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1話 誕生、レイ・クリエイト ⑧

「フッハハハッハハ、我は魔王ディアボロス。貴様が創造した魔王だ」

 赤い鎧と兜、黒マントを着た禍々しく異質な存在を見ただけで理解する。そいつは俺が『クリエイト・レイターズ』の中で書いた魔王ディアボロスだった。

「本当にディアボロスなのか?」

「そう言っておるではないか。我は貴様の願いを叶えにきた」

 いきなりこの世界に俺が創り出したディアボロスが現れるだなんてこと、ありえないことのはずなのにその事実を受け止めるしかないらしい。


「願いだと?」

 真意を聞くため、動揺を抑えながらも話を続ける。

「そうだ、貴様の願いだ。どうしても見られたいのだろ、貴様自身の作品とキャラクターを。ならばその機会を奪えばよい。お前からその機会を奪わった創造を奪うことでな」

 それは心の中が空っぽだった俺にとって、悪魔の囁きだった。

「知っておるのだぞ、貴様が小説大賞とやらを落とされたことを」

「どうしてそれを」

「貴様の中で膨れ上がった破壊力が教えてくれた、それだけのことだ」

 ディアボロスの言葉に心が揺らぎ続けていたが、理性でなんとかその気持ちを抑えこもうとする。絶対にそんなことをしてはいけない。他人の創造を奪うだなんて。

 

「俺が書いたディアボロスは創作しようとする作者を恨んでいた。どうしてそれなのにこんなことをしようとする」

「貴様の願いを叶えることがメリットになるからだ。お前にとってもな」

「できない。そん他人から創造を奪うだなんて」

「ククク、ならばこのままでいいのか、大賞をとれぬまま終わっても。まさかこのまま努力続けていれば、こだわり続けていれば、いつかは成功すると思っておるわけではなかろうな。現実を見ろ。何年もかけて作品を創り続けたのに結果はでなかった。貴様自身のせいでな」

 ディアボロスの言っていることに反論したくても、それが事実で言い返すことはできない。これまで努力してきたこと、それでも結果がでせていないこと、それは俺自身が一番よく解っていた。

 

「創造は才能の世界だ。才能亡き者に結果も機会も与えられることはない。すでに運命は決まっている。なにも得られないという運命が。だからその運命から我が救ってやろうというのだ、この破壊力を使ってな」

 魔王ディアボロスが言うように、もし運命が決まっているとしたらそれを否定したい。

 少しでもそう思ってしまうゆえに、こんな提案ですら魅力的に感じる部分がある。もし魔王の言う通りにしたら望みを叶えられるのではないかと。

 

「逢夢に出逢いたいのではないのか。多くの人に作品を見てもらいたいのであろう。ならば我の提案を受け入れ、他人の創造を奪って願いを叶えよ。それが貴様の本当にやるべきことだ」

「他人の創造を奪うだと」

「なにもせずに願いは叶わない。だから足りない部分は他人から奪えばいい」

「そんなことできるわけないだろ。自分のために他人の創造を奪うだなんて」

 自分のために他人を利用する、それはとても許されるような行いではない。否定しろ、否定し続けないとだめだ。

 

「他人の創造なぞやっかいな敵ではないか。自分の創造だけ見られたいのならば、むしろ邪魔な存在は消した方が良いであろうて」

 もし同じジャンルで勝負するとなった時、そのジャンルの中で自分よりも人気作品が出版しているとしたら必ず比べられてしまう。同じジャンルじゃなくても、同じラノベ同士でも同じだ。生き残るためには、他の作品よりも面白いと思われた方がいい。

 

「でもそれは、ひどいことで……」

「ひどいことだと思わなければいい。そのためにこだわることを止め、創造が好きだという気持ちをなくし、破壊力に飲まれろ。それしか苦しみから逃れるすべはない」

 否定することができないまま沈黙を続けてしまう。理性との戦い、もしそれに負けてしまえば簡単に破壊力に飲まれてしまう。

 

「まだ迷っているのだというのなら見せてやろう。破壊力がもたらす貴様の未来をな」

 魔王ディアボロスが左手から放たれた赤い光につつまれると視界は一変する。

 

 その世界の中で俺は大賞をとりデビューをしている。

 夢を叶え、人気が出て、逢夢と共にいる日々。

 あの瞬間認めてもらえたから叶えることができた夢。そしてその夢は壁を超えなければ永遠に手に入れることができない。

 希望に満ちた夢、居心地のいい夢、これが……特別?

 

「手に入れたいのではないのか、諦めたくはなかろう、貴様の望んだ未来を」

 夢のような世界から現実世界へと引き戻されると、魔王ディアボロスは欲望にまみれた救いの手をさしのべてきた。もしこの瞬間、魔王ディアボロス協力しなければ二度と芽がでないかもしれない。俺の中にある創造をもう誰にも届けられないかもしれない。

 

(そんなのは嫌だ。俺の創造を届けることができないなんて嫌だ……)

 欲望にひきずりこまれ、魔王ディアボロスの手をつかもうとしたが――その手が止まった。

 自分でもどうしてか最初は解らなかった。

 この手を握りさえすれば辛い現実はなくなる、夢をみていられる。

 それでいい、それでいいはずなのに……


 疑問は答えを探すための唯一の手がかり。

 考えて、考えて、また考えて。創造を生み出す時のように思考を続けていく。

(面白い作品に何度も出逢えて、それで物語のことが好きになれた)

 読者として視聴者として、楽しそうにしている俺の姿が走馬灯のように蘇っていく。

 

(物語を書くことは苦しかったけど、楽しかった)

 物語を書く日々は苦しい側面もあったが、すべてが新鮮で楽しかった。


(逢夢の笑顔、逢夢と創った特別な日々……そうだあの日々があったから」

 次にみえていきたのクリエイト・レイターズを執筆した日々、逢夢と過ごした日々。

 すべてがかけがえないのないものだった。

 

「わたしも信じます。蕾のままでいるわたしが咲くことを、わたし達が創りだすこの輝きがたくさんの人に届くことを」

 逢夢が言ってくれた言葉を思い出す。

 逢夢は信じると約束してくれた。だから俺も逢夢のことを信じるだけだ。


「どうした、なぜ手を握らない!」

 いつまでも俺が疑問を感じたまま立ち止まっていることに苛立ち、魔王ディアボロスは憤慨し声を荒げている。

 

 もう欲望には飲まれていない。俺の中にあった大切な輝きを届ければいい。

「そんなの決まってる。信じているからだ、他人が創りだしたものじゃない、俺達がこだわり続けて創り出した創造が輝くってな」

 決意を言葉にして、さしのべられた魔王ディアボロスの手を力強く払いのけた。

 

「戯言を。そんなことを言っても現実はなにも変えられんぞ」

「いいや変えられる、変えてみせる」

 右手の握りこぶしで胸を叩き、ぐっと押し当てる。

 この心が、この想いが死なない限り何度だって俺は挑戦してみせる。

 楽しませてくれた物語のためにも、かけがえない出逢いをくれた逢夢のためにも。


「貴様は何も解っておらぬ。未来がないということ、未来を奪われるということを、貴様ら創造主共が我らにしてきたことを」

 苛立ちをぶつけるかのように魔王ディアボロスは躊躇なく俺を蹴り飛ばした。

 あちからしたら軽くこずいたつもりなのだろうが、いともたやすく体が宙に浮き、アスファルトに叩きつけれる。

 

「協力せぬというのなら消えるのみ。さらばだ、我を創りし憎き存在よ」

 叩きつけられた衝撃で体の節々が痛む中、魔王ディアボロスの赤く輝く巨腕は俺の命を確実に奪おうとしてきた。

 

 死、死、死、死、死。

 耳鳴りのようにその言葉がこだまする。死の恐怖が襲いかかる。

 負けない。そんな恐怖には負けない。

「俺はこんな所で死ねない。俺の創造を逢夢を輝かせたいんだ」

 死の恐怖をのりこえ、未来へ続く創造の言葉を叫んだ!

 

――わたしも創磨共に輝きたい!

 逢夢の声が聞こえた。俺の心の中にずっといてくれた逢夢の声が。


「いくぞ逢夢! 共に輝こう!」

――はい、創磨!


 逢夢と心を重ね、共に輝くことを誓った時、創造の花がこの世界に咲きはじめた。

 創造の輝きで創れらた桜色の光の花びらが眼の前で舞い散り、舞い散る創造の花は桜吹雪なって破壊の意思がこもったディアボロス拳をはねのけ後方へと吹き飛ばす。

 

 どんなに暗く、どんなに未来が見えずとも、輝きがあるかぎりなんどだってはじめられる。

 心からの叫びが、奇跡を創造した。

 

「お前は、お前は!」

「わたしは創造を守りし者、桜木逢夢。魔王ディアボロス、あなたを止めて見せます」

 真冬の蕾すらついてない桜の木々達は創造の輝きによって、桜のような花を咲かせ夜桜として闇夜を輝き照らす。

 

 桜色に輝く創造がすべてのはじまり、この世界でも逢夢と出逢えた。

 白色のワンピースの上に桜色のカーディガンを着たツーサイドアップの少女、振り向く逢夢はクリエイトワールドで逢った時と同じ姿をしている。

 創造どおり、いや創造以上のかっこいいし、かわいい姿だ。

 

「力を感じる、今の我以上の……ならば!」

 吹き飛ばされた魔王ディアボロスは破壊球をかかげた。

 

「破壊力よ、混沌なる魔物を創り出せ、誕生せよ破魔!」

 破壊球が雄叫びをあげているかのように赤く輝き、破魔を誕生させた。

 

 3メートルはゆうにある大きさ、巨木をなぎ倒してしまえるほどに盛り上がった筋肉、岩を砕く巨大な角を生やした牛頭の怪人、その破魔の姿は物語の中で魔王ディアボロスが創り出したミノタウロスと同じだった。違っているのは赤いオーラをその身にまとっていることくらいだ。


「この破魔は誰かに認められたいという承認欲求から創りだした存在、じつにくだらぬ感情から創りだされたものだと思わぬか」

「くだらなくなんてない。自分が創った作品を認めてもらいたい、たくさんの人に見てもらいたい。そう思うのは当たり前だ。ディアボロス、お前はそんな純粋な気持ちを破壊力使って利用しているにすぎない」

「利用しているのはそちらであろう。誰かにみられたい、たくさんの人に楽しんでもらいたい、お前ら創造主どもがいるから我ら魔王は!」

 兜で表情は読むとくことはできないが、魔王ディアボロスから強い憎しみと怒りを感じる。俺達の方が悪い、その姿勢を曲げることはない。

 

「やれ、破魔! やつらを叩きつぶせ!」

 魔王ディアボロスが手を振りおろし指示すると、ミノタウロスの姿をした破魔が腕をふりあげた。

 

 破魔の腕は大木のように太く重い。衝突しただけで民家の壁に大穴を空けて破壊するほどのパワーがあるのは見た目の迫力だけで想像できる。当たれば人間なんて跡形もない。

 そんな死の恐怖を匂わせる破魔の拳が頭上からものすごい勢いで迫ってきていた。

 

“ガァアアアアンン”

 地響きの後に土埃があがった。威力の高さを示すのには十分、間違いなくあたっていたら致命傷だけでは済まされなかっただろう。

「ありがとう逢夢」

 破魔の攻撃が届く瞬間、逢夢は俺をお姫様抱っこしてビルを超えるほどの高さを跳んでいた。

 

「逃げられると思うなよ」

 公園内の芝生広がる広場に着地、破魔と魔王もディアボロスもその後を追いかけてくる。

 

「逃げるつもりはありませんよ、桜の木を傷つけたくはなかっただけですので」

 逢夢は俺の方を向いてから、破魔へと視線を向け飛び上がる。体操選手のように上空で一回転しつつ破魔の後方へと着地。腰をひねって力をいれた回し蹴りを喰らわす。

 

“ダン”

 攻撃はあたっている、音から察するにそうとう威力があるのは伝わってくる――が、破魔はダメージを受けている様子はなかった。

 

「ふん、その程度の攻撃で倒せるとでも思っておるのか。やれ!」

 破魔は腕をのばし、逢夢が蹴りを喰らわした左足を掴もうとした。

「みえています」

 触れる直前、つかもうとした破魔の手に向かって二段蹴り。蹴った反動を利用して反対方向へと飛び体勢を立て直す。

 逢夢は人間離れした身体能力を有しているが、破魔にダメージを与えられそうにはなかった。

 

「器用なのは認めてやるが、その程度の力では倒せぬぞ」

「今のままではそうかもしれまん。ですがもっと創造を輝かせることができれば、強くなることできる。そうですよね、創磨」

「ああ、できる。俺達ならもっと創造を輝かせることが!」

 己の中にある想いを叫ぶと

「これは!」

 再び奇跡の光が身体の中から溢れだし、輝く本が創られた。

 

 それを手にとった瞬間にそれがなんなのか、どう扱えばいいのかが解った。

 桜の紋章がついた『クリエイトブック』、これを使えばいいのか。

「これは逢夢のクリエイトブックだ、受け取ってくれ」

 創造の輝きから生まれた本、クリエイトブックを逢夢に渡した、

 

「輝きは誰の中にだって眠っている。それを否定させはしない! いくぞ、逢夢!」

「はい、創磨!」

 物語を書き記すときのように逢夢と意識を同調させる。

 

「創造の輝きよ、未来を創る力となれ」

 逢夢と共に未来へつながる言葉を創りだし、

「レイター・ブリリアントチェンジ」

 未来へ続く創造は輝きだした。

 逢夢はクリエイトブックの桜の紋章をタッチ、服が白いドレス姿となり創造の輝きを身にまとう変身を初めていく。

 

 クリエイトブックを開き逢夢が息を吹きかけると、開いたベージから創造の輝きで創られた桜の花びらが飛び出した。

 創造の輝きは辺り一面に桜の花びらが舞い散らせる中、目をつぶり祈りをささげるように手を合わせてから胸の中央に両手を当てたると、桜色のバトルコスチュームが創られていく。

 胸には桜色の創造石がつき、細かい差し色も追加。二の腕や胸の露出度はそのままに、はじめて創造した時よりもさらに華やかなイメージを与えてくれる。

 スカート部分は膝にかぶらないほどの長さで、花を咲かせた桜のように艶やかに広がっていた。

 

 桜色のコスチュームが創りあげられてから、右腕をのばせば右腕に、左腕をのばせば左腕に、手首に桜の花とレースをあしらった腕飾りが創られた。

 続いて大きくジャンプ、足に桜色のブーツが創られ、着地した同時に肩くらいにまで伸びた後ろ髪を腰までのばした。

 桜色のバトルコスチュームへ着替えおえると、それを見せつけるように嬉しそうに回転してみせる。そして……

 

「未来へ続く創造の輝き、レイ・クリエイト」

 左手を胸にあて、右手は先端が腰の高さと同じになるように手を伸ばし、決めポーズをとった。創造を輝かせたその姿は、何年も咲き続ける桜のように美しかった。

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