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7話 はじめての出版 ④

 絵麻達と別れ自宅に戻ると、すぐに執筆をはじめていく。


 1巻の発売を控える中、2巻の内容を書き進めていた。

 キャラクター達と寄り添い、心の息遣いにあわせて、キーボードを叩いていく。

 降っては消えていく文字をつかんで、形の解らないパズルを創っていく。本当のすべてのピースは埋まるのか、そんな不安を感じながらも創造をすることをやめることはなかった。

 

「とりあえずこんなところか……う~ん、でもなんかしっくりこないな。かといってずっと一人で悩んでるだけじゃ解決しなさそうだし送ってみるか」

 それから一周間後、1巻の出版を迎えぬ間に2巻をみせれるレベル程度には執筆し終えた。

 穴だらけでまだ完成とは程遠い感じではあるけど、悩んでいるよりかは編集の正谷さんに送った方が突破口が開けるはず。書けた分の原稿を送り、不十分だと思う点もメールで伝えた。


「ソウマ先生、お疲れ様です。原稿、色々と悩んでだなぁていうのは文章にもでてたな」

 2日後、正谷さんとオンライン通話で連絡しあうことになった。

 WEBカメラごし正谷さんの表情がみえ、同様に俺の姿も正谷さんがみている。2巻目をどのような形にしていくか、1巻の出版を控えている中でも仕事して確実に次のことは考えていく必要がある。

 

「売れるものと売れないもの、『打ち切り』を題材に扱うのは悪くないが、他人事みてねぇな印象を受けた。「売上なんて関係ないよ、あなたやりたいようにやってみること、あなた自身の創造を信じて欲しい」、この台詞なんていうのは特にな」」

「そこは逢夢としては正しいかもしれないと思っていちおう残しました。作者感覚では嫌ですけど、読者感覚としてどうか聞いておきたくて」

 突っ込まれると思っていたことに対し、あらかじめ用意しておいた言葉を伝えた。


「逢夢って、本屋の店員だよな」

「はい」

「だったら売上無関係ないは変だろ。それに、だいたいの読者も売上が関係ないっていうのに共感しねぇと思うぞ。読者も働いてる人間が多い。働いている人間なら売上をあげる大切さ、お金を得る難しさ、っていうのはよく解ってるもんだ。それをごまかすのは違うと思わねぇか」

 正谷さんの言っていることはもっともだと思う。読者視点でみても受け入れずらい感じになっている。


「売上が関係ないっていう主張は、やっぱりやめた方がよさそうですね」

「俺にみせるまでもなく、省く予定ではいたみたいだな」

 もともしっくり来てなかったけど、根本的な理由をつかめたのはでかい。こういった形で指摘してもらえるのは助かるな。

 

「ただ売上だけ大切にするみたいなのも嫌で……そうじゃない作品も大切にしてあげたい気持ちもあると思うんです。打ち切られる作品について、編集者の正谷さんは考えていますか」

「俺が担当している作品の中にだって打ち切らざる得なかった作品はたくさんあった。それでも打ち切ったことを間違いだなんてことは思わない。たくさんの読者に支持されてている、それが売れるってことだ。商業作品っていうのは売れるものを創る場だと思っているよ」

 正論、それを正谷さんらしい答えだと思う。どこに間違いがあるのかっていうくらいの完璧な解答だった。


「その正論を伝えることが本当に正しいことなんでしょうか……」

 針の抜け穴すらない解答だからこそ、疑問に思う。逃げ道のない、そんな場所に連れて行くことが逢夢がしたいこと? たぶんそんな風に思いたくないんだろうな。


「物語の中の逢夢やソウマは簡単に割りきらないだろな」

「正論なはず……なんですけどね。創造を大切にしていると言っておきながら、打ち切られるような作品や作家に寄り添うことはしない。それが正しいことだとは思えなくて」

 正谷さんに話す前から、この答えにずっとたどり着いていた。

 物語におとしこめていないのは、どうすれば寄り添うことができるかが解らないから。

 

「俺が『打ち切り』を題材にしていいんでしょうか」

 自分の力量で書ける題材なのかどうか、不安に思っていた気持ちを吐き出す。答えをこのまま見つけられないのではないか。その不安は増すばかり。


「どうしてそう思う」

「もっと立派な実績がある人。まだ本すら出版したことのない、俺が扱っていいのかなって」

「書きたい、そう思ってはいるんだろ」

 正谷さんは自分の心を見透している。本当にやるべきことをやれ。そう言葉と目で語りかけている。威圧感はない。それは覚悟を確認する目。

 

「本屋で物語を描いていた時、書きたいなって思ったのがきっかけでした。作家の不安、それは創造を守るうえで書かなきゃいけないと思えたんです」

「ならその直感を信じて書けばいい。ベテラン、経験……そんなのは逃げるための言い訳だ。それを理由にする必要はないだろ」

 逃げるための言い訳か……確かにそうだ。俺は不安だからって逃げようとしている。寄り添うことができないと諦めて。

 

「打ち切られた作品や作家は無視をする、それじゃあ『創造』をテーマにした意味がない……考えてもどうにもならないかもしれない、それでもちゃんと向き合ってみようと思います」

 なにかを解決させる言葉ではない。これは決意だ。揺るぎない決意でしかない。

 迷いはなにもなくらない。だけどその決意には意味があるように思えた。


「考えるうえで、きっかけみたいなものがあるといいんですけど」

「打ち切られた作品は読んだことあるのか」

「ありますよ」

「ならもう一度振り返ってみるのも、いいんじゃないのか」

「振り返る……そうしてみます」

 打ち切られた作品、それは深く深くもう取り出すことのない記憶の倉庫にしまってあるようものばかり。自分が描く題材として、その記憶の扉を開けるだなんて思ってもいやしなかった。


「今日はこんくらいにしとくか。いい感じになったらまたみせてくれ。」

「ありがとうございました」

 正谷さんとの通話が終わると映像が途切れた。

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