり連れてきたり、俺のとっさな要求を受け入れてくれたり、自分が良いと思ったことはなにがなんでもやり通す。
気炎万丈、その熱量には圧倒されぱなしだ。
「内容読ませてもらったぜ。ソウマ先生の創造と向き合う覚悟がより鮮明になっていて面白かったよ」
「どこが一番面白かったですか」
ありがとうではなく、どこが面白いかを聞いていく。どんな所に興味をもって、どんな所に心をひかれたのか。読者に感謝の言葉をもらうのも届けるのも一番ではなくても良い。
まずいちばんに思って欲しいことは面白いという言葉だった。
「「読者のためにキャラクターのことを大切にしたい、物語を大切にしたい、読者の思いを大切にしたい」やっぱそれを語る部分だろうなぁ。この作品らしさを感じる言葉は武器になる」
正谷さんはティーカップに注がれたコーヒーを飲み、一息ついてから再び話はじめる。
「俺がソウマ先生の作品に可能性を感じたのは、読者の熱量を引き出すことができる予感があったからだ。それを見事に果たしてくれた」
正谷さんは俺が投稿したあの時から、可能性があると思ってくれていたのか。ずっと信じてくれていたんだ、まだ世にでることない時からずっと、ずっと。
「作家っていうのは孤独だ。孤独の中で可能性を見つけなきゃいけない生き物だ。それでも、誰かとのつながりや、やり遂げる想いが必要になる。忘れるな一人じゃないことを、忘れるな期待してくれてるやつのことを。俺も編集者としてソウマ先生をもっと輝かせてぇからな」
はじめて俺の小説を信じてくれた人は、一番はじめての読者だと言える。
それが正谷さんでよかった。正谷さんだからこそ共に作品をもっと磨きあげることができる。
「まだまだきになったとこ修正してくぞ」
「よろしくお願います」
創造で輝く原石を磨きあげるために、お互いの意見を伝えあい、こだわり続ける。
読者のためにできること、その可能性は広げることができると信じて。




