表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/116

6話 友に描く答え ⑧

 水色の剣士服を着たみゆき君は作中みたいに赤く染まった破壊の雷を帯電しながら、走り出した。

 目で追うのがやっと、ブレイドの最高速度とほぼ同じ。

 神剣フツノミタマを振るえば、赤い破壊の雷が刃から放出された。


「蒼の風、蒼刃斬」

 ブレイドは破壊の雷に対抗して、蒼い光をかまいたちのようにして飛ばす。 

 赤と青の風の刃は激突した瞬間、鍔迫り合いのように押しず押されずその場にとどまるも、やがては均衡がくずれていく。

 

 勝利したのは赤い雷、蒼い風の刃をおしぬけてブレイドを襲いはじめた。

「ブレイド!」

「大丈夫だよ、この程度なら」

 無数に飛んでくる破壊の雷を次々にブレイドが蒼輝刀剣で斬りさいていく中、

 

「みゆき君、畳み掛けてあげて!」

 さゆちぃはみゆき君に指示をだしてさらなる攻勢をしかけてきた。

 

 破壊の雷を防ぐだけならまだ完全に対処できそうだったが、背後から接近してみゆきが繰り出した一刀は力強く、蒼輝刀剣で受け止めたブレイドごと吹き飛ばした。

 いつも余裕そうにしているブレイドもこれだけの力があると思っていなかったのか、受け身をとれていなかった。

 

 なんとか距離を離そうとするも、先回りされてさゆちぃが創り出したみゆき君の一刀がブレイドを再び襲った。

 さっきよりも強い力で受け止めて蒼輝刀剣ごと吹き飛ばされないようにしていたけど、防戦一方になっている。

 

「強い、強い、強い、さすが圧倒的な才能を持ってる天上先生だ。どうえまちぃ? これが才能の差ってやつだよ。あたしが感じてるのはこれよりもひどいんだから!」

「これが天上先生の才能……」

 天上先生の創造力を模倣しただけなのにさゆちぃの力は強力だった。あたしの才能を真似て創りだしたブレイドよりも強い力、それは天上先生の才能のほうが優れていると証明したようなもの。才能の一部だけでこれだけの力になるなんてインチキだ。

 

「あたしは今のあたしでいるよりも、ずるく、かしこく、強くなることを選ぶ。才能のないあたしはそれしかできないんだ。負けを認めて楽になっちゃおうよ。えまちぃだって奪いたい才能があるでしょ、叶えたい願いがあるはずだよ」

「あたしにもあるよ、さゆちぃみたいに才能を羨ましいって思う気持ちが」

 必死に訴えるさゆちぃを痛いやつだなんて思わない。才能を羨ましと思う気持ちはわたしの中にもある。


「それだったら……」

「でも羨ましがってるだけじゃだめだってもうきずいてるの。だからさゆちぃの言ってる通りにはできない。あたしはあたしでいたいから」

 なんでだろう、さゆちぃの誘惑じみた言葉には心は動かされてる感じはしない。

 才能の差をみせつけられても、叶えたい願いがあるなら自分で叶える、それが今のあたし。


「さゆちぃだってそうでしょ、変わりたいからこうやって必死になってるじゃん。その想いさえあれば誰かの才能を奪うなんてことしなくても変われるよ」

「あたしはえまちぃとは違う。えまちぃのような才能がないから変われない。どうしてそれを解ってくれないの!」

 あたしの言葉を否定し、さゆちぃはさゆちぃ自身の意思を肯定するためにみゆき君を操る。

 

 雷の力を利用して高速で移動するのはさっきと同じ。また同じような対応のしかたをすればさきほどの二の舞になってしまう。

 

「ブレイド、追いつくよ! まがいものになんて負けたくない!」

「OK、マスター」

 ブレイドはジグザク線でも描いてるかのように右へ左へ飛び回る。最初は目でも追えそうなほどだったが、段々と目で追えないほどの速さへと変わっていた。

 

 そんなブレイドの動きに対して、さゆちぃが創りだしたみゆき君は負けじとジクザクに動くことで力の差をみせつけようとしてきた。これはさゆちぃの意思によるもの。こちらの心を折るために完全に実力差をみせつけるきなんだ。

 

 お互いに最高速で激突することになる。接敵した瞬間にどちらが優位をとったかが決まる。

 

 蒼い風と赤い雷がぶつかりあり、なにもない空間に風が吹き荒れ、雷が降りそそぐ。

 

“ガガガガガ”

 そして大きな破砕音。どちらか一方の刀が敵を斬り裂いたようだ。

 

 風となり雷が激しくぶつけあった両者は健在、どちらも背中を向き合い立っている。

 ブレイドは攻撃を受けこそしたがその傷は浅い、先程の破砕音で生まれたものではない感じがする。それじゃあ……

 

 それから数秒、さゆちぃが創り出したみゆき君は地面に足をつける。

 背中にはくっきりとブレイドの剣によってついた傷が浮かび上がった。

 

「まだ闘う? そっちの気が済むまでわたしゃはつきあえるけど」

 ブレイドの自信ありげな態度は、あたしの心を投影しているようなもの。差をみせつけて奪うだけじゃ越えられないことをしらしめた。

 

「どうして、どうしてそんな簡単に越えれちゃうのよ。圧倒的な才能、天上先生の力なのに」

 すがったものでさえ願望を叶えるものにはならない。さゆちぃはうつむき、前を向くことをもうできなくなっていた。

 

「願いだけじゃ、奪うだけじゃ、本当の自分の力にはなってくれないからだよ。だから苦しくても自分で答えをみつけるしかないんじゃんか」

「そんなの無理だよ。あたしえまちぃみたいに強くなんてないし」

「あたしも強くないよ。偉そうなこと言ってるけど、あたしだってさ自分の絵から逃げてたことがあるし」

「えまちぃが」

「実はそうなんだよね~はじめて自分で創ったキャラのブレイドでさえ、本当はずっと描かないでおこうかと思ったんだ。見られないのに描くなんて意味ないって思ってたから」

 創磨に出逢う前のあたしは、あたし自身が創ったブレイドをいらないとさえ思っていた。そんなあたしを変えてくれたのは創磨だった。

 

「じゃあどうして描こうなんて思えたのさ」

「あたしの描いたブレイドに興味を持ってくれて、あたしの絵から物語を書いてくれた人がいたんだよね。それがすごく嬉しかった。みられないのが嫌だったあたし自身のブレイドが輝いてみえたんだ」

 創磨がしてくれたこと、あの時あたしがどう思っていたのか、それをさゆちぃに伝えていく。

 

「さゆちぃにも自信を持って欲しい、そうすれば……」

「無理だよ! あたしには才能がないから、自信なんてもてないよ!」

 どんな言葉を重ねても、さゆちぃは自分自身に自信を持ってくれそうにはない。なんで、あたしはそれで立ち直れたのに。

 

「えまちぃはすごいね、そう言ってもらえて自信がもてたんだ。でも普通の人ってね、才能のない人間ってね、自分自身に自信なんてないの。解る? 解らないよねぇ! 才能のあるえまちぃには!」

 止まっていたみゆき君のまとっていた破壊の雷をより強めた。あたしが限界を超えたように、さゆちぃは破壊力を増幅させることで限界を越えようとしている。

 

 さゆちぃはどんな手をつかっても、願いを叶えようとしてきている。

 もう十分に言葉を重ねた。こっちの話は聞いてくれてるけど説得できような感じではない。このまま力で抑えつけるしかないの?

 

「マスターは諦める必要なんてない。マスターはマスターの大切にすべきことをすればいい」

「あたしの大切にすべきこと、あたしの描きたいもの……」

 さゆちぃを助けること

 ブレイドを守ること

 さゆちぃに自信をもってもらうこと

 創造を守ること

 

「こんな時でも大切なことを一つに絞りこめないや。けどそれがあたしらしいってことなんだよね」

 願いと使命が重なりあっても大切なことを一つに絞ることができない。っていうか、一つに絞るっていうのが、あたしらしくないんだよね。

 

「すべてだ、すべてなんだ……見つけた、あたしが大切にしたいこと」

 ここまでずっと考えてきた、それが花開く。あたしの中に大切なものは今創られた。

 

「どうせあたしの願いを否定して、みんなを守ることでしょ。だからブレイドを戦わせようとしてるんだ」

「そうやってなんでも決めつけないでよ!」

 あたしの大切なもの、それをさゆちぃに届けたい。


「あたしはあたし自身が大切にしたいもの、すべてを大切にしたい! さゆちぃ自身が自分を信じられないのなら、あたしがさゆちぃを信じる!」

 すべてを大切にしたい。

 友情も努力も信念も願いも、全部が全部あたしは描きたいんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ