6話 友に描く答え ⑩
疲れてるから休んでもいいけど、創作意欲がどうにもおさまんない。
「休まなくて大丈夫?」
「少しくらいなら。ようやく大切なものをみつけられたから、考えてることをまとめときたいんだよね」
「紅茶用意するね~」
椅子へ座り、ブレイドが用意してくれた紅茶を飲みながら、あたしがみつけたあたしの大切にしたいことを描いていく。
看板娘の絵咲ちゃんは、創磨が書いてくれた物語の中では少し真面目すぎる。できることをやろうとしている。でもそれじゃあたしぽくない。
すべてを大切にしたい、そう思えるから闘える。
「あたしはあたし自身が大切にしたいもの、すべてを大切にしたい! それがあたしの大切にしたい想いだから!」
主人公と同じようにペン先を向ける。そうそうこんな感じの構図、後はそれをみている感じで描けばいいから……でてくる、でてくる、創磨の言った通りだ。これがあたしの物語なんだ!
「これを送って終わり! つかれた~」
夕食を食べた後にも書いていた、できたてほやほやのネームを送った所で電池切れ。
ベットに寝転がった途端に眠りについた。
日曜日、学校もないのでちょい遅い目覚め。朝食を食べた終わるとちょうど、創磨から連絡があった。
「なになに」
「ネームみさせてもらった。すべてを大切にしたいって、すげぇ絵麻らしいと思った」
「ほんとにほんと?」
「ああ、ほんとにほんどだ」
足をバタバタさせながら深く深呼吸、創磨の期待に応えられたのが嬉しくて心の中のキャンパスに灯火が生まれる。真っ赤っていうよりも夕焼け色をした暖炉のような感じかな。ぽかぽかとゆっくり体の中が熱くなっていくこの感じは嫌いじゃない。好きな色なのかも。
「絵麻の物語、今ならもっとすげぇ絵麻らしく書ける。ありがとな」
「普通、あたしがお礼言う立場じゃない」
「そうか? めちゃ面白い案だしてくれたのは絵麻だからな。俺はその手助けをするだけ。絵麻の物語、すごく楽しくなりそうだな」
「うん、そうかも」
子供みたいにわくわくされると、こっちまで嬉しくなちゃう。あたしはあたしで、創磨は創磨だ。だから楽しい、それがきっと新しい物語の原動力になるんだろうね。
「そっちは今なにしてるの?」
「ちょいクリレの2巻の案を練ってるとこ。まだこれって感じなのじゃないから、もうちょいなんとかしないと。早いとこ沼から抜け出したいよ」
「集中したい感じ?」
「できることなら」
「解った。じゃあきるね」
「おう。またな」
少し話していたい気分ではあったんだけど、創磨が集中したさそうな感じだったので通話を終えることにした。
「あたしも自分のやれることやるか」
あたしの物語が色づきはじめても、そこで終わりじゃない。まだまだ描きたいものはたくさんある。あたしはそれを描いていくためにペンを手にとった。
昼食をとった後、さゆちぃに連絡をしてみることにした。
「さゆちぃ、おそよう」
破壊の意思にとりこまれたことによる影響を受けていないか、きがかりだった。
「えまちぃ、おそよう」
声のトーン的にはいつもと変わらないかな。
「なんか話したくて連絡しちゃった」
「あたしもさ、ちょうどえまちぃの声が聞きたかったとこ」
普段とは違う雰囲気、だけど不思議と嫌な感じはしない。短いやりとりだけで、お互いの気持ちに変化があったことを察したからかも。
「えまちぃ、あたし昨日不思議な夢を見たんだ」
さゆちぃは破壊の意思にとらわれたことを夢だと認識しており、その夢で起こったことをあたしに伝えてくれた。
「へぇ~そんな夢みたんだ」
「他人事にはとても思えなかった……あたしすごく絵麻に嫉妬してるんだ」
「きずいていたよ、どうにもしてあげられなかったけどね」
お互いのさらけだしてこなかった気持ちについて伝えあえたからか、今まで感じていた息苦しさをはなくなっていた。
「あたしそんな自分を変えたい。だからあたしはえまちぃのためになにか描くよ」
「楽しみにしてる」
「待ってて、めちゃいいの届けるから。てか今も描いてるとこだしね。そいじゃ」
「じゃあね」
さゆちぃとの通話がきれ、あたしもあたしのやるべきことをやっていく。
あの闘いは苦しいものだったけど、無駄ではなかつた。さゆちぃも変わりはじめてるんだ。
それから三日後の水曜日。
三日月の月光が夜桜を照らしはじめた頃、さゆちぃが描いたイラストが送られてきた。
「えまちぃ、送った絵みてくれた?」
「みたよ! ブレイド描いてくれたのめちゃ嬉しいよ!」
さゆちぃが描いてくれたのはブレイド。好きって気持ちが伝わる会心の出来だった。
「それにさ、めちゃ上手くなってたと思う。おせじじゃないからね」
「やっぱそうなんだ。あたしさ、これ描く前にすごく絵麻の絵めちゃくちゃみたんだよね。そしたらさ、めちゃ新しい発見がたくさんできた。そのおかげですごく良いの描けたの。たぶん今までは、変にコンプレックスもってたからきずけなかったんだろうね」
さゆちぃはあたしのおかげだっていうけれど、それだけではないと思う。描いたさゆちぃ自身があたしのために本気で描いてくれたからこその結果だ。
「刀描くの難しくなかった」
「たいへんだったよ~新しいこと挑戦するのむずいよ」
「あたしもはじめてはそんな感じだよ」
「他にもさ、えまちぃが描く服めちゃすごいと思ったんだよね。なんか秘訣でもあんの?」
「秘訣か~」
「なに考えて描いてるとかさ、そんなんでいいから教えてよ」
服は他の人よりも自信があるのは自覚している。それがあたしの魅力となり、イラストを選んでもらっていると思うくらいには。
「服って生きてるんだよね。だからそれを表現してあげるって感じ。モデルのママがよく言ってたんだ、生きてる服にしたいってね」
服を描くうえでの立体感なんかもきにしてるけど、一番は描いたキャラが着た時にその服が生きているかどうか。なんか元気ないない、輝いてないなって感じにしないこと。
ママの写真はいっぱいみてきた。それがあたしが描く服の原点だ。
「は~やっぱえまちぃは規格外だな~」
「そう? あたし的には普通なんだけど」
「普通はそんなこと考えないの!」
さゆちぃ的には常識じゃなかったぽい。もしかしてこういった意識で描いてる人の方が少なめ? なわけないよね~
「えまちぃ、お願いしたいことがあるんだけどさ」
「なに」
「時間がある時しかできないと思うんだけど、えまちぃの描く漫画の手伝いをさせて欲しい」
さゆちぃからの想いがけない提案をされた。
「めちゃ嬉しいけどさ、いいの? 受験も控えてる大事な時期だしさ」
「そこは上手くやるよ。てか、受験受験って感じで絵を描き続けるのも幅が広がらないと思ったんだよね。だったら違うことしてみたほうがいいかなって。息抜きにもなるし。もちろん受験の方は手をぬかないよ」
「さゆちぃ自身がちゃんと考えたことならいいかな。めちゃありがたいよ」
さゆちぃなりの考えがあってやってくれるなら、こちらとしては大歓迎。なにか教えられるような立場ではないけれど、さゆちぃと二人で描くことできるなんてまじで楽しみだ。
「天上先生まで届くかね~」
「あたし達なりにやってくしかないじゃない。あたし達の物語はまだはじまったばっかりなんだから」




