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7話 はじめての出版 ⑩

 たどり着いた場所はアウターワールド。逢夢、絵麻、ブレイドも転移させられている。

「ここって」

「どうやらアウターワールドのようですね」

「またベインの仕業でしょうか」

 ベインは事前に俺の所にしか来ていないのか、転移させられた逢夢達は戸惑っている感じがする。

 

「あいつは俺のことを壊したがってるんだ」

 特に説明はしない。ベインが悪いとだけ伝わればいい。後はどうでも良くなっていた。

 

「創磨、なんかされた?」

 良かった、絵麻は俺のことを心配してくれている。ベインとは違って、俺には仲間がいる。

 

「そうだ。あいつが悪いんだ、あいつが」

 良かった、良かった、良かった。これであいつを倒せる。あいつを倒せば、これ以上追い詰められなくて済む。

 

「戦力外のお荷物を抱えた気分はどうだ。お仲間ならよく解ってるんだろ、様子がおかしいことくらいは」

「またあなたがなにかしたんですね」

 静かな怒りを内に秘め、ギラギラと目を逢夢は輝かせる。許せない、そう俺と同じように思ってくれている。


「事実を教えてやってだけだ。そもそもそいつは勝手に自滅していた。俺が悪いんじゃない、弱い心のままでいるやつが悪い」

 正論。それを大事な仲間にもベインは聞かせる。いらつく、むかつく。


「もうどうでもいいだろ、そんなこと」

 吐き捨てるような言い方で、ベインに食ってかかった。

 

「創磨?」

「さっさと手駒をだしてこい。どうせ用意しているんだろ。敵を倒す、そうすればすべて終わる」

 驚き戸惑う絵麻を無視して自分勝手に話を進める。怒りをぶつける、それがやりたいこと。


「いいだろう。これ以上お前と話しても同じようなことを言わないだろうしなぁ」

 ベインは5つの破壊球を同時に出現させる。赤い破壊の炎が人の形を形成していく。

 見た目はどれも同じ。全身が炎に包まれ、足、手、顔、口、目、耳、それらがわかる程度の形しか保っていない。破壊の炎人が5人、これが今回の破魔らしい。

 

「このブレイカーがどんな願いから創られたか、教えといてやるよ」

 くくく、にやにやと笑いながらベインは答えを告げる。


「こいつらは「打ち切られたくない」、そんな願いから創りだしてやった。こいつらが求めてるのは創造の平均化。ようするに人気作家から読者を奪いたい、自分のためになぁ」

 馬鹿にしたような言い方で、ベインは破魔達された人達の真意を面白おかしく伝えた。


「人の心をもてあそんで、そんなに楽しいか」

「おいおい、作家であるお前がそれをいうのか。お前だって物語の中で人の心をもてあそんできているじゃねぇか」

「あなたと創磨は違います。創磨は読者を楽しませたい、幸せにしたいと思っている。あなたのように私利私欲のためだけではありません」

「願いを叶えようとしている、それは他人のためってことにはならねぇとでも。自分の言い分を通すためならなんだっていいやがるのか。創造主様のためなら他のやつらどうでもいい、そう思ってんだろ」

 それはたぶん図星だったのだろう。悔しそうに口をつぐみ、目が揺らいでいる。

 俺だけならまだしも、逢夢までも不安にさせようとしているだなんて不快な奴。


「あいつのことはきにするな。あのブレイカー達を倒そう。逢夢、変身だ」

「あたし達も」

 

 逢夢とブレイドはクリエイトブックを取り出し

「レイター・ブリリアントチャンジ!」

 創造の輝きをみにまとう変身をはじめていく。

 桜色の花びらが吹き荒れる中で、クリエイトは桜色のコスチュームを創り髪を伸ばす。

 ブレイドは狼を斬った蒼い灰から青い剣士服を創り、蒼輝刀剣にまとわせた蒼炎で円を描いた。


「未来へ続く創造の輝き、レイ・クリエイト」

 逢夢はレイ・クリエイトに、

「すべてを切り裂く創造の輝き、レイ・ブレイド」

 ブレイドはレイ・ブレイドに変身した。

 

「やつらを倒せ、ブレイカー共」

 ブレイカー達は一斉に走りだす。なんの策も能力も使用することなく、ゲームに登場するゾンビかと思うくらい単調な動き。中ボスではなく雑魚敵。倒してくださいと言わんばかり。

 

 ブレイカーの一人がクリエイトに向かって突進してきた。炎の身体が武器、ある程度の距離まで近づくと火力を強め急加速。速度の急激な変化によって攻撃を当てようとしており、なにも考えていないというわけではないらしい。

 

 クリエイトは冷静だ。急加速に対しても驚くことはない。

 対応できると判断。闘牛士のように突っ込んでくるブレイカーの一人を交わしていた。

 

 さらにブレイカーの無防備なを背中を回し蹴りで狙う。

 ブレイカーはビリヤードの球かと思うくらい勢いよく吹き飛ばされ、白い床に何度も身体をうちつけ動かなくなる。あまりにもあっけない終わり。手応えがなさすぎる。

 

 1人、2人、3人、4人……特に対処のしかたは変わらない。

 それどころか突っ込んでくる前に、創造球で攻撃すらさせない相手もいた。

 

 とりわけ語ることもない相手。

「なにがしたい」

 どうせ前哨戦なんだろ、そのつもりでベインに聞いた。

 

「倒してもらいたかったのさ。打ち切られたくない、そんな純粋な願いを持ってる奴らを。そうすれば、こいつらは味方じゃないと思える。より憎悪を燃やせる。本番はこっからだぜ」

 ベインは見たこともないくらい、巨大な破壊球を転移させた。


「ブレイカー共、破壊力を燃え上がらせろ!」

 さきほど倒したはずのブレイカー達も巨大な破壊球の元へと戻り、人の形を形成していく。破壊の炎を燃え上がらせているのは同じ。大きく変わったのはその大きさ。


 それは巨大なビルだ。しかも20階くらいはある。足も腕も胴体もすべてが長く、そして太い。クリエイトやブレイドが殴りつけてもびくともしないほどに。


「ウォオオオオオオオオオオオン」

 けたたましい叫び声をあげ、耳鳴りがひどい。おぞましいほどの人達が一斉に声を重ね合わせているようにも聞こえた。

 

 人の怨念、恐怖、迷い、ネガティブな感情が巨人から溢れている。

 

――もっと売れたい、人気になりたい。どうしてわたし達のことを無視するんだ。

 それは俺が作中で創り出した打ち切られた作家と同じものだった。

 

「こいつはジャイアントブレイカー。打ち切られた作家達の純粋な破壊力を集めて創り出した。お怒りみたいだぜ。打ち切られた作家を躊躇なく倒したんだからなぁ。お前らもいらないと思ってんだろ。つまらないやつには消えて欲しいと。そうじゃなきゃ退屈でしかたがねぇもんな」

 それは違うだなんて言えない。つまらないものが残り続けても読者は離れていくだけ。打ち切られてしまうことはしかたのないこと。

 

「半端な覚悟じゃのみこまれるぜ。見せてくれよ、こいつらとどう向き合うのかを」

 ジャイアントブレイカーは怪獣みたいに動きが遅く、ゆっくりゆっくりと歩きだす。そのたびにアウターワールドにあるものすべては揺れた。

 

「打ち切られたくない、それは理解できます。それでも他人の読者を無理やり奪うだなんてやり方は間違っています」

 クリエイトは間違いを指摘し、その行いを止めさせようとする。


「読者が選び、読者にゆだねる。そうあるべき」

 ブレイドは読者にすべてゆだねるべきと訴えかける。


「そうだ、読者のためになるべきなんだ」

 そんなブレイド達の言葉に便乗して、正論をかざした。


 どれも正論、誰もがうなずくような言葉。そうあるべきだ。そうするべきだ。これに異論を唱えることはないのだろう……打ち切られた者以外は。

 

「ギャアアアア」

 嫌だ、そう叫んでいるかのように、おぞましい雄叫びをあげる。

 そんな正論なんて聞き飽きた。そんな言葉を受け入れたくはない。

 

 ジャイアントブレイカーの狙いは俺達ではない。ブリリアントシールドを破壊しようと、巨大な拳をブリリアントシールドへとぶつけはじめる。

 赤い染まった破壊力の炎の力はあまりにも大きい。素手でなぐっているはずなのにその巨大な破壊力で確実にブリリアントシールドの輝きは失われていく。

 

「しかたない、あいつを止めよう」

 ジャイアントブレイカーはの破壊力は圧倒的。このまま攻撃を続けさせるわけにはいかない。


「創造の衝花・クリエイト・インパクト」

 ジャイアントブレイカーの巨腕を狙って、クリエイトは創造の輝きをこめた拳を撃ち込んだ。 拳が巨腕にめりこむほどの衝撃。おおぶりであろうともこの巨体ならば逃げ場はない。力を1点に集中させより創造の輝きを強め、巨腕にダメージを与え続けようとしていた。

 

「グァアアアア」

 クリエイトの動きを止めるべく、ジャイアントブレイカーは右手で左腕を叩くと、

“バチン”

 建物が崩壊したときのような巨大な音が響いた。

 

 ジャイアントブレイカーからしたらハエ叩きみたいなものかもしれないが、小さなクリエイトが直撃したらただでは済まされない。

 

 クリエイトは叩かれようとした段階で難を逃れ、ジャイアントブレイカーの頭上にいた。足元に溜め込んだ創造の輝きを放出して飛び上がっていたのだ。

 

 上空から見えるジャイアントブレイカーは、髪は生えておらず赤く染まった燃えるような頭皮がさらされているだけ、狙うならここか。


「創造の弾花、クリエイト・ショット」

 破壊力が燃えていない防御が薄い頭部、そこへ創造の輝きを込めた創造球を発射した。

 

 防御が薄いと思われる場所に攻撃すればいくらなんでもあの巨人だって……

「効いてないのか」

 しかしまったくの無傷、赤い光の波紋が創られるだけでダメージを受けているようにはみえない。

 

「蒼の風、蒼刃斬」

 ブレイドも蒼いかまいたちを飛ばして攻撃してくれるが、破壊の炎によって防がれていた。

 

 軽い攻撃じゃびくともしない。もっと威力の高い攻撃をぶつけないと。

「この程度じゃだめだっていうのなら、最大威力の攻撃をぶつけるだけだ」

「はい」


 クリエイトと俺は両手を前にかざすと、

「根源は紡がれし創造の輝き、今一つとなりて解き放つ」

 クリエイトの手に光輝く創造の輝きが集まっていく。

 

 創造の輝きを膨らまして、強力な創造の輝きをぶつける技。破壊力がどれほど強かろうが倒してみせる。


「クリエイト・バスター」

 創造力きを膨らませたものを解き放つと、大きな創造力の塊が光となって直進をする。遮るものはない、眼の前にそびえ立つジャイアントブレイカーに直撃した。

 

 ジャイアントブレイカーは創造力を浴びながらも、逢夢のいる方向に手を伸ばしている。

 直接触れて逢夢の動きを止めるつもりでいるらしい。

 光輝く創造力と破壊力の炎はぶつかりあい、衝撃波と爆風が吹きあれる。


――邪魔をするな!

 破壊の意思に囚われた人達の意思が、創造と結びつき流れこんでくる。


――どうせ売れないのなら、人気のある奴らから奪う。それが我々の願い。

 破壊の炎を強く燃え上がらせ創造の輝きを防ぐ中、破壊力が俺にまで伝わってきた。


――誰もみてくれないのは嫌なんだ


――売れないのはもう嫌なんだ!


 これが破壊力を創り出した人達の想い。それは俺の中にもあるもの。


 このまま拒絶すれば、この人達は救われるのだろうか。

 たくさんの人に創造が届くとでもいうのだろうか。

 苦しんで苦しんで、それでも消えるしかなかった。この人達だって自分の創造を信じて闘ってきたはずなんだ。

 

(俺にはこの人達を否定する理由があるのか?)

 同情し闘うことへの疑問が生まれた。それが引き金になったのだろう、一気に破壊力がなだれこんでくる。

 

(打ち切られたくない、打ち切られたくない)

 きがつくと、俺の身体から赤い破壊の炎が燃えあがっていた。

 それなのに居心地が良いと思えてしまう。この願いの先にあるもの、それを自分の手にすれば救われると思ってしまった。

 

「創磨! 力が消え……」

 心配する声が響いた同時、クリエイトから創造力が失われ、変身が解けた。


「俺のせいか、俺の」

 変身が解けた逢夢を見て、責任は自分にあることを確信する。逢夢はなにも悪くない。

 向き合いきれなかった、すべては俺の責任だ。

 

「おいおい、どうしたさっきまでの勢いは、まぁ、自分のためだからしかたねぇか! 打ち切られたくない、自分のためならなんだっていい。、そう思ったんだろ。なぁ、なぁ!」

 見下した歪んだ眼差しを向け、ベインは楽しそうにし煽られる。

 読者のためだとか言っておきながら、考えることは全部自分のためになることばかり。

 

(なにが読者のためだよ……その先のことを考えないくせいに、自分のことばかり)

 自分が情けなくて、消えてしまいたい。こんな自分なんて……そうやって、いつまでも自分のことを責め続ける。どうしようもない自分が嫌で嫌でたまらない。

 

「壊せ、ジャイアント・ブレイカー」

 ジャイアントブレイカーの巨腕が逢夢へと迫っていた。

 クリエイトでなくなった逢夢は機動力が失われ、逃げることができない。

 

 抗う力はもうない。なすすべもなく破壊の炎で燃やされるのを黙ってみていることしかできなかった。

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