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8話 その先にあるもの ④

 目覚めると逢夢は手をつないだまま俺をみていた。

 お互いにつながっていられることをとても幸せに感じ、自分から手を離そうとはしなかった。ずっとこうしていてもいい、そんな風にさえ思っていた。

 

「おはよう、逢夢」

「おはようございます、創磨」

 頬にかぶった薄桜色の髪は天女がまとう羽衣のようにたおやかに、星空のように輝く瞳は麗しく、つややかに光る唇を艶やかに感じた。

 普段みている逢夢であって逢夢ではない、それは不思議な感覚だった。

 逢夢への認識の変化を感じながらもそこに答えを求めることはなく、逢夢の手を離してベットから出た。


「絵麻達と連絡をとりたい」

「おつなぎしますね」

 創造世界に滞在しているであろう絵麻達に連絡をとった。

 

「絵麻、ブレイド、ティア、おはよう」

「おはよう。少し落ち着いたぽいね。なに?」

 絵麻が応対。声色だけで俺が落ち着いたことを察してくれた。

 

「今日のトークイベントで、答えみつけるよ」

 お願いはしなかった。なにがあろうとも決意を曲げるつもりはなかったからだ。それは心配してくれてる人達に対しては失礼だともいえる。迷惑をかけ続けているとも。


「悠長だね~その間に巨人が動いたらどうするの~」

 ブレイドの回答は当然だ。ティアが開発してくれた兵器によって動きを止めているだけで、いつ動きだすか解らない。是が非でも再び変身をできるよにしなければいけないこの状況下でそれはあまりにも無責任といってもいい。

 

「なんとかしてくれるだろ、絵麻達なら」

 そんなことを理解していながら俺は無責任なままでいることを選んだ。

 

「身勝手だな~けど、それがいい。それでこそマスター信じた相手だよ」

「創磨、あたし達に任せといて。絶対守ってみせるから」

 ブレイドと絵麻はそんな身勝手な俺の答えを喜び、一人の作家として俺を受け入れてくれた。


「まったくどいつもこいつも勝手なことを言いおって」

「ティア、すま……」

「謝ろうとするでない。貴様らと同じ道を歩むと決めた時から苦難があることはとうに解っておったわ。創磨よ、己の届けたいものに正直であれ。さすれば答えをみつけられるであろうて」

「他にはティアちゃん伝えたいことないの。「心配してのだ~!」 とかどう?」

「貴様は余計なことをいうな」

 心のこもった言葉を聞いてはずなのに、きずけば苦笑いを漏らしてしまうやりとりが通話越しでされている。いつも通りで安心する。

 

「絶対戻ってくる。それまでは頼むぞ、みんな」

「任せといてよ!」

 絵麻の了解をもってして、絵麻達とのつながりが途切れた。

 

 すべてを託し、俺は身勝手な道へと進む。ここまでしてもらってるんだ。答えをみつけたいじゃない。答えを絶対に俺はみつけるんだ。

 

 三葉堂書店 希望ヶ丘支店でのイベントは朝の11時から開催することになっている。

 会場は二階のイベントスペースを使うそうだ。『クリエイト・レイターズ』は世間的な知名度で言えばないに等しい。賞すらとっていないぽっと出の新人のためにどれくらいの人が来てくれるんだろうか。

 

 身内だからトークイベントを開催してくれてるようなもんだし、トークイベントをやるような器でないことは自分が理解していた。

 

 逢夢に案内されるまま本屋のバックヤードにある休憩室へ入ると、三編みの女性が本を読んでいた。この人のことは見たことがある。逢夢が働く前までは書店内でみかけたことがある程度の認識だったけど、逢夢が配信者として活動するようになってから名前も何度か聞いた。


(この娘が文藤こよみさんか)

 こよみさんは俺と逢夢が扉を開いて部屋の中へと入ると、読んでいた本を閉じた。

 表紙には『クリエイト・レイターズ』と書かれている。

 

「はじめまして、文堂こよみと言います。ソウマ先生、本日はご出演いただきありがとうございます。先生の本、とってもとっても面白かったです」

 書店員としての顔ではなく一人の読者としての顔でこよみさんはあいさつをしてくれた。

 

 動画や書店での姿はいつも落ち着いていたのに対して、一人の読者として目を輝かせている。作家に対しての憧れや尊敬、そういった感情は逢夢からも感じることはあるけれど、それはあくまで自分を創ってくれたゆえのこと。

 こよみさんのものは純粋に一人の作家に向けられたもの。逢夢とは違う嬉しさ。


「ありがとうございます」

 面白いと言ってくれたこと、一人の作家として見てくれていることに、感謝した。

 

「逢夢さんの知り合いだというのは驚かされました。まさかこんなにも近くに素敵な作家の方がおられるだなんて」

「素敵だなんてことは」

「素敵ですよ。心に届く物語を書いてくださったのですから」

 こよみさんの言葉には力強さがある。純真で芯が強い、裏表がない言葉とうのは穴の空いた心にも響くものなのか。

 

「本日のトークイベントではソウマ先生と読者の皆様にはたくさん交流をしていだこうと考えています。進行はわたし達でしますので、創磨はその都度質問に答えたり、伝えたいことを話していただければ構いません」

「話さない方がいいことはありますか」

「常識的な範囲でやっていただれば大丈夫ですよ」

 といった感じに、トークイベント前の最終確認をしていった。

 

 一通り確認を終えて、休憩室で出番を待つ。

「ソウマ先生、お疲れ様です」

「正谷さん、お疲れ様です」

 正谷さんと会うのは微妙にきまずさがある。あれだけのこと言われた、それなのにまだ答えをみつけられていない。それでもちゃんと目を見て話すことはできる。

 

 新しいなにかをみつけたい、読者と向き合う覚悟を決めれたからだろう。

 

「少し顔つきが変わったな」

「鋭いですね、正谷さんは」

「長い時間作家をみてきてるからな――これから読者と会うのに悶々としてたらなにか言うつもりだったが、その必要はなさそうだな。読者との交流、楽しんでこいよ」

 正谷さんは俺の肩をたたくと、休憩室を後にした。

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