5話 残されし想い ⑫
「まだです。諦めさせないでください」
そうしたいのにこよみ先輩は攻撃の手を緩めない。錯乱し破壊球を連射してきた。
突然のゲリラ豪雨、雨音まで聞こえてきそうなほどの数の破壊球で圧倒しようとしてくる。しかしさきほどのような強い意思は感じない。ただ引き金を引いているだけ。怯えているようにもみえた。
「創造の弾花、クリエイト・ショット」
手の平に集めた創造の輝きを創造球に変えて、次々に撃たれる破壊球を相殺していく。
破壊球の嵐の中に台風の目のような抜け穴が生まれ、暗雲を光に変える通り道が創り出される。
創り出された道、その道に向かって4人同時に創造の輝きを足元に溜めて飛び上がる。
足元から花吹雪が創り出され、舞いあがる花びらのように勢いよく飛んでいける。その勢いが強いにも関わらず向かい風は一切感じない。想いが創り出した花吹雪はわたし自身を風に変え、創り出した通り道の向こう側にいるこよみ先輩の元へ届けてくれる。
「タイム・ブレイク」
嫌だ、嫌だ、首を何度も横振りながら慌ててこよみ先輩は時間を再び奪おうとするが、想いの塊である分身体には通用しなかった。
「大丈夫です、もう大丈夫ですから」
桜吹雪となってこよみ先輩の前にたどり着くと、やさしくいたわるように抱きしめる。
「わたし、わたしは……!」
「こよみ先輩も解ったはずです。たとえどんなに時間が過ぎ去ろうとも、想いを残り続けてくれることを」
最初は抵抗しようとこよみ先輩はもがいていたけれど、それもしだいにおさまっていく。もっとだ、もっと不安な気持ちを和らげてあげたい。
「今日はたくさんの場所に出かけました。アニメグッズやフィギュアを扱うショップ、神社、お寺、飲食店、ライブ会場……そこには今推せるものだけじゃない、古くからあるものだって存在し、ずっと変わることなく楽しまれてきたものだってあった。それは時を超えて想いをつないでくれる人がいたからです」
創磨は言っていた、積み重ねが新しいアイディアのきっかけになると。一つの場所に行っただけではきずくことができないことに、きずくことができた。
「本屋にも本と本屋を大切にしたいと思っている方々がたくさんいます。それはなによりもこよみ先輩が解っているはず。本と本屋にだって魅力があるんです」
古くても読まれ続けている本はある。今推そうとしている本も手にとってもらえている。なにもできていないわけではない。
「わたしは今の人達が魅力的だと思ってくれる方法で、本と本屋の魅力を伝えたい。いや、それだけじゃだめ……本と本屋という入口ではなく、見てくれる人達の心に響くような想いを届けることで、わたし自身や本のことを魅力的に思ってもらう」
たくさんの魅力が溢れたこの世界で魅力を知ってもらうためには、一つの入口が正解ではない。そのことを今日行った場所はきずかせてくれた。
そのことを思い出しながら、こよみ先輩に想いを届ける
「それがわたしのやりたいこと。こよみ先輩、想いを届ける協力をしていただけませんか。本に残された大切な想いをつなげ、想いをわかちあう。わたしはそんな場所をつくりたい」」
わたし自身がきずいたこの想いを。
「そんな真っ直ぐな想いを断れない、断れないよ……」
想いを届けた、こよみ先輩の瞳から涙が溢れ出ていた。
「不安だけど、信じる。わたしは逢夢さんを信じてるから……」
不安な気持ちはある中で、わたし達は手をとりあいお互いを信じあう。
これでこよみ先輩と闘う必要はありませんね。
「これが感動的な場面ってやつか。解り合うシーンっていうのは楽しめるよなぁ」
ベインは軽蔑するような視線ではなく、わたし達が解りあえたことを楽しんでいる。自らが不利のなるような状況下ですら笑っていられるのですね。
「でも、それだけじゃつまらない。せっかくだ、解りあった者同士が苦しみ闘う姿を楽しませてもらうぜ! アッハハハハ」
「嫌、いやぁあああ」
笑いながら破壊王ベインは右手をかかげると破壊の輝きがこよみ先輩をつつんだ。
無理やり増幅させられた破壊力は、身を切り裂く凶器となってローブから噴きあがり、破壊の波動でわたしを吹き飛ばす。そこにはもうこよみ先輩の意思はなかった。
「すべて破壊してやる、すべてを!」
すべての破壊を願うブレイカーへと変貌したこよみ先輩は暴走し、破壊の意思で自らを燃やしながら、赤く染まる火の玉となって突撃を繰り返す。
動きは早いが猪突猛進、一直線にしか向かってこないため動きは読みやすい。
闘牛士のように何度かひらりひらりと身をかわしながら、
「創造の衝花、クリエイト・インパクト」
分身体と同時に掌にあつめた創造の輝きを真正面から叩きつけた。力と力の衝突。勝利したのはわたしだ。解き放たれた衝撃によってこよみ先輩は後方へと突き飛ばされた。
「破壊、みんな破壊。やだ……いや! 破壊、いや!」
時折破壊力に抗いながらも、こよみ先輩は空に浮かんでいた大きなアナログ時計を操り、こちらにぶつけようとしてくる。
いくつも大きな円盤が飛んでくる感覚。無秩序ながらわたしのことをちゃんと狙ってくる。
「こんなもの」
迫りくるアナログ時計を片っ端から、拳や蹴りで壊していく。
巨大なアナログ時計は大きいだけで硬くはない。半分に割れて吹き飛ばされたり、粉々に砕けたりしていくものが多い。
「まだまだまだ、いやいやいや!」
破壊力の暴走はまだ続いている。壊れた大きな時計の針や部品なんか今度は飛ばしてきた。
数は多いが、これで対処できる。
「創造の散花、クリエイト・スキャター」
花の種をまくかのように手に集めた創造の輝きを撒き散らし、時計の針や部品をすべて消し去った。
苦しみだけこよみ先輩に広がっていく。壊れていく。
「許せません、ここまで苦しめるだなんて、創磨、わたしに力を」
「ああ」
創磨と同調し創造力を高めていくと、風光る創造の花吹雪は風車のようにわたしを中心に回りはじめた。
「根源は紡がれし創造の輝き、今一つとなりて解き放つ」
手の平に集まった創造の輝きは暖かな想いで満たされている。その想いはやさしい想いだがけして弱いわけではない。絶対に助けたい、やさしいからこそ想いは強くなった。
「クリエイト・バスター」
やさしく強い想いが創造の輝きとなって解き放たれ、桜舞う創造の輝きはブレイカーをつつんだ。
破壊の意思が創り出したローブと杖は消え、純粋な魂の輝きがあらわになる。
「ありがとうございます」
空中に浮遊していたアナログ時計と、周囲を取り囲んでいた赤黒い壁が消え。破壊の意思から解放されたこよみ先輩の精神の塊はあるべき場所へと戻った。
こよみ先輩と闘うことになってしまったけれど、別にいがみあっていたわけじゃない。本気で本屋さんを守りたかった、その気持ちを利用されだだけだ。
「これで本屋を守りたいっていう願いは叶えられなくなった。本屋に人が戻るチャンスだったのに。残酷なことをするなぁ、おまえ達は」
元凶をつくりだした破壊王ベインは悪気もなく、わたし達を挑発する。
憎しみや怒り、普段はいだかないような感情すら芽生えていく。
「あなたがこよみ先輩をそそのかして、わたしの敵にしたてあげた」
「ああ、そうだぜ。お前の知り合いだったらから、俺はあいつを選んだ。しかしひどいやつだったよなぁ。本屋のためなら他人の楽しさを奪ってもいいと考えてんだぜ。願いを覗いってやった時、どんなけ自己中野郎だと思ったか。お前もそう思ったじゃねぇのか。ひどいやつだってよぉ」
こいつはこよみ先輩の願いを利用したくせに、こよみ先輩のことを悪くいう。許せない。
「何度も言いますよ、あなたがけしかけたからです。どこまでわたし達を馬鹿にするんですか」
「良い怒りだ。お前もちゃんと濃い破壊力をもってるじゃねぇか」
ベインはまるでわたしをあざ笑っているかのような笑顔になっている。楽しんでいるんだ。こんな時ですら。
「ふざなけないでください」
「ふざけてねぇよ。僕は楽しんでるんだけさ。お前が憎しみ怒ることをなぁ」
自分がしてきたことを顧みることすらしない。こんなやつにこよみ先輩は利用された。わたしは傷つけたくない相手と闘うことになった。それは許していいものだろうか。
(許せない、許しちゃだめです)
因果応報、憎しみと怒りは正当化するに値する理由をみつけてしまった。
「創造の弾花、クリエイト・ショット」
やさしさはない。怒りがこもった創造の輝きは破壊王ベインにはぶつかることはなく、体をすり抜けた。
「これはあくまで精神体、想いってやつは残せるのさ。また逢おうぜ、レイター共」
ベインの幻影はわたし達の前から消える。
怒りの矛先を向ける相手はいなくなった、闘いは終わりだ。
「戻ろう、俺達も」
「そうですね」
怒りは硝煙のように残っているけれど、いつまでもそうしているわけにいかない。
こよみ先輩を助けられた、今はそのことを喜ぼう。
ふつふつとやり場の怒り、それをかき消すようにわたしは未来のことを考えはじめた。




