7話 はじめての出版 ①
桜が咲き乱れ、世間はすっかり春模様。世間の関心はこれからの新生活と花見に向けられていた。
さて一方絵麻を含めた俺達はというと、浮き足立つ世間の流れとは違う目的でティアの部屋に集まっていた。
「休日に集まってだなんて……ティアちゃんいいよ、ベリーいいよ、ハイパーいいよ」
謎に絵麻はうわついている。お呼ばれしたってことは当然うふふふな展開になるってことじゃん! 的なことは思っていそう。ニヤケ顔を圧倒的に隠せてなかった。
ティアのことを知っている俺からすれば、勘違いしてるのは確定的ではある。まぁ、あえてここはなにも言わないでおこう。
「なにを勘違いしておるのだ、貴様は」
ツン! ティアは当然のように釘を刺す。
「そんな塩対応しなくていいって。遊びたいんでしょ、解ってるって!」
「遊びたい? なにを言っておるのだ貴様は。我はブレイカー二人に襲撃された際の状況を確認するために召集したにすぎんぞ」
「え~そんな~」
くたびれた花のように首が折れて絵麻はがっかりモードに突入……かと思ったが
「でもそれってティアちゃんがあたし達のこと心配してくれてるってことだよね。もうデレちゃって~」
くたびれていたはずの頭はにょきにょきと持ちあがり、笑顔の花を咲かせている。ブレイドもそんな絵麻のやりとりをみてニコニコしていた。
「デレてなどおらんわ!」
ティアはそんな絵麻の態度もきにくわないのか、強く否定をしてみせた。絵麻的にはツンデレ美味しいって感じだろうがな。
「とりあえず、襲撃された時のことをまた話せばいいのか?」
このまま絵麻達に舵取りを任せると話が進まなさそうだったので、微調整はしておくか。
「話す必要はない、貴様らの記憶を共有する。貴様らはなにもせずともよい」
ティアの手から緑色の光の粒子がでている。この緑色の粒は創造の輝きと似ている、おそらくそれに類するものなのだろう。
「いくぞ」
ティアの合図の後、あの時の光景が走馬灯のように流れていく。それは俺達のものだけではない、絵麻達のものも流れていた。絵麻の友達が生み出した破壊力で創られた紛い者。天上先生の創造力を模倣しているからか、話で聞いていたよりも大きな力を持っているように感じる。それを絵麻はブレイドと協力して倒したのか。
「もうよいぞ」
記憶の共有は3分ほどで終わった。
その後すぐに絵麻と顔を見合わせる。記憶を共有したからかあの時の戦いがお互いに他人事じゃない感じがしているからなのかもしれない。
「貴様ら、この戦いの後にどう思った?」
記憶の共有だけにとどまらず、ティアはさらに詳しいことを知ろうとしいる……いや、どう認識しているかを確認したいからこその質問か。
「親しい人を闘いに巻き込んでしまった。ベインを許せないとも思いました」
「あたしも」
逢夢や絵麻は普段は怒らないけど、今回は友達が狙われたということもあってか怒りを隠せないほどになっている。嫌悪感を感じるほどにはベインのことを許せないと思っているんだろう。
「俺もティアを破魔に変えられた。創り出した俺の責任もあったが、利用されたのも事実。だから顔見知りじゃなかろうと同じように利用されるのはやっぱり嫌だよ」
俺だって同じだ。ベインに利用された、そのことに嫌悪感を抱いたのは確かだ。
「わたしゃはマスターを守るために強くなりたいって思ってる」
ブレイドは強くなりたいと思っているのか。嫌悪感よりも先に守りたいという言葉がでるあたりブレイドらしいな。
「一番具体性があるのはブレイドだが、誰一人として軽く考えておらんのは評価できるな」
「強くなるにはどうしたらいい」
なぜティアが俺達を召集したのか、その意味をようやく理解し、それを確認するための質問をした。
「経験を積む、研究を重ねる。貴様が描いていたことをするのが妥当だと我も思っておる。これから貴様達には模擬戦をしてもらう」
感情論ではなく、現実的な方法をティアが提示する。
「やるなら本気でってことだな。場所は?」
「我が新設した魔王城だ、いくぞ」
ティアが床下に魔法陣を展開、俺達はティアが創りだした魔王城に転移した。
「ここが魔王城……クリレに登場したものと似てるんだ」
「参考にしたまでのことを。その方が創りやすかったのでな」
ティアが創り出した魔王城、それは俺が作中で創り出したものと似ていた。
「あの太い柱はなんだ?」
「どれどれ?」
「あれだよ、あれ」
指を指して絵麻にどれかを教える。魔王城を支えている柱とは明らかに違う、黒い柱が存在していた。
「情報集積と空間防護壁、それを兼ね備えた装置だと思ってくれればよい」
ティアが魔王の時にも簡単に俺達の動向を覗いていたくらいだし、ちゃんと対策をしておく方が研究施設としては安心か。
「ここならなにしても敵にばれないってことだね」
「おそらくはな……」
完全に大丈夫だとティアが言いきれないのは、それだけ破壊王ベインの力は底知れないということ。常に警戒していたほうが本来はいいくらいなんだろうな。
「ここでバチバチやりあうの? なんか高そうな機械が目白押しだけど」
「こんな所で闘ったら機材が壊れる。闘技場へ向かう、ついてこい」
魔王城内の廊下を歩き、闘技場へと向かう。
廊下には赤いカーベットが敷かれ、大部屋とつながっている扉がいくつもある。一人で歩き回るには持て余しそうではあるが、魔王軍が在籍していたとなればこれくらいの規模は必要だろう。以前は内部を見回ることはなかったので、ここまで再現されているというのは創り手として素直に嬉しいものだ。
「ついたぞ」
廊下を右に左へ、そして長い階段を降りた先に闘技場があった。
闘技場内は城内とは思えないほどの広さ、現実世界でたとえるのならばドーム2つ分以上の大きさがありそうだ。
「あれってティアが創った兵器か」
「そう思ってくれれば良い。試作品も混じっておるがな」
さらにそこにはティアが創り出した兵器があった。ここでは試作兵器の実験も行っているようだ。
俺達が仕事にでている間、ここにたびたび来て戦力の補強をしようとしてくれている。見えない所でなにかと頑張っていてくれていると思うと、頭をなでて褒めたくなってくる。まぁそんなことをすれば噛みついてきそうだけどな。
「ここなら思う存分戦えそうだね。手加減はしなくてもいいよ、わたしゃと絵麻を倒すつもりできてよ」
「あたし達は負ける気ないからね!」
模擬戦とはいえ、どちらが現状上か決める闘いにはなる。シチュエーション的には熱い、二人がやる気がなっているのはこの戦いが楽しそうなものになると思ってくれているからだ。
「俺達も負けるつもりはない」
「全力で闘いましょう」
模擬戦ではあるものの、全力でぶつかりたい。物語みたいな展開でワクワクしてくるな。
「「レイター・ブリリアントチェンジ」」
逢夢はレイ・クリエイトに、ブレイドはレイ・ブレイドに変身、闘技場の中央付近へ二人は飛んだ。
「我が合図したら模擬戦を開始してくれ」
二人はおおよそ二百メートルほど離れ、お互いの顔を見合う形で立っている。
ブレイドは落ち着いた様子で視線をクリエイトから外さないが、クリエイトにはなんだか落ち着かないよう様子。まだ状況に心が追いついてきてないのか、どういった心境で戦えばいいか解っていないのかもしれない。
(クリエイト、この戦いを楽しもう。ブレイドに負けない姿をみせてくれ)
(はい、創磨)
俺の意思をクリエイトに伝えると、迷いがなくなったことを証明するかのようにクリエイトはブレイドの視線を見つめ返した。
負けない姿をみせてくれとまでは言い過ぎだったもしれないが、手加減させないためにはこのくらい強い意思を示したほうがいいはず。それに俺も遠くからみているとはいえ、クリエイトの助力できる立場。勝たせてやりたいと思うのは親心なのかもな。
「試合開始!」
クリエイトの表情が変わったことを合図に、ティアは試合開始の宣言をした。




