6話 友に描く答え ⑥
「今日は行かなくて良かったの? 逢夢達と遊べる機会だったじゃん」
「マスターを置いていくことはできないよ~」
修了式後の土曜日、逢夢からの誘いを断りあたしは家で漫画を描くことにした。
ブレイドはあたしの漫画の手伝いをしてもらっている。
「ブレイドも、かなりいい感じの描けるようになってきたよね」
「これもマスターのおかげだよ。マスターの力がわたしゃに力を貸してくれるの」
ブレイドにもいろいろ手伝ってもらってるし、いいの描かないとだね。
今日描くのもバトルシーン。
あたしにとって大切なものはなにか。それをみつけるために今一番大切にしたいことに挑戦する。今、あたしが描きたいものを描くと決めていた。
創磨が描いてくれた物語と、資料として撮影したさゆちぃとブレイドが剣と剣でぶつかりあう写真を参考にバトルシーンのネームを考えていく。
描くことのできない不思議なノート、それをつけねらう者がいる。その敵から守ってくれたのがブレイドだ。
はじめて闘う敵はノートをつけならう敵が生み出したリザードマン、。
こういった形で中身についてはおおよそ決まっていたが、どんな姿なのかはあたしが決めていくことになっている。
リザードマン、当たり前のように描いたことのないものだ。再生能力もあったりする。
リザードマンは強く描きすぎず、それでいてブレイドは圧倒的な力をみせつけないといけない。
ブレイドつよ! みたいな感じにしないとなんだけどね。
「う~ん、むずい!」
差を出すっていうのは難しい。試行錯誤を続けながらなんとか形にしていくしかないんだよね。
「夕食作ったから食べようよ~」
お悩み中な時に声をかけてくれたのはブレイドだった。
きずけばお昼はどうにすぎ夕食時になりそうだった。時間経つ早! てかブレイドに言われてようやくお腹が空いてることにきずいた。
「そうする」
部屋から出てリビングに行くと、パスタが用意されていた。
「マスター、すごい集中力だったね」
「そう? やっぱブレイドを描いてるのが楽しいからかな」
ブレイドの言葉は普段なら嬉しい言葉に感じるけど、今はそうだとは言いきれない。
「あたしって白状なのかな。さゆちぃのことでいろいろ悩んでるつもりでいたけど、結局あたし自身のことを優先しちゃってるし」
「自分のことを優先させるのは悪いことじゃないと思うよ~どうにもならないことだってあると思うな」
パスタを食べながら、あたしのしていることをブレイドは肯定してくれる。それはでもあたしの望んだ言葉ではなかった。
「けどさ、さゆちぃのこともやっぱ考えたいって思うんだよね。それってやっぱり無理なのかな」
さゆちぃのことも考えていたいし、漫画のことも考えていたい。
二つのことを考えたいなんていうのは欲張りだ。それはあたしだって解っていること。それでも無理だって思いたくなのはなんでだろう。
「マスターらしいなぁ~」
「あたしらしい?」
「どちらのことも考えたい、そう悩んでいる姿がだよ~」
あたしらしい考え方か。思い返せば、イラストと漫画のことを同時に考えたり、一番大切なことを決めきれないでいたり、あたしはいつもたくさんのことを考えてしまっている。
「無理な考え方に突き合わされる方は迷惑だよね」
なんにもできない、できていない。それなのに誰かに迷惑ばかりかけている、そんな自分がいることにきがついて、あたしはあたし自身を責めていた。
「そんなことないよ」
「いいよ、嘘なんてつかなくて」
「マスター、これは嘘じゃない。わたしゃはマスターに感謝してる。マスターがもし一つのことだけをやるって決めていたら、わたしゃは創りだされることはなかった。マスターの側にいることができるのはマスターがマスターらしくしてくれたからだよ」
ふんわりと包みこんでくれるようなやさしい笑顔を向け、ブレイドはあたしの心を解きほぐしてくれた。
「そっか、それがあたしらしさなんだ」
ブレイドの言葉をきっかけにして、あたしらしさがなにかが解ってきたがする。
「もしかして、これってあたしが大切にしたいことなのかな?」
「どういうこと」
ふとしたきっかけで、新しい考えることがある。今がその時なんだと思う。
「大切なことは一つじゃない、どちらのことも考えたい。それがあたしが大切にしたいもの。創磨もブレイドも逢夢もさゆちぃもあたしが大切にしたい……たった一言でいい、それを言いあらわすような言葉がみつかればきっと……」
根拠はないけど、なにかがみつかりそうな予感がしていた。
あたしはあたしらしくいよう。そうすることでしかみつけられないものがある、そう思ったいた矢先……聞いたことはあるが聞きたくない声が聞こえてくる。
。
「そんなものはみつかるわけがねぇだろうが」
その声の主は異空間から転移してきた破壊王ベインだった。
ブレイドが即座にあたしの前に立って、警戒心を強めてくれる。
「ベイン、なにしにきたのよ!」
「楽しい楽しいイベントのお誘いってやつさ。大切なお友達からのなぁ!」
指を鳴らすと床に描かれた赤いサークルが輝き、あたし達はベインによって転移させられた。
* * *
たどり着いた場所はドーム球場みたいに周りが覆われていた。壁面はごつごつとした岩山で、赤いヒビがいくつもみえた。地面は白い床であることからアウターワールドだとは思うけど、壁面にはあたし達を閉じ込める性質を持っていそう。
「逢夢達に連絡は?」
「とれない。どうやらわたしゃ達だけで切り抜けるしかないみたいだね」
ここで戦うしかない。嫌な予感はする……
「マスター、誰か来る」
ブレイドの視線の方向には、白いキャンバスの床を歩く人がいた。
「さゆちぃ……どうして、どうしてこんなとこにいるのさ」
嫌な予感通りだ。破壊の意思が創りだしたであろう赤い学生服を着たさゆちぃが、あたしの前に現れてしまった。
「えまちぃがいた、本当にいた! あたしね、解ったんだ。もう自分ではどうにもできないってことが」
さゆちぃはあたしのことを認識できるくらいには自我が残っているけれど、破壊力に飲み込まれている。あいつが、ベインがあたしの友達を利用したんだ。
「ベイン、あんたなにしてくれてるのよ」
「お友達の願いを叶える手助けに決まってるじゃないか。はぁ~いい加減この問答も飽きてあきたね。解っているんだろ、破壊力を利用されてるってことくらいは」
こめかみを指でぐりぐりしながら、ベインはあたしを怒らせようとしてくる。
「そうやって誰かを巻き込むやり方、最低だとは思わないの」
「思わない。むしろ最高だろ! そうしたほうがて本気で楽しめるからなぁ」
悪ぶれもせずにいるベインは腹ただしい限りだけど、今はさゆちぃのことを考えるのが最優先だ。
「助けよう、あたし達の手でさゆちぃを!」
ティアちゃんのようなおぞましい破壊の意思は感じない。これならあたしとブレイドだけでもやれる。
「レイター・ブリリアントチェンジ」
ブレイドがクリエイトブックの剣の紋章に触れると、蒼い創造の輝きにつつまれた。
創造の輝きによって創り出された蒼輝刀剣で、蒼い狼達を斬って蒼い剣士服を創りだす。
蒼い剣士服がすべて創られると、蒼輝刀剣の切っ先から創り出された蒼炎で床に円を描いた。
「すべてを切り裂く創造の輝き、レイ・ブレイド」
創造の輝きが創り出した最強の剣士レイ・ブレイド、それがあたしのレイター。
この創造の力であたしはさゆちぃを助けるんだ。




