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8話 その先にあるもの ②

「創磨、今日はずっとそばにいますね」

「逢夢がそれを望むなら……」

 逢夢が望むからっていうのもあったけど、このまま一人でいる方が怖い。俺は逢夢の提案を受け入れていた。

 

「着替えだけは済ませてきます」

 逢夢が着替えをしに部屋に戻っている間に、俺もパジャマに着替え直した。

 

「おまたせました」

 いつものパジャマではなく、生地が半透明な桜色のネグリジェ。逢夢の豊満の胸や露出され、女性いとしての魅力を引き出す服に着替えていた。

 

(どういうつもりなんだ……)

 明らかかにいつもと違う雰囲気だったのだが、

(まぁどうでもいいか)

 今はあまり考えことをしたくなかった。

 

「ど、どうでしょうか。この格好」

 露出度の高い服から見える、逢夢のふわふわとしたうさぎのような身体つきは理想的だと思う。キャラクターだからこそ、純粋に理想を追い求めることができる。こんなかわいい子がいたら、そうやって逢夢を俺は創り出したんだっけ。

 

「失いたくないと思うくらい、理想的な姿をしていると思う」

 ただ頭の中で思いついた言葉をそのまま伝えた。

 

「/////////////」

 逢夢は恥ずかしのか、リンゴのように顔が真赤だ。

 見られたがりだけど恥ずかしがり、いつも通りの反応をしてくれた。


「そっか……今、恥ずかしいこと言ったのか。なんかそれすらも解らなくて……」

「いいんです、わたしとっても嬉しかったので。失いたくない、そう言われたことが」

「そっか、そうなんだ」

 すごく恥ずかしがったのは、失いたくないと真顔で言われたからなのか。


「一人でいると色々考えてしまいそうだから、創磨といられて助かります」

「俺も……そうかもしれない。逢夢といるから、逢夢のことを考えられる。安心できるんだ」

 お互いに不安で、だからこそ一緒にいたいと思う。

 不安な気持ちでいるからこそ、誰かを求め、誰かと共にいたくなる。

 

(え!?)

 逢夢が俺の手をぎゅっと握っていた。

 脈拍が早くなるのがわかる。心臓の音が聞こえる。逢夢のことをもっと意識している。

 

「一緒に横になりませんか」

 特に断る理由もなく、逢夢と俺は同じベットの上で横になる。

 

 女性と一緒にベットの上で横になる経験なんてしたことはない。たぶん普段ならもっと緊張したりして、いろいろなことに思考を巡らせていたんだと思う。

 

「なにも考えず、わたしのぬくもりを感じてください」

 心が弱っていたせいはあると思う。逢夢の行為に甘えてもいいと判断し、女性としてお逢夢のぬくもりにひたる。

 

 誰かと一緒にいること。それがこんなにも暖かい気持ちにさせてくれるだなんて思ってもいなかった。

 

「創磨は女の娘とこういうことしたことあるのでしょうか」

「ないよ。こんなの初めてだ。ほんとはもっと緊張とかしてるんだろうな」

「そうだったんですね。わたしも男の人とこういったはじめてです」

「そうか」

 なにを言えばいいんだ。言葉に戸惑う。それでも逢夢の目を見続けてしまう。

 

 どんなことでも許してくれるようなその目をみているだけで、心がふわっとしていく。

 無意識に抑えてきた本能が刺激されていく。

 

 作者としてキャラクターという関係ではなく、男性と女声という関係。今はその狭間にいるのだろうか。

 

「よく頑張りましたね」

 逢夢はゆっくりと俺の髪をなでていく。いたわるように癒やすように、やさしくやさしく撫でてくれる。


 撫でられていると、逢夢のさらさらとした柔らかい髪がきになった。

 この長さ、この色、このまとまり、こだわった髪に触れてみたいと思ってしまう。

 

「きになるなら、わたしの髪も撫でていただいても構いませんよ。いや撫でて欲しいです」

 そんな俺の気持ちを察っしたのか、逢夢は俺に撫でてもらいたいと思ってくれていた。

 

 逢夢の髪を撫でると、気持ち良いと同時に愛おしいとさえ思えてくる。

 この距離で、この髪に触れることができるのは自分だけ。ずっとずっと抑えてこんできたものが解放され、より逢夢のことが可愛いと思えた。

 

 お互いのことを見つめあいながら頭を撫で終えると、逢夢が布団を払いのけて俺の腰にまたがった。考えが追いつかない。それでも逢夢が本気で俺のためになにかしようとしてくれているのだというのは伝わってくる。

 

 逢夢はネグリジェを脱ぎ下着姿をさらけだす。暗がりの中で光るやさしい微笑みは女性としての色を強くしていく。

 

「////////////」

 恥ずかしさで顔を真赤にしている。それでも逢夢はこの行為をやめようとはしない。


「創磨、辛いものは全部吐き出してください。わたしはあなたのすべてを受け入れたい。わたしを頼って欲しいんです」

 逢夢は必死に訴える。俺の辛さすらも受け入れようとしてくれる。


「わたしはあなたの創造です。どんな事も、どんな運命もわたしはいつでも受け入れますよ」

 気高くやさしい花は、ただ求めてくれることを望んでいた。

 

 このまま抱き寄せてしまえばすべてを忘れることができるのだろうか。

 すべて悲しみが癒やされれば、また立ち上がることができるとでいうのだろうか?

 

 逢夢はこれ以上のことはしてこない。自らが率先して癒やしとなりうる行為をしてこない。すべてを俺にゆだねてくれていた。

 

 淫美な裸体に迫られたまま、なにが今の俺のとって最善かを考える。

 逢夢の願いに応じ本能に溺れれば、悲しみは癒されるかもしれない。

 

 でもそれを本当に望むべきことなのか? それが創造を信じるということなのだろうか。

 ここまでのことを逢夢にさせているんだ。中途半端な気持ちで向かい合いたくはない。こんな俺を信じてくれる逢夢のためにも。


「俺は創造の中でなら、君を苦しい運命にさらし、その苦しさすらも利用して楽しい物を創る覚悟はできている。けどな、目の前にいる逢夢はこの世界で生きて、この世界の苦しみを知り、この世界で俺と闘ってくれる逢夢だ。そんな逢夢を悲しみを癒やすための道具にしたくはない」

 ここで逢夢に依存してしまえば、悲しいことがあるたびに逢夢に頼ってしまう。

 

「震えているのが伝わる……無理をさせてしまってるんだよな」

 逢夢にも迷いがある。それは手の震えからも伝わってきた。こんなやり方に頼っていいのだろうか、そう逢夢も思っている証拠だ。

 

「こんなやり方しか思いつかなくて。どうしても創磨のためになりたくて……迷惑だったでしょうか」

 今にでも泣き出しそうな声を逢夢は必死に絞りだしている。

 不安なのは逢夢も同じ。俺だけじゃない、逢夢だって不安なんだ。

 

「迷惑だなんて思ってない。嬉しかったよ。こんなにも俺のことを思って、不安をとりのぞこうしてくれていたのが」

 瞳に溜まった涙が頬をつたう。嬉しくて、幸せで流す涙。自分のことをこんなにも思って行動してくれた。それが嬉しかった。

 

「逢夢は本気で俺のためになりたくて、今できる最大限の覚悟をみせてくれた。俺は作家だ。そんな逢夢のように俺はすべてをささげて自分の弱い心と向き合いたい。向き合わなくちゃいけないだ」

 精神的にぼろぼろな状態でいるにも関わらず、俺はクリエイターであることをやめはしない。


 逢夢がすべてをささげようとしたように、俺もすべてをささげよう。俺に足りなかったものはすべてをかける覚悟。そんな大切な想いを逢夢はきずかせてくれた。

 

「あれ? わたしなんで泣いてるんでしょうか。創磨のためになれなかった、それなのになんで……」

「大切にしてくれたことが嬉しい、心からそう思えたからだと思う。それは俺だって同じさ」

 俺と逢夢はみつめあいながら涙を流す。お互いに大切に想いあい、つながりがあうことで共に生きていることを感じあう。そうあることで悲しみに染まった心にぬくもりが生まれ癒やされた。

 

 逢夢も同じように心にぬくもりが生まれたからだろうか、またがるのをやめた。


「今なら考えることができそうだ。逢夢がやすらぎを与えてくれた、今なら」

 お互いの手を握り、見つめあいながら、語りあう。


「逢夢はあの破壊の巨人がもつ願い、どう思ってるんだ?」

「売れて欲しい、たくさんの人に見て欲しい、打ち切られたくない、そう願うのは作家であるのならば当然です。創られたキャラクターであるわたし達も、多くの人にみられたいと思っています。見られなくなることは悲しいことですから」

 逢夢もたくさんの人に見られたいと思っているうちの一人。いや、作者はまだ他の作品でチャンスがあるかもしれない。でも逢夢達創られた者にはチャンスは一度しかない。それは大きな違いだ。


「俺も巨人がもつ願いを否定はできない。出版となれば売上は絶対に必要だ。本を届けるのだって無料でやってわけじゃない。時間やお金をかけてやっていること。利益となり、自分達のためにもならなければ続かない。読者のためだけじゃなく、自分のためになろうとすることは間違いだと思わないよ」

 読者のためになろうともするが、自分達の売上だって大切だ。個人ではなく会社が動いている。自分の生活だってかかっている人もいる。自分のためだ、そのことは否定されるべきではない。


「それでもさ、読者のためにという言葉を盾にして、自分達のことだけを考え奪うことは間違っている。あれが正しい願いだと思えない」

 奪うことでなにか得ようとすること、それは正しくないことだって俺もきずている。

 

「間違っている、そう正論を突き返すことはできそうですね。でも、創磨はその選択を選ばなかった」

「あの破壊の願いは弱さから生まれたものだ。強くあり続けることができなかった。流されて、流されて、間違った道に進んでしまった。俺はそんな弱い心にだって寄り添いたい。強くなることだけが創造の可能性だと思いたくないんだよ」

 すべての可能性を捨てる強さを得れば、創造の輝きを取り戻すことはできるのかもしれない。そうあることもきっと正しさのうちの一つだ。

 

 だけど俺は強さだけが正しいとは思いたくない、弱いがゆえにその気持ちを利用された人達の可能性も信じたかった。

 

「俺は逢夢と出会う前、たくさんの作品をみてきた。それは小説にかぎらない。漫画、アニメ、映画、ゲーム、物語としてこの世に生まれてきたものすべてを楽しみたいと思ってみたいたもんさ」

 一人の読者として一人の視聴者として、作品をみている時間もまた俺にとってはかけがえのないものだったことを思い出す。

 

「その中には小さなものあった。世間では流行ってはいないような作品だ。癖もあるものも多くて、楽しいだけではなかったと思う。解釈が難しいものもあれば受け入れられないものもあったけど、そんな中にも大きな花とは違う輝きがあることを知った。それをみつけていくのが楽しかった。だから俺は創造はたくさんの可能性を秘めている、そんな創造を大切にしたいって思えるようになったんだ」

 クリエイト・レイターズとして創造を守る世界を書いてみたい、世間で目立たないような作品も俺にきっかけを与えてくれた。大小関係なく創造が楽しいものだと思えていたから逢夢にも出会うことができた。

 

「それなのにただ正義をふりかざして、強くあり続けたら俺は俺でなくなってしまうきがする。小さくても花のように輝いている、俺はそんな創造を守りたい」

 小さな花の美しさもぬくもりもやさしさも全部守りたい。現実を理解していながらそんなことを主張するのはただの欲張りだっていうのは解っていた。

 それでも逢夢に想いを伝えたのは、逢夢には俺と同じ想いでいて欲しいという願いがあったからなのだろう。

 

「わたしもたくさんの本がみんなに届いて欲しいと思って本屋さんで働いていますが、売れないと判断した本は次の本を売るために返本を繰り返す毎日です。守りたいものを守れていません。創磨と気持ちは同じ。たくさんの創造のためになりたいと思っています」

 気持ちは同じだと逢夢は伝えてくれる。俺に同情したからじゃない。逢夢自身も日々生活する中で小さな輝きを守れない辛さを知っている、だからこそ孤独じゃないと思えた。


「俺達のように思ってくれる人はどれくらいいるんだろう」

「おそらく……それほど多くの人はいないでしょうね。みんなで楽しさをわかち合えるような人気作を楽しむ人々がほとんどです。それは悪いことではありません。人気作があるから、普段アニメをみない人達がみるきっかけになりえる。それがより大きな広がるを生んでいることは間違いありません」

 普段見ているそうではなく、見ていない層にまで広げる役割。それは圧倒的な人気作をつくりだすことでしかできないこと。国内だけではなく、国外にすらファンを広げてくれる。

 

「人気なものから奪った所で、見る層が減るだけ。それはジャイアントブレイカーに変えられた人達も解っていることだと思うんだ。ただ自分打ち切られたことには納得できない。だからすべてを変えようとしている」

 人気作に嫉妬して、打ち切られてしまったという現実は変えたくてしかたがない。

 自分の作品が一番であって欲しい。そう思うのもしかたのないこと。

 

「明日のトークイベント、読者と向き合うことで答えを見つけるよ。打ち切られたくないという、この想いを」

 左拳を握りしめ前へと突き出し、覚悟を伝えた。

 

「他人に頼りすぎかな」

「いいと思いますよ。自分の中で考えても答えが見つからないことは多い。頼るからこそ見つけられる答えはある。わたしもたくさんの人に教えてもらってばかりいます。頼ることは弱さではありません」

 その言葉が、その想いが、より心強く咲かせてくれる。弱くても向きあうことができる。それはきっとどんな想いよりも強いと信じるだけだ。


「なぁ逢夢、少しだけ頼まれごとをしていいか」

「なんでしょうか」

「今日だけは手をつないでいて欲しい。逢夢とのつながりを大切にしたい」

「わたしも、わたしもです、創磨!」

 俺は右手を逢夢は左手をのばし、肩を触れ合う距離で互いの手をかさねあう。

 そうすることでつながりは癒やしを、癒やしは眠りを誘い、夢の中へ誘われていた。

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