5話 残されし想い ⑩
感動の余韻が残る中ライブが終わり、わたし達も会場を後にした。
「楽しかったですよね~ティアモめちゃくちゃ盛り上がってましたよ。やさまおのOPの時とかすごくて」
「あれは体に勝手にだな」
「解ります。うぉおおってなちゃいますもんね。みんながライブに行きたがるわけです」
この場でしか味わうことのできなかった満足感が心地良い。
夜風が吹き抜け、星々が空を照らす。当たり前の光景がより一層輝いてみえるほどだ。
「今日は色々を周ったわけだが、アイディアになりそうなものは見つかったのか。それを兼ねての気晴らしだったのであろう」
帰路につく中、ティアの言葉で急激に現実に引き戻されていく。
「俺はかなり収穫があったな」
「え、そうなんですか」
「今回訪れたのは全部人が集まる場所だ。そこにはなにかしらの理由がある。それを考え、物語のどう活かすか、きっけけみたいなものはつかんだきがするよ」
創磨は気晴らしとはいいつも、アイディアが探せそうな場所を選んでくれていたようです。
人が集まる場所、そこになにかしらのヒントがあった。
「逢夢もなにかしらみつけられてると思う。もしかした同じものかも」
創磨はわたし自身もなにかきずけたものがあると考えていてくれた。
(わたし自身がきずけたこと……)
大須商店街では好きな作品のグッズやフィギュアと出逢えただけではない。多国籍の美味しい料理の数々、神社やお寺のような古くからある場所も大切にされていた。
ライブ会場ではあかねちゃんの歌、それはライブ会場にいる人達の想いを一つにしていた。
(それぞれの場所に共通してあったもの。それはきっと……)
心地よい高揚感、未来への期待。創磨にわたしの考えを告げようとした時……
「そんなものあるわけねぇだろ」
それは突然、この世界に現れた。
「ベイン!」
警戒を強め創磨の前に立つ。
擦り切れた黒紫色の服を着た赤黒い髪の男、破壊王ベインは頭上からこちらを見下ろしている。
「そう睨むなって。ずいぶん楽しかったみてぇじゃねぇか。お悩みを抱えているわりにはな」
「ずっとあなたはわたし達のことを見ておられたのですか」
「当たり前だろ。お前達が何を考え、どんなことをしているのか。それも楽しみてぇからな」
やはりベインの目的は解らないまま。敵の楽しそうな姿を見て楽しむ、理解ができません。
「要件はなんだ。ここに来たのは理由があるんだろ」
「そのとおりさ。来てもらうぜ、楽しいショーのはじまりだ」
破壊王ベインは指を鳴らすと、強制的にベインが指定した場所に転移させられた。
* * *
「ティアは?」
「どうやら俺達だけ転移させられたらしい」
近くにいたのは創磨だけ、ティアは転移させられていなかった。
「ここはアウターワールドの中に創りだした閉鎖空間。ここへたどり着くのは至難の業だ。援軍は来ないと思ったほうがいい。ま、そもそもお仲間の剣士も今は戦闘状態。すぐには来られないようにしてあるんだけどなぁ」
ベインが創り出したという閉鎖空間には、大きなアナログ時計が空中の至る所に浮遊し、赤い障壁が取り囲んでいる。おそらくこの空間は破壊力で創り出されてもの。
それにブレイド交戦しているという発言。事前にこのタイミングを狙っていたかのようです。
「ブレイカ―。あいつがお前の敵だ」
ベインは破魔とは違う新しい敵、ブレイカーと呼ばれる者を転移させた。
「そんなどうして……」
そのブレイカーと呼ばれた者は、わたしがよく知っている人……
「こよみ先輩、どうしてあなたがここにいるんですか」
魔法使いのような赤いローブを着用、先端にアンティークの時計がついた杖をこよみ先輩は持っていた。赤いローブからは赤い破壊力の煙が吹き出していた。
「ほんとだ、ほんとに逢夢さんがいる」
歪んだ笑みをうかべ、こよみ先輩がわたしの方へ歩いてくる。
「どうしてこの場所にいるのか、それは本屋を守るためです」
「本屋を守る?」
「はい、そのために破壊力を使って人々の時間を奪います。本屋で本を買い、たくさんの本を読んで欲しい……逢夢さん、あなたも協力していただけませんか」
こよみ先輩から普段のやさしさは消えている。破壊力に支配され欲望に飲みこまれてしまっていた。
「駄目ですそんなことは、正気に戻ってください」
「なんでそんなことを言うんです。あなたは創造のためになろうとしているんですよね。だったら本屋を守るために力を貸してくださいよ!」
訴えかけたかと思えば、大声で怒鳴りつけてくる。破壊力により情緒が不安定で、心が完全に壊れてしまっている。
「そのために、多くの人の大切な時間を奪うなんてことできません」
こよみ先輩の大切にしたいという想いは本物であっても、やり方は間違っている。その姿勢を崩すわけにはいかない。
「ひでぇな~先輩が頼みこんでるのに願いを聞いてやらねぇなんて」
手をぶらぶらとさせながらふざけた自論を展開しはじめるベインを、わたしはにらみつけた。
「あなたが、こよみ先輩をこんな風に変えたからです!」
「俺はただこいつの願いを叶えようとしているだけだ。俺ばその手助けをしているだけ。良い奴だろ、わざわざ破壊の使者、ブレイカーになれる力まで与えてやったんだからなぁ!」
ベインが挑発してきていたのは理解していたが、ぐっと握りこぶしをつくり、怒りでぐっと歯を噛んだ。
さぞ自分が良いことしているかのように振る舞うベインへの怒りは増していくものの、今はブレイカーとなってしまったこよみ先輩のことを考えるのが先ですね。
「こよみ先輩、破壊力に負けないで。やさしいあなたに戻ってください」
「やさしくてもなにも救えない。だったら強くなるしかない。邪魔をするというのなら容赦しません」
「逢夢、変身だ。言葉を交わすだけが解決する方法じゃない」
創磨のことにうなずき、決心する。
闘うことでこよみ先輩を助けられるのなら、わたしはこよみ先輩と闘う。
「レイター・ブリリアントチェンジ!」
クリエイトブックの桜の紋章をタッチ。クリエイトブックを開き、桜の花びらを舞い上がらせながら
「未来へ続く創造の輝き、レイ・クリエイト」
桜色のバトルコスチュームを創り出した。




