1話 誕生、レイ・クリエイト ⑤
仕事を終えて帰宅後、風呂と夕食を済ませてから執筆をはじめていく。
キーボードを叩く音を軽快に鳴り、テキストエディタに書かれていく文字はキーボードを叩く度に増えて空白を埋めていく。
テーマ 『創造✕ヒーロー』
1話 おおまかな流れ
才能がない、こんなことを続けていても無意味だ、新開ソウマは物語を創ることを諦めてから数年が経ったが、社会人になった今でも物語が大好きな気持ちは失う続けることなく残り続けていた。
そんな新開ソウマの前に現れたのは、かつて自分が描いたキャラクター桜木逢夢。その逢夢との出逢いをきっかけに、もう一度物語を創りたいという想いが芽生えていく。
その裏で自分をおとしめた創作物に対して恨みをもっていた魔王ディアボロスが現実世界に現れ、創作物を創ろうとするクリエイター達に復讐をしようと決意。
迷いの中にいる新開ソウマを狙い、かつて諦めた自分の姿を見せて創作意欲を失わせようとしてきた。
物語が大好きな気持ちだけではどうすることもできない、すべてを諦めかけていたその時、
「わたしがいるのは、物語が大好きなあなたがいてくれたからです」
逢夢の言葉が心の中で響く。
「桜木逢夢を創れるのは俺しかいない。俺は俺自身の物語を創りたいんだ」
そんな逢夢のためになろうと、もう一度物語を創ることを決意する。
「我の思い通りいかぬというのならば、力づくですべてを奪うのみ」
魔王ディアボロスはミノタウロスを召喚し、力ずくで従わせようとしてきた。
「すべてを奪われてたまるかよ」
「創磨、わたしと共に輝きましょう」
逢夢と共に創造力を輝かせ、創造力まとう戦士へと逢夢は変身。変身した逢夢は圧倒的な力でミノタウロスを倒した。
それが第1話までの内容。2話目以降も魔王ディアボロスとの戦いは続き、第1巻目の最後で魔王ディアボロスとの決着迎えることになる。
逢夢との出逢いから一週間、大まかな話の流れを仮ではあるが決め、これを元に物語を書き進めることができていた。
「また逢夢に逢えるといいな」
逢夢に出逢いこれまで書いてきたものをみせたい、そう思い眠りへとついた。
「お待ちしておりました、創磨」
眠りにつくと、あの時と同じように夢を通じてクリエイト・ワールドに訪れることができた。
桜の木の下で読者をしていた逢夢は本を閉じ、俺がいる方へ歩いてきてくれる。
「本当に来れた。一週間ぶりだな」
「また、こうしてあなたと出逢えることができて嬉しいです。かなりあの時から書き進めておられますよね」
「逢夢のおかげだよ。毎日書くの楽しくてさ」
「お礼を言うべきなのはわたしのほうです。創磨のおかげで物語の中で活躍することができるようになりました。ありがとうございます」
感謝の気持ちを伝え頭をさげると、逢夢は心の充足を感じさせる笑みをみせた。
「魔王は他の作品で最強の力をもった存在であることが多い、その魔王と最初に戦うことになるだなんて思ってもいませんでしたよ」
魔王と闘うことを楽しみだと伝わるような、逢夢の明るい声色だった。
「創造をテーマにする敵について考えていたら、創造に対する憎しみを持って敵をだしてみたいと思った。多くの物語に登場し倒されてしまう存在、そこで最初に浮かんだのが魔王だった」
「そういった理由で魔王を敵にしたいと考えていたんですね。他に作品にはない理由になっているように思えます」
「そこはかなり俺もきにいってる部分かな」
逢夢が他の作品にはない要素だと思ってくれているのは自信になるな。
「赤い鎧の魔王ディアボロス、まだ直接対決していませんが強そうです。その前にまずはあの魔王が召喚したミノタウロスを倒さないと。どうなるのか続きが待ち遠しくて……」
「そう、これから俺は逢夢が戦う姿を書きたいと思っている。だからこの世界でやってみたいことがあるんだ。そうしたほうがよりイメージしやすいと思って」
意味もなく、逢夢の周りをぐるぐると周ると、
「それはどんなことでしょうか」
「逢夢、この場所で変身をしてみないか。案はもう考えてある。逢夢が変身する姿を見てみたい」
ぴたりと足を止め、逢夢にやって欲しいことを伝えた。
「創磨の前で変身できるんですか! ぜひともやってみたいです」
このクリエイト・ワールドに来て、逢夢ともう一度逢夢と出逢いたいと思ったのは、自分が創り出した変身シーンをみたいと思ったからだ。
現実世界では頭の中で想像するしかなかったのだが、このクリエイトワールド内でならば直接みることができる。今からどんな変身になるのか、俺も逢夢も楽しみでしかたがなかった。
「これが俺が創り出した、バトルコスチュームだ」
逢夢の衣装が創造力の輝きにつつまれると、俺が創りだしたバトルコスチュームへと変化した。
眼の前にある美しい桜の木を彷彿とさせる桜色のバトルコスチュームだ。
ドレスのように華やかな美しい造形を彩るように、桜色のスカートが花びらのように広がり、手首に桜の花とレースをあしらった腕飾りついている。
二の腕の美しさ、胸やふとももの膨らみを感じ取れるくらいには肌を露出させ、女性らしい魅力も感じとってもらえるようにした。しかしあくまでそこはバトルコスチューム、健全だと思えるくらいにはなっていた。
「これがわたしのバトルコスチューム! なんだか美しい桜をまとっているかのようですね」
逢夢は眼の前に鏡を創り出し、腰を回し色々な角度から桜色のバトルコスチュームを着ている自分の姿を見て喜んでくれている。
「変身した姿って、そのキャラクターのイメージをがらっと変える時もあるんだけど、逢夢の場合はもっとそのキャラクターのイメージをより膨らませるようにした。うん、創造した以上にきれいでかっこいいよ」
子どもの晴れ姿をみた時、その親は嬉しそうな顔をする時がある。俺はそんな親のような笑顔をみせながら、逢夢が俺が創り出した桜色のバトルコスチュームを着ている姿を見ていた。
「///////////////////」
逢夢は俺の視線にきがつき、はじめて姿を見せた時のように照れくそうに頬を赤く染めていた。
「もっとわたしの変身した姿を見てくださいね」
変身した姿で指をからめ恥ずかしそうにチラチラみつめられると、こっちまで照れくさくなってくる。でもそれがいい、そんな姿もまた逢夢らしいと思えた。
「変身した姿の名前も決めてある。“レイ・クリエイト”それが変身した時の名前だ。これからクリエイトは物語の中心にいつもいつづけ戦うことになると思う。そんなクリエイトだからこそ、物語のテーマを彷彿とさえるような名前にしてみた」
「わたしはレイ・クリエイト、物語のテーマを彷彿とさせるような素敵な名前だと思います」
花をイメージとした名前する案もあったが、最終的にはレイ・クリエイトという名前に決めた。
変身後の名前は、そのキャラクターをより輝かせるものにしたい。これまで見てきた作品がそうであったように名前にもこだわった。
「そうだ、一つやって欲しい技があるんだけど」
「おまかせください」
クリエイトに俺がイメージした技を伝えると
「サンドバック君とでも言えばいいのでしょうか、これがあったほうが威力が伝わりやすいと思いまいたので」
遠くへ吹き飛んでいきそうなふわふわの人形を創りだしてくれた。
クリエイトは大きく息を吸い込み、そのサンドバック君の前に立つ。闘う時の顔つきへと変わり鋭い視線を向けている。穏やかな強さとでいうのだろうか、クリエイトはそんな強さをまとっているにも見えた。
右手に光輝く創造力を集束させ、体をひねって腰の入ったパンチを繰り出しながら、俺が創り出した名を叫んだ。
「クリエイト・インパクト」
創造力が込めた拳をサンドバック君に叩き込まれ、サンドバック君は桜色の空に向かって飛んでいく。間近でみると迫力が違う。吹き飛ばした衝撃で風が起こり、桜吹雪が舞い上がっていた。
「うぉおお、間近で見るとよりかっこいいな」
「これが創磨の考えてくれた技。物語の中でも早く使ってみたいです」
逢夢はさきほ技を撃ち込んだ拳をかかげみながら、笑顔でつぶやいた。
「次のミノタウロス戦で、すぐに使うことになると思う」
「それは楽しみです」
楽しみなことが多すぎて、二人して笑顔が絶えない。
「さて、せっかくだしもう少し細かい所も決めていくか」
「細かい部分というのは」
「変身シーンの流れだったり、変身後の台詞だったり、細かい所をさらに決めてより魅力的な変身シーンにしたいなぁと。桜が舞う中でって感じにはする予定」
「とりあえず、踊ってみましょうか」
両手を広げ、逢夢はくるくるとまわっている。
「もうちょい優雅な感じなのかな。ふわっとするような感じで」
「こんな感じでしょうか」
「あ、たぶんそのイメージに近いかも。花が舞ってる感じにしたいだよな」
その後も変身シーンの動きをお互いにだしあい、充実した楽しい時間を過ごすことができた。
「だいぶ参考になった、ありがとう。そろそろ戻るよ。早く物語として書いてみたい」
「創磨の創る物語、楽しみにしていますね」
「おう、すげぇ楽しいのにしてやるからな」
出逢ってまだ間もないけど、もう慣れ親しんだ感じで手をふりあう。
すでに逢夢は俺にとってかけがえないキャラクター、とても大切なものになっていた。
日々執筆が続く中、逢夢との交流も盛んに行われていく。
必殺技や戦闘シーンを考えたり、どんな照れさせ方や甘え方をするか考えたり、魔王ディアボロスとの決着をどう迎えればいいか考えたり、物語についてたくさんのことを考えた。
それは今までに感じたことのない充実した日々。きずけば月日は流れ、逢夢がヒロインとして登場する物語を書き始めてから3ヶ月が経過していた。
春風はすっかり止んで、夏の太陽に照らされる日々が続いている。
世間の関心はこの夏をどう過ごすか、そのことばかりだろうが俺はいたって平常運転。書きはじめの頃の勢いは衰えることなく、逢夢との共同制作も一旦終わりを迎えようとしていた。
「クリエイト・レイターズ、短くまとまったかっこいい響きのタイトルですね。どういった意味なのでしょうか」
「レイは輝き、それにキャラクターを足して作った造語がレイターズ。そして主題の創造を足せば、創造を輝かせるキャラクター達、それが『クリエイト・レイターズ』だ」
すでに決まっていた作品のタイトルをこの世界の逢夢にも伝えた。
「クリエイト・レイターズの完成までたくさんのことを考えましたよね」
「そうだったな――それも今日で一旦終わり、後は投稿するだけだ」
1巻分の内容を書き終えてやるべきことはやった。小説大賞に投稿してみたいと思っている作品なので、ここから先は大賞をとれるかという結果しだいで決まる。
続きを書くことも可能だが、応募中は別の事をやりながら結果を待ちたいという考えでいた。
「この先もずっとこの作品のことを、逢夢のことを大切にしたい」
別れなければいけない、その寂しさが大切にしたいと気持ちを浮かび上がらせる。
「俺は信じてる、小説大賞をとって俺達が創りだした、この輝きがたくさんの人に届くことを」
逢夢ともっと先の未来までみてみたい。どんなことがあっても大切にしたい。
その気持ちが、今まで創り上げたどんな小説よりも読者に届けたいと思わせてくれる。
「わたしも信じます。蕾のままでいるわたしが咲くことを、わたし達が創りだすこの輝きがたくさんの人に届くことを」
やさしくて、頼りがいがあって、居心地がいい、人を安心させるような笑顔。
その笑顔につつまれていることを幸せに感じながら、逢夢のことを大切に想い続けた。