6話 友に描く答え ④
「少し休憩しようよ~さゆさんも疲れているだろうしさ」
しばらく刀をふりあっていたブレイドから休憩の申し出が、肩で息をするさゆちぃをきずかってのことだった。
「冷え冷えのレモンティー持ってきたよ」
「ありがとうございます。くぅううう、生きてるって感じがするよ」
ブレイドが冷やしておいたレモンティーをコップへ注ぎさゆちぃに渡すと、それをぐいっと飲みほした。
「さゆさん、なんか欲しいことある?」
「う~ん、して欲しいことね~」
「さゆちぃ、なんでもいいよ。ほらほら。手伝ってもらってるわけだしさ」
さゆちぃにお願いしてもらっている立場でもあり、なにか特典みたいなのはしたいとブレイドにも話は通していた。
「考えられそうにないなら、あたしが決めよっか」
さゆちぃは自分の意見を言うのは苦手な方。それは解っていたので、あたし自身の案もいちおう用意しておいた。
「えまちぃが決めたのでいいよ。その方が面白そうだし」
いつものように、さゆちぃはあたしに全部任せるって感じぽい。
「お着替えはります! 待っててね~」
ブレイドは隣の衣装部屋の中で着替えを済ませると、
「こ、これは!」
さゆちぃに電流が走る!
ブレイドが今着ている衣装はへそチラチアガールコスだった。
可愛いものに目がないさゆちぃからは、目を離せないのかその姿に釘付けになっている。
「フレフレさゆちぃ、頑張れ頑張れさゆちぃ」
手にもったボンボンをブレイドはふり、頑張ってくれているさゆちぃにエールを送る。
ブレイドの胸が応援するたびに揺れ、今までは意識することなんてなかった隠されていた果実に釘付けになる。
いやらしくは感じない。ブレイドが健全だと理解しているから。
この可愛いはすべて自分のために捧げてくれてるもの。
かわいいオーラにやられたさゆちぃ、そしてあたしはニヤニヤしながら思うのだ。
「さいこぉおお」
そして世界はまた一つかわいいによって救われた。
「元気でたし、まだまだ資料づくり頑張ろうかな」
「着替えてくるね」
チアコスのブレイドは再び青いバトルコスチュームに。
「よ~し、まだまだ撮影してくよ」
そして再びの撮影。さゆちぃとブレイドのおかげでだいぶ充実した資料を手に入れることができた。
「おつかれさま。さゆちぃ、ありがとね」
撮影を終えて、さゆちぃにレモンティーを渡しながら、お礼を伝えた。
「あたしもたまにだけど手伝ってもらってたし、これくらいのことはするよ」
さゆちぃとは資料作りのために撮影をしあう中だった。ここにはたくさんの衣装がある。この撮影部屋はさゆちぃと思い出の深い場所でもあった。
「漫画さ、どんな感じにしたいと思ってるの?」
おもむろに、さゆちぃから漫画について聞かれた。
「ナイリバぽいのは目指してるんだよね」
「理想たか!」
「漫画描きたいって動機になった作品なんだよね~」
「えまちぃ、昔から天上先生の作品好きだもんね。それでもあんなけすごい才能みせつけられたら、普通目指そうだなんて思わないよ」
「自分のやりたいことだから、自分の気持ちに嘘はつけないんだろうね。いや~大変だよ」
あたしにとって天上先生っていうのは雲の上、天上の存在。そのレベルに達することができるだろうか解らない。それでも自分に嘘はつきたくない、その想いがあたしの支えになっていた。
「天上先生の作品、面白いよね~」
「ブレイドさんも見てるんだ」
「マスターのおすすめだからね~」
「布教活動してんね~そういえばあたしもえまちぃに奨められて読んだなぁ」
「二人はいつからお知り合いだったの」
天上先生からあたし達の話へと移り変わっていく。さゆちぃとの昔話っていうのはブレイドにはまだしてない。めちゃ興味そそられてるんだろうな~
「小学3年生からのつきあい。あたしと出逢う前は、えまちぃって実はかなり物静かな娘だったんですよ」
「え~そうだったんだ~」
ブレイドはあたしの顔を覗き込んでいる、物静かなあたしの姿を妄想していそうだ。
「あの頃か~まぁそんなだったきがするね」
あの頃のあたしは人づきあいが超苦手。絵に夢中すぎて周りがみえていなかったけ。
「マスターはあんまり昔のことには触れてもらいたくなさそうね」
「どっちかといえばって感じかな。あの頃のあたしって周りからみたらあんまり好かれてなかったと思うし」
「まぁ絡みずらい感じしてたもんね」
冷静沈着タイプではなかったけど、なに考えてるか解らない。そのせいでいはぶられてたようなきもする。
「当時はそれが嫌だとすら思ってなかった、絵がすべてだったし。でもそれだけ駄目だってきずいたのはさゆちぃのおかげ。さゆちぃが明るくふるまってくれて、それにあわせてみようと思ったら明るくなってた。同じ絵描きだっていうのも刺激になったしね」
さゆがいなかったら今のあたしはいなかったと思う。絵もこれほど上達しなかった。
「あの頃からさゆちぃは絵の基本がしっかりできててね、すごく驚いたな~」
「お姉ちゃんが教えてくれたってだけだよ。えまちぃは基本的なこと覚えたらめちゃ上達速度早かったよね」
「さゆちぃがいろいろ教えてくれたおかげだよ」
「そんなことないよ。えまちぃがちゃんと学ぼうとしてただけだから」
だけど、さゆちぃは全部あたしが努力したから絵が上達していると思ってるぽいんだよね。絵に自信をもてるようになったのはさゆちぃのおかげなのにな。
「さゆさん、わたしゃのこと描いてみてよ
「あたしがですか」
「マスターだけじゃなくて、たくさんの人に描かれたいと思ってるんだ。どうかな?」
ブレイドはキャラクターとして、たくさんの人に描いてもらいたいと思っている。そうか、そうだよね。描かれたいって思うよね。
「いいよ、あたしは。えまちぃみたいな才能ないし、えまちぃみたいに上手くないから」
あたしと比べて、そんな理由でさゆちぃは困ったような顔をみせ、ブレイドの申し出を退けようとしている。
「上手い下手はきにしないよ」
「あたしも、さゆちぃにブレイドのイラスト描いて欲しいかな」
さゆちぃが描くブレイドはきっとあたしと違うもの、だからこそみてみたいと思えていた。
「そう言えるのって、ハガサネ先生の方が上手いって思ってるからだよね」
なにか怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。
眩しい太陽に暗い雲がかかり、さゆちぃは普段は隠している感情をむきだしにしていた。
「別にそんなつもりで言ったわけじゃなくて……」
「……ごめん。あたしも少し言い過ぎちゃったね」
さゆちぃとあたし達の間にいつのまにかピリピリとした空気が流れていた。友達同士なのにいつのまにかできてしまった溝が引き金になっていることは解ってるけど、どうすればその溝が埋まるのか解らないままでいる。
想い描いた通りの未来を描くことができない。もどかしさだけが広がっていく。
「そろそろ時間だし帰るね」
「あ、うん。さゆちぃ、ありがとね」
「さゆさん、ありがとう」
さゆちぃはこの重苦しい空気の流れから逃げ出したかったのか、あたしの家から離れた。
(なんだかどんどん遠くなっていく感じがする)
いつまであたし達はこうしていられるんだろうか。
お互いに見たくない部分を見ないようにするだけじゃ、不安は消えてくれなかった。




