8話 その先にあるもの ⑤
「創磨、まいりましょうか」
トークイベントが間近に迫り、逢夢と一緒にイベント会場へと入る。
イベント会場に置かれた二十席分の椅子がすべて埋まっており、番号が書かれたバッチをそれぞれ胸につけていた。若い人もいれば、勤務先の上司と同じくらいの年齢だと思しき人もいる。男女の比率に偏りはない。
会場の壁沿いを通り、逢夢と共に読者の前へと立つ。
作家として読者の前に立つことが不安でしかたがなかった。自分はそんなに偉くない、そんな役柄にはふさわしくないと思っていた。
そんな風に思っていたはずなのに、読者達の前に立ってていることが嬉しく感じた。
「これよりクリエイト・レイターズ出版記念、トークイベントをはじめさせていただきます」
逢夢が俺に目配せした後、トークイベント開始することを伝えた。
「こんにちわ、三葉堂書店 希望ヶ丘支店の逢夢です。今回はなんと作者の方をお招きしてトークイベントをさせていただくことになりました。はじめてのことなのでどうなっていくのかわたしにも予想がつきませんが、一緒に楽しんでいきましょう!」
読者の前に立って話す時は明るさ三割り増し。見てくれる人を元気にしたいと思いながら話していそうだ。
「今回の推し本は『クリエイト・レイターズ』、2週間前発売となったソウマ先生の作品となっております。とにかく面白いというのもあるのですが、なんとわたしをモデルに描いてくださった作品なんです。というわけで、めちゃくちゃ私情は挟んでいます!」
私情だからという所で笑い声が起こる。逢夢はわざとらしく言うことで笑ってもいい空気をつくってくれていた。
「推さないわけにいきません。みなさん、素直な声をお聞かせください」
推してる理由がモデルどころか、作中で活躍してる本人だもんな。逢夢の立場からすれば推すのは必然。それを素直になって欲しい理由に変えてしまうのは思いきったやり方だ。
「ではソウマ先生、挨拶をお願います」
「クリエイト・レイターズにてデビューさせていただきました、ソウマです。本日はトークイベントにご参加くださりありがとうございます。自分にとってはじめてのことなのでいろいろと戸惑うことはあるかと思いますが、みなさんに満足していただけるようなイベントにしていけたらと思っています。よろしくお願いします」
人前で話すことに少し緊張しつつも言葉を重ね、一礼をした。満足させなきゃいけないみたいな感じではないけれど、少しでも楽しいイベントにしてかないとな。
「ソウマ先生ありがとうございます。ではこれからトークイベントを進めさせていただきますが、ソウマ先生だけではなく読者の皆様の声も聞かせていただきたいと考えています。簡単な質問をする際は直接聞くことになりますが、基本的には挙手をしていただいて発言をする形をとっていきますので、わたしが読者の皆様に問いかけた時になにか話したいことがありば挙手をしていただくようお願います」
一通り説明をしおえてから、逢夢は読者と目を合わせた。
「では最初はわたしから質問をさせてもらいます。読者の皆様はソウマ先生の本をどういったきっかけでお知りになりましたか? ピンク帽子がかわいい番号1番の方からお聞かせください」
逢夢が手をのばしたさきにいたピンク帽子の女の子が席を立った。
「ハガサネ先生のイラストが以前から好きだったので買わせていただきました」
「では次は2番の青服のあなた」
「表紙がきにいったので」
という形でテンポよく逢夢が質問をして、読者の方がそれに答えてくれている。
本を手にとったきっかけとしては表紙というのが多い。絵麻の絵を魅力的だと思ってくれているがたくさんいるんだ。
「背表紙のあらすじ読んでいいなぁと思いまして……」
「テーマです。キャラクターといっしょに闘うのはおもしろそうでしたので」
表紙だけではなく俺が書いた小説のあらすじや内容について触れてくれている人もいた。良かった、そういった人達もいてくれているんだ。
「もちろん逢夢ちゃんのためです! 逢夢ちゃんいつも応援してるから!」
笑顔で手を振る若い女の娘に、逢夢は手を振り返す。
逢夢のファンだから、逢夢が登場していたから買う人もいた。
「読者の皆様のたくさんの出逢いをお聞かせくださりありがとうございました。ソウマ先生はどうしてこの作品を描こうと思ったのでしょうか?」
逢夢が作品を創った理由をたずねてきた。作品をつくろうと思ったきっかけは作家にとっての作品との出逢い。質問するタイミングがいい。逢夢は読者の人達が興味をひきつけられるような構成にしてくれているのか。
「この作品を書こうと思ったのは、夢の中で自分が創造したキャラクター、逢夢と出逢えたからでした」
あの時の光景は今でも鮮明に覚えている。心を奪われてしまうほどの大きな木の下で、自分が創造したキャラクターと出会えた喜びを。
「逢夢はその夢の中で物語を世界を体験させてくれました。好きな物語の場所に行き、好きなキャラクターの技を撃つ。自分創造した技を逢夢は使ってもくれた。創作された世界を楽しく、悩んでいたことを忘れてしまうほどの体験でした」
テラステラの世界を間近で見て、技を撃つことができた。あの体験があったからこそ、今がある。
「創られた世界を見たり体験する以外にも、創ることが楽しいと思えた。その時『創造』をテーマにして描きたいと思った。創造✕ヒーロー、そうして創りだされのが『クリエイト・レイターズ』でした」
「素敵な出逢いの話、ありがとうございました」
読者の方々は俺の話を興味深そうに聞き、驚くような反応を見せてくれる人もいた。
かなり現実離れした話だったが、体験したことをそのまま伝えて良かったと確信する。
ありふれた話をするよりも、今まで聞いたこともない話をした方が楽しいと思ってもらえる。読者の方々の楽しそうな表情が見れただけで満足だ。
「ソウマ先生はこの物語を苦戦されたことがあったと聞いております」
「あ、はい。魔王について描いていた時なんですが……」
そこからは作品について、あらかじめ用意しておいたことを話していく。
トークイベント恒例の、制作秘話ってやつだ。これを目当てで来ている人もいるはず。
読者の方々も俺の話に耳を傾け、真剣に話を聞いてくれていた。
「制作時の話を聞かせていただきありがとうございます」
制作秘話について語った後、逢夢が深呼吸をする。
「『作者に届けこの想い!』 ここからは読者の皆様が作者に伝えたいことを伝えていただきます。作品の感想じゃなくても構いません。質問でもOKです。挙手をしていただければ指名します」
逢夢の宣言と共に、ぽつぽつと手があがりはじめる。学校みたいな感じで懐かしい。俺は生徒ではなく先生側なのは新鮮だ。
「はい、では8番の方」
8番の読者の方が立ち、
「ソウマ先生はどんな学生だったんでしょうか」
学生時代の頃を聞かれた。いきなり作品外のことか……学生のときはしっかりしてなかったからなぁ。面白い話にはならないだろうけど、まぁいいか。
「なにか人より秀でているものがないと思っていて、運動や勉強を頑張ろうとはしませんでした。楽しく生きてければなぁて感じだったんで、楽しいことを優先してました。気の合う友達とゲームしたりアニメの話をして盛り上がることが楽しかった、学生時代はそんな感じだったと思います」
学生の頃はとりわけなにかやってきたというほどのこともなく、きのあう友達と趣味の事で盛り上がるのを一番にしていたと思う。それだけでも人生ってやつはかなり楽しい。そういった気持ちっていうのは学生の頃とあまり変わっていないのかもな。
「ではお次は4番の方お願いします」
「ソウマ先生の好きな作家さんをお尋ねしたいです」
「『テラステラ』の創也先生、『ナイツ・オブ・リバイブ』の天上先生。その二人でしょうか。好きな作品の作家だから好きになりました」
好きな作家について話し、読者との交流は楽しいと思っている最中、
“ギャアアアアアアアアア”
絶望し奪うことしか望まなくなってしまった破壊の巨人の叫び声が、頭の中で響いた。
どうやら創造の壁を壊し、ジャイアントブレイカーがが動きだしてしまったようだ。
絵麻のためを思うならここできりあげていくのが正しいのかもしれない。
(創磨、ジャイアントブレイカーが動きだしました。ですが……)
(このまま読者との交流を続けよう、読者のことを放り出すことはできない。絵麻達ならきっと耐えてくれるさ)
俺達は読者との交流を優先する。絵麻達のことを信じて。




