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6話 友に描く答え ⑨

 この想いをもっと近くで伝えたい。

 さゆちぃのもとまでいくのにみゆき君……いや、破壊の意思が創りだした紛い者が邪魔だ。

「ブレイド、あたしをさゆちぃの所へ」

「マスター、まかせてよ!」

 ブレイドはあたしの手をにぎり、蒼き閃光となって羽ばたいた。

 

 ブレイドはあたしの翼。あたしが描いた願いをのせて真っ直ぐと飛んでいく。

 

「なんでそんなにも……」

 さゆちぃは自分が決めつけていた答えでないことに動揺して、破壊力が創りだしたまがい者を使ってあたしを遠ざけようとするも、

 

「どいてよ」

 ブレイドは飛び上がって接近を試みたさゆちぃの破壊の意思が創りだした紛い者を叩き落とした。これで邪魔をするものはいない。


「さゆちぃいいいい!」

 ブレイドを掴んでいた手を離し、真正面からさゆちぃを抱きしめた。


「どうして、どうしてあたしなんて大切にしようとするのよ。こんなひどいことだって、たくさん嫉妬だってしてきてるんだよ。大切にされる資格なんてないよ」

「嫉妬なんてイラストレーターみんなしてるよ。あたしだってしてるくらだし。さゆちぃ、自分が信じられないのなら、あたしを信じてよ。みんなのために描くのが怖いなら、あたしのために描いてよ」

 今にでも泣き出しそうなさゆちぃを、さらにぎゅっと抱きしめ大切にしたい想いを伝えた。


「えまちぃだけのために」

「うん。あたしはさゆちぃを目指して上達できた、その真似でいいんだよ。描くことを諦めさえしなければ、きっといつか自分の大切にしたいことをみつけられる。誰かの大切にしたいことじゃない。さゆちぃ自身が大切にしたいものがさ」

 絶対にそうなるかどうかなんてことはあたしには解らない。全部さゆちぃの気持ちと努力しだいだ。

 

 あたしはなんて身勝手なんだろうか。あたしのためにだけに描いて欲しいだなんて。

 それでも、あたしってやつはさゆちぃの絵を誰よりも心待ちにしている。だからこそこんな身勝手なことまで言えちゃうのかもね。

 

「うぇえええええん、えまちぃいいい」

 子供みたいな鳴き声をだしながら、さゆちぃはあたしを抱きしめ返す。

 

「ごめんね、こんなことまでしちゃって、ごめんね」

「いいよ、さゆちぃとは敵同士じゃない。友達として前を向いて歩いていきたいから」

 すべてを受け入れ、さゆちぃとは仲直りできればいい。あたし達は敵同士じゃない、友達だ。こんなことくらいじゃ友情は壊れない。これからもずっと大切にしてくんだから。


「すばらしい友情じゃねぇか!。楽しい物語にはやっぱ必要なものだよなぁ」

 あたし達の姿をみて、ベインは歓喜し笑っていた。それを待ち望んでいたかのように。

 

「あんた、まだそんなとこにいたの。どうみたって、あたしとさゆちぃがこれ以上戦うわけないでしょう。帰りなさいよ」

「甘い。一度叶えようとしたどす黒い願いが、破壊力がこんなことでおさまるわけねぇだろうが。助けられたと思った者が再び壊れていく、楽しもうぜもっと!」

 ベインの目が輝くと、さきほど地面に叩きつけた破壊力が創りだした紛い者が立ち上がった。すでにみゆき君の面影は消えている。

 

「いや、いやぁあああああああ」

 それと同時にさゆちぃが悲鳴をあげ、まがい者となったの破壊力が膨れあがっていく。


「ウバウ、コワス、ウバウ、コワス」

 まがい者から感じるのは、破壊をどこまでも楽しもうとする快楽衝動。

 こいつを放っておけば、あたしの大切にしたいものはすべて壊されてしまう。


「あたしが、あたし達がそんなことさせない!」

「マスターの大切な人を守ってみせる」

 ブレイドと想いは同じ、大切な人を絶対に守ってみせる。

 

 まがい者とブレイドが切り結ぶ。

 戦闘において優勢なのはブレイドだ。素早く敵を斬り裂いて、敵にはいっさい攻撃を当てさせない。

「ハカイ、オワラセナイ」

 叫び声をあげながらもまがい者は倒れない。さゆちぃの破壊力を吸い続けていく。


「時間をかけない方がいい。友情は大切だろ。だったら助けないと」

「元凶を創ったあんたがそれを言うな」

 むかつく、何様よベインのやつ。

 くそ、イライラしても解決しない。突破口はおそらく一つ。


「あたし達の最強の技をぶつけて、破壊力を供給される前に倒そう」

 ブレイドはまがいものを地面に叩きつけ、動きを止めた。

 

 ブレイドは左手だけで蒼輝刀剣を持つと、右手に創造の輝きをまとったペンを創り出した。

 あたしも左手に創造の輝きで創った剣を、右手にはいつも描いてるペンに輝きをまとわせる。

 

 ブレイドと呼吸を合わせ、心をあわせ、同時にペンを振り抜いた。

「くらえ、あたし達の蒼の輝き!」

 ペンから刀身へ、振り抜かれた蒼輝刀剣の刀身に想いが宿る。

 蒼い月夜の中を駆け抜ける狼、あたし達の創造の輝きはすべてを斬り裂く剣となる。

 

 両手で蒼輝刀剣を持ちブレイドが疾走、蒼き風となってまがい者の前までたどり着くと

「「蒼破天狼撃」」

 蒼輝刀剣を振りおろされた。

 

 ブレイドの刀は蒼い軌跡を描いて破壊から創り出された紛い者の首筋に喰らいつこうとするも、すんでの所で破壊の意思に染まった赤い刀が立ち塞がる。

 

「どうした、そんな程度じゃ倒すことはできねぇな」

 破壊力が増幅されており、蒼いあたし達の輝きがこのままでは届かない。


「倒せるよ、この蒼き狼の牙なら!」

 ならば届かせればいいだけのこと。

 蒼輝刀剣の蒼い輝きが狼の姿へと変化し、受け止めた相手の力を喰らっていく。

 

 蒼き狼はとらえた獲物は逃さない。


「あたし達の想いを描き斬る!」

 奪った力を利用して赤く染まった刀ごと、破壊の意思が創り出した紛い者を斬り裂いた。

 

 斬り裂かれた破壊の意思は赤い輝きが光の粒となって吹き出し、破壊力をとどめることができずに消えていく。紛い者とはいえ天上先生の力を借りたもの、恐ろしい強さだった。

 

「今度はあんたの番よ。さゆちぃを利用して傷つけたこと絶対に許さないんだから」

 だいぶ力は消耗しちゃったけど、元凶であるベインを逃すわけにはいかない。また誰かがこいつのせいで不幸になる。そんなことにはさせたくない。

 

「良いねぇ、お前も本気で怒ってくれているようだ。ちゃんとお友達を選んでやったかいがあった。それでこそ楽しみがいがある。もっと怒ってくれ、この俺を倒したいのならなぁ」

「ブレイド、あいつを」

 赤黒い塊が頭の中に広がると、あたしはどす黒い破壊衝動をぶつけるためにブレイドに指示をだした。

 

「あれは実体ではない精神の塊みたいなもの、倒すことはできないよ」

 ブレイドは冷静だった。息を潜める狼のように牙を隠し、冷静に状況をみつめている。そんなブレイドをみて怒りの矛を鎮められた。


「ずいぶんと冷静だね。マスターのお友達がこんなめにあったのにさ」

「わたしゃも怒ってる。でもその怒りをひきずることは危険、戦いの中で致命的なものになる。大切のものをすべて守るために、わたしゃはやれることをやる。それだけのことだよ」

「大切なものをすべて守る、そんなの無理に決まってるじゃねぇか。この破壊王ベインが楽しんで楽しんで、すべてを破壊しちまうんだからなぁ」

 歪んだ笑みを浮かべながらベインは煽り続ける。嫌なやつ!


「今回のイベントはまぁまぁ楽しめたよ。思わぬ収穫もあった。次会う時はまた楽しいもんみせてくれよ、レイターども。アッハハハ」

 不気味な笑い声をあげながら、ベインとして存在していたものが消えた。

 大切な絵を破かれそうになった、そんな風にさえ感じた戦いは終わりだ。


「さゆちぃ、さゆちぃ」

 破壊力にずいぶんと侵食されていたさゆちぃが心配で、倒れていたさゆちぃのもとへと駆け寄った。

 

「意識を失っているだけ、ぐっすりと眠ればよくなるよ~」

「そっか、それなら良かった」

 こういった時にも冷静でブレイドは頼りになるなぁ。あたしだけだったらめちゃくちゃ慌てていたとこだよ。

 

「わたしゃ達も戻ろっか」

「そだね」

 さゆちぃをベットで寝かしてから、自宅に転移をした。

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