7話 はじめての出版 ⑦
月日が過ぎ去るのは早く、5月、GWの真っ只中にいた。
書いては消して、書いては消してを繰り返し、積み重ねられたものを壊してはまた創り治す日々。
(どうすべきなんだろうか)
どう打ち切りと向き合うべきなのか、答えは未だに見えない。
打ち切り作品が出た時のネット声にも耳を傾けたことはある。
――どうしてあれは終わらせたんだ。
――あれは終わるべきだった。
――つまらかったからだろ
――あの作品の方がつまらないから打ち切られべきだったんだ
――そうやって作品話題にだすなよ
――打ち切られたのは残念。次こそは頑張ってください。今までありがとう。
冷やかすものもいれば、大切だった作品のことをけなされて怒る人もいる。
打ち切られたことに対して残念がり、作者のねぎらいの言葉を伝える人もいる。
「ネットの声だけがすべてってわけじゃないけど、打ち切りに関する読者の目線の参考くらいにはしていいのかな」
それを見た所で、これが物語の本質を変えるようなものにはならない。
この声の一部を拾い上げて、打ち切りについて考えを伝えることできる。
でもそれだけだ。それが物語の作用しなければ、参考程度にしかならない。
その言葉を聞いて、どう思いどう行動するのか。そこまで考えなければ、物語にはならない。
キャラクターは動いてくれない。こうあって欲しいと思う展開が創造できない。
「作者としての視点、読者の視点、キャラクターからの視点……描くべきものはありそうだけど、指針となるものがないな。打ち切られてたくない、その想いに対して寄り添えような言葉。それが見えてこない。正論ならいくらでも言えるのにな」
採算がとれない、だからしかたのないことだ。それがもっとも解りやすい正論。
それはでも寄り添うことにはならない。ただ事実を突きつけるだけの行為は物語はない。
「頭が回らない。いったん違うことでも考えるか」
なにも考えることができないことが不安で、それを忘れるために他のことを考えはじめる。
「もうすぐ俺の本も出版されるんだよな」
今、一番きになっていること。それは出版日が近づいているということ。
こうやってあれこれ次のことを考えている間にも、出版日が近づいていた。
打ち合わせを何度かし、希望出版からの告知もされている。
『クリエイト・レイターズ』
『創造×ヒーロ。これは創造を守る物語!』
短いあらすじのほか、絵麻の描いた表紙が表示されている。
「やっぱ何度みてもいいもんだな」
SNSを開いて、告知された表紙をみるとつい、にやついてしまう。
「出版を迎えるのって、こんな気持ちなんだ」
嬉しくて、期待に満ちた瞬間。不安な気持ちもあるけれど、期待の方が上回る。
ここまで逢夢と共に考え創り上げてきた作品だ。多くの人に読まれて欲しい。その想いは日に日に強くなっていく。
「打ち切りを題材にするにしても、作品が見られる嬉しさっていうのは描いて方がいいんだろうな」
向きあう以外の部分、嬉しさにスポットライトを当てることで物語の内容を膨らますことはできる。
ネガティブなものばかりを描いていても、きつい話にしかならない。
「その部分も描いておくか」
自分の経験をもとにしながら、今書ける範囲のことを書き進めた。
GWが終わってから3日後、『クリエイト・レイターズ』の出版日になった。
朝からそわそわするものの、どうしても仕事を休まないといけないわけではないく普段どおり出勤はした。
朝礼を終えて、普段どおりの仕事をこなしていく。
もう売られてる頃かな、そんな事を思いながら仕事終えると、逢夢が働いてる書店へと足を運ぶ。
「あった」
今月の新刊として、自分が書いた小説『クリエイト・レイターズ』が並んでいる。
比べるものでもないんだろうけど、どんな本よりも輝いてみえる。自分が描いたものが一番輝いて欲しいと思ってしまうのは、我が娘を愛する気持ちと近いのかもしれない。
「創磨、おつかれさまです。来るの待ってましたよ」
「あたし達もいるよ」
本を手に取って表紙をみていたら、逢夢、絵麻、ブレイドが手をふりながらやって来た。
「俺がここへ来るのを待ってたのか」
「一緒にお祝いしたからね~」
ブレイドはニンマリした表情のまま、頭を下げ俺の顔を覗いていた。
「あたしが描いた表紙、やばいよね!」
「おう、まじでいいな」
「でしょ~」
俺が描いた物語は俺だけのものじゃない。
絵麻が書いた表紙には、逢夢とクリエイトの姿が描かれている。この姿を読者に届けられるのは絵麻のおかげだ。
「おめでどうございます、創磨」
逢夢はお祝いの言葉をのせて自分が書いた小説を両手で手渡した。
「「おめでとう~」」
店内にいるお客さんに配慮して、控えめな拍手を絵麻とブレイドはしてくれた。
「ありがとう」
年甲斐もなく笑顔がこぼれてしまう。やべぇ~すげ嬉しい。こんなにも大切にしていきたいと思えるありがとうはそうそう聞けないだろうな。
「今が最高だなんて思わないでよ。これって入学式みたいなもんだから」
「解ってるって、ここからだっていいたいんだろ」
絵麻は、まだまだこの先にもっと大きな喜びがあると考えいそうだ。
ここじゃなくて、もっとその先か……今の俺には少し考えつかないことだけど、いつかはその先までみれるといいな。
「ティアちゃんも来てくれたら良かったのに~」
「絵麻がからかうから、こないのかもな」
「それ言っちゃうの! かなしいよ~」
「絶対悲しがってないだろ」
絵麻はしくしくと涙をふくようなしぐさをしていたが、舌をペロッとだしてにやりと笑っていた。
「ティアちゃんのツンデレ報告は創磨に任せたよ。あたし達はもう行くね~」
「おう、わざわざありがとな」
「礼は言わなくていいよ。あたし達が来たくて来ただけなんだからさ」
肘でこずかれ少し前のめりになりながらも、手をふる絵麻とブレイドに手をふりかえした。
あいつらといると元気をもらえる。絵麻が担当イラストレーターで本当に良かったな。
「創磨に伝えておきたいことが」
「なんだ?」
「本屋で『クリエイト・レイターズ』のトークイベントを開催することになりました。出版社の方と話は進めてあります。読者との交流をメインにしていく予定です」
嬉しい気持ちが倍増する、逢夢のサプライズ。トークイベント、俺が!?
「いつのまにそんなことを」
「ちょうどオリジナルソングをあげた直後ですね。わたしがモデルのキャラクターですっていうことをアピールしつつ、動画配信をしていることをお伝えしました。編集の正谷さんにも話を通してもらえて実現することが決まりました」
逢夢をモデルに描いたこと。そして逢夢がこれまで活動してきたものをみて、開催を決定してくれたんだろうな。
「嬉しいことが続くな~」
「創磨にはたくさん喜んでいただきたいと思っていますので」
これだけ頼りになるキャラクターが側にいて、力を貸してくれる。俺も頑張らないと。
「買ってくるよ」
希望出版から献本が送られてきてはいたが、自分の書いたものを自分自身で買って本棚に置きたい。『クリエイト・レイターズ』を手にとりレジで購入を済ませた。
「あ、手にとってくれてる人がいる」
再び本棚の方へ戻ると、『クリエイト・レイターズ』を手にとる若い女の娘がいた。
裏表紙までもじっとみつめて買うかを悩んでいる。「これ面白いですよ」なんて宣伝文句でもいいだしてしまいそうだったけど、さすがにそんなことをすれば変な人だと思われて逆に買ってもらえなくなる。
買うのを判断するのはあくまで読者だ。そこに作者は介入することはできない。選ばれる物と選ばれない物、ここにある本は等しくその裁定を常に受けている。
「どうやら買ってくれるみたいですね」
しばし悩んだ後、その若い女の娘は俺の本を手にとりレジへと向かう。
それをみて涙が出そうになってしまうくらい目が熱くなる。喜びというものはふいにやってくるものだとこの時思った。
「ありがとう」
聞こえてしまわないような声でその若い女の娘に、今日買ってくれたであろう人達にお礼を言った。




