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6話 友に描く答え ②

「えまちぃ、そんなお悩み顔だと大福になっちゃうぞ」

 寝て起きて明日になればめちゃくちゃ良い案がでてきた……なんてことはなく学校に登校した後も絶賛お悩み中。教室で考えごとをしていたら、さゆちぃが指先でほっぺをぷにぷに押してきた。

 

 さゆちぃこと堀北さゆは、希望ヶ丘高等学校美術科の同級生。小学生からの友人だ。

 大人ぽくも子供ぽくもなく、年相応なスタイルでめちゃカジュアル。ポニテがよく跳ね回っていて見た目だけでもめちゃ明るい。人当たりもよく、クラスのムードメーカーだ。


「大福どころか、今のあたしはブリンだよ。プリンも驚くほどのとろけようだよ」

 快活なさゆちぃと友達になれたのは超ラッキー。とろけたプリンになった姿をみせれる程には今も仲が良かった。

 

「なになに、なんかやばいことでもあったの」

「やばいってわけじゃないけど、まったく進みそうにないことがあってね~」

「なにを悩んでるのかなぁ~えまちぃは」

 机にうつぶせプリンになっているあたしの隣の席に座り、話を聞こうとさゆちぃはしてくれた。よ~し、話を聞いてもらおう。

 

「ちょい漫画の内容をどうするか悩んでってね~」

「漫画って、けっこう前に投稿したけどやめてたじゃんか」

「そうなんだけど、協力してくれる人がいてくれて。挑戦することにしたんだよ」

「協力してくれる人?」

「ラノベのイラスト担当するって前に言ったじゃん、そのラノベを書いてる人に話を作ってもらえることになったんだよね」

「それってえまちぃがお願いしたの?」

「お願いって感じではないかな。あたしの描くイラストとキャラクターをみて、やりたいって思ってくれたんだよね」

「……やっぱえまちぃはすごいな~めちゃうらやま~」

 お腹をぐりぐりとされ、さゆちぃがこれでもかと羨ましい事をアピールしてくる。ラノベのイラストに決まった時もされたなぁ~

 

「じゃあなんで悩んでるの? めちゃえまちぃにとって都合が良いことしか起こってないようにみえるんだけど」

 こんな羨ましいことが起こっているのに悩んでいることに、さゆちぃは疑問みたいだ。

 

「あたし自身があたしの物語の中で大切にしたいことを決めなきゃいけないんだよね」

「え!? それってえまちぃの物語を書いてくれる人が決めるもんじゃないの」

「あたし自身があたしの物語にしたいって望んでる。だからあたしが決めた方が良いって感じなんだよね」

「えまちぃが物語書くの苦手ってことは知っててそれ言ってるの」

「うん」

「それってひどくない。やれないことを無理にやらせようとしてるだけ、自分じゃ書けないからそう言ってるだけじゃないの?」

 さゆちぃはムッとして、あたしのことなんだけどかなり不満そう。あたし自身は創磨を信頼してるから受け入れてるけど、創磨を知らない人からしたらそう思われてしかたないかもね。

 

「それはないかな。すでに物語の流れ全部書いてくれてるし」

「じゃあその人に任せればいいじゃん。悩むことなくない?」

 さゆちぃの意見も一理あるとはいえる。悩むくらいなら妥協して、今の形をそのまま漫画化する。そういったことはすでにできる段階だ。

 

「う~ん、なんていうか悩みたいんだよね。適当にやりたいくない、期待に応えたい、こだわりたい。だから悩んでるのかな」

「無理そうなことをえまちぃに任せても、良いものができるとは思えないけど」

「さゆちぃはあたしには無理だって思ってるんだ」

「そうだと思ってくれていいよ。無理されたら困る……いや、無理して欲しくないしさ」

 困るっていうのはなんでって感じだけど、無理して欲しくないって言ってくれるのはさゆちぃの思いやりなのかな。

 

「あたしのこときずかってくれてありがとね」

「そんなんじゃないよ……」

 さゆちぃの心に灰色の雲がかかってしまって、本心がまったくみえてこない。なんでそんなに落ち込んでるんだろう。

 

「えまちぃ進路はどうするの? 予備校にも来てないし」

 そんな疑問が解消されぬまま、次の話題へ。さゆちぃの表情はいつのまのかいつもどおりな明るい表情に戻っていた。

 

「芸大にはいかないことにしたんだよね」

「もうイラストレーターになれたし、行く必要ないから?」

「必要ないかまでは解らないけど、大事なことだから適当にきめちゃいけないって思ったんだよね。あたしさ、周りが行くから行けそうな芸大受けよかなって考えでいたから」

「別にいいと思うけど。行けるなら行ったほうがいいっていうのが普通だよ」

 芸大に行っておけばとりあえず安心できる、今まであたしもそんな風に考えていた。

 行っておけば有利になる、芸大を卒業した、その証明が大切だって気持ちも解らなくもない。

 

「イラストレーターの仕事と同じだよ。あたしのやりたいことを応援してくれる人がいて力を貸してくれるのに、適当な気持ちでいたら失礼だと思った。お金をだしてもらうわけだし、周りが行くからっていう気持ちだけで進路を決めたくないんだよね」

 今のあたしは創磨の物語を彩るイラストを描き、あたし自身が描きたいと思った物語を描きたい。それがあたしのやりたいことでやるべきこと、適当な気持ちで進路を決めたくなかった。

 

「えまちぃはもっと先のことを考えてるんだ」

「そうでもないよ。今は本当に自分がやりたいと思えることに時間をかけたいの。先にやりたいことをやってみてからの方が、今後のことも考えられると思ってるだけだよ。後から行きたい芸大にってことも考えられるわけだしさ」

 なにかの挑戦した後からの方が、新しいなにかが見えてくるはず。そう思えるようになったのは創磨のおかげだ。

 

「さゆちぃは進路どうするの?」

「絵に関わる仕事はしたいから……行けそうな芸大行ければいいかなって感じ」

 さゆちぃは笑顔でいるが、心は笑っていないようにみえた。

 なんか少しきまずい空気が流れている感じがする。あたしが否定したことをしようとしている。ここまで考えはまわってなかった。

 

「いいと思うよ。ほら、就職に有利になるって考え方でもいいと思う、てかそれが普通だし。イラストに関わる仕事をするならプラスになるのは間違いないだろうしさ」

 あたしの意見の方がはっきり言って特例みたいなもの。さゆちぃが芸大に行くのは大賛成だ。


「あ、そろそろ昼休み終わりだ。午後もがんばりますか~」

「だね~」

 時計を確認。嫌な空気の流れが変わることのないまま、午後の授業を迎えることになった。

 みんなの進路とあたしの進路はもうすでに違っている。それが不安じゃないといえば嘘になる。あたしが選んだ方針が正しいと思いたい。そのためにも早くあたしの物語で大切にしたいことがみつかればいいのにな。


         *         *         * 


 学校が終わり、しばらくすると予備校がはじまる。

 予備校内のキャンバスの前に座り、だされた課題に対してどうアプローチをしていくかを考えながら描いていく。周りの生徒もそうしている。課題に向かって描いているから安心できるし、課題があるから充実しているようにみえた。

 ほとんどの人が課題に取り組むのが当たり前なのに、えまちぃはそうしていない。常識外れなことなんて嫌いだと思ってる。それなのに羨ましくてたまらないって思いが日に日に増していく。

 

(いつのまにか差が開いてたんだっけ……)

 誰もが認める異才、それがあたしは友人。小学生からのつきあいで最初はそれほど差がなかったのに、いつのまにか大きな差が開いていた。

 イラストレーターとして活躍しはじめる前からSNSのフォロワー数で負けてたし、あげたイラストでもらえるいいねの数なんて比べようもないくらいだ。

 

 あまりにも違いすぎて、才能のある人と才能のない人の差を思いしらされた。

 絵のことになれば学校生活でさえ違いをみせられる。

 みんなと同じ課題をえまちぃが取り組んでも、えまちぃだけはいつも存在感がある。期待以上のものを描き、えまちぃらしいと思えるものを目指している感じがした。

 

 あたしの絵はそれとは違う。出された課題に対して自分なりのアプローチを加えて、評価される絵にしあげたい。

 課題のために絵を描く、認められるために絵を描く、学校や趣味でも同じ。楽しいと思って最近は絵を書いてない。絵は今までの人生を無駄にしないために描くもの、認められるために取り組んでいくもの、あたしの絵はいつのまにかそんな風に変わっていた。

 それが間違いだなんて思いたくない。課題へのアプローチが間違えば評価されない。出された課題に対して評価される絵こそが受験ではもとめられてるんだし。

 

 趣味の絵だって評価されないとだめだ。そのためにSNS上でも人当たりを良くして、積極的につながってイラストをみてもらえるようにしている。

 まぁ最近はそれも少しおざなりなんだけど。限りがみえてきて、どうせ趣味としてしか評価されない。才能のないあたしの絵なんてたいして評価されないことが解ってきている。

 

 この予備校で描く絵だってそうだ。

 課題に対するアプローチがいたって平凡。周りの尖った人達と比べたら、薄い印象をうける。あたしみたいな才能のない人は絵を描くのに向いてないんだって思い知らされる。

 それでも絵を描くことに執着するのは、それしか人生の中で知らないから。

 ずっと絵を描いてきたのにそれを捨てたら、今までやってきたことがすべて無駄ってことになる。そんなのはあたし自身が許せないし、支えてくれている家族に申し訳なさすぎる。

 周りだって幻滅する。あたしはあたしでなくなる。

 だから絵の道にあたしは進まないといけない。

 

 えまちぃみたいに我が道を行くことはできない。才能のある人達は自分がしてきたことが絶対に報われる、そう信じて疑わない。なんだってできるって思ちゃうんだ。

 人あたりがいい、とっても話しやすい、周りはそう言ってくれるけど、それは大きな間違いだ。

 本当のあたしはひねくれていて、性根はどうしようもないくらい。それを隠したいがために、ただ明るいあたしを演じているにすぎない。

 

(適当でもいいじゃんか、それで安心できるなら。それのなにがいけないの)

 今のあたしが考えるのは才能がある人達には勝てなくてもいいから、芸大に入れればいいってことだけ。まぐれ当たりでいい。才能がないことは解ってるけど、違う道を選ぶなんてもうできない。今更、絵の道以外は考えられないからすがってるだけ。

 

(こんなもんだよね)

 考え事をしてながら課題にそって描いた絵に対して感じるのは、たいして面白みもないってこと。下手すぎはしないけど心ひかれるものもない。描いた本人がそれを一番よく解っている。

 これが芸大を合格するまで続く。早く楽になりたい、こんなの早く終わって欲しい。もっと才能があれば良かったのに。そう願わずにはいられなかった。

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