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5話 残されし想い ⑨

「お店じゃないけど、少し寄りたい場所があるんだ」

 創磨が寄り道したい場所は、らしんがんを出てすぐ裏手にる。


 路地を曲がった先『三輪神社』と書かれた石碑がみえた。


「こんな場所にも神社が。有名な神社なのでしょうか」

「有名なのは大須観音の方かな。ただあるもののおかげで、知る人ぞ知るみたいなポジションにはいそうかな。俺もそこで興味を持ったし」

「あるもの?」

「中に入ってみればすぐ解るよ」

 赤い鳥居をくぐり、境内へ。

 

 境内はそれほど広いとはいえない、小さな規模の神社だ。

 手水舎、拝殿、社務所なんかもみえ、そこは一般的な神社となんら変わらない。

「うさぎさんの置物があって、すごく可愛いですね」

 変わっていると思った部分、それは境内のいたる所に小さなうさぎの置物が置かれていることだった。神社の厳かな雰囲気の中を崩しすぎず、ぴょこんとした可愛らしさ。見ているだけで心がほっこりしてしまいます。


「うわ、こんなにも大きなうさぎの像もありますよ」

 拝殿の前には『福兎』と書かれた柱の上に灰色の兎の像が座っている。

 可愛らしさの中に威厳がある、神様の使いの名にふさわしい姿をしていた。


「『幸せのなでうさぎ』 うさぎは神様の使い。なでることで幸せをいただけます」

 と書かれた立て札が隣に立っており、撫でることで幸せを届けてもらうことができるとのこと。


「どうして、撫でることがどうして幸せにつながるのだ」

 うさぎの像をみながら、ティアは疑問に思ったことをつぶやくと、

「傷ついた因幡の白兎を大国主という神様が助け、その兎が恩返しをした。因幡の白兎の伝承にあやかってだろうな。ここにも書いてある。

 神話の中で語られた因幡兎の話が元になっているのだと、拝殿の前の看板にも書いてあった。

 

「神話の時代から続く大切な想いを語りつぐ場所でもあるのですね。神社という場所が消えずにあるのも、この世界に生きる人々が古くからあるものを大切にしてくださっているからなんですよね」

「そっか、そういう考え方もあるのか……大切な想いはどれだけ過ぎ去っても消えることってないのかもしれないな」

 透き通るような清々しい気持ちで境内を再び見渡し、大切な想いを語り継ぐ場所があることが心地よいと思えていた。


「参拝してから兎も撫でようか」

 いろいろと目移りしてしまいますが、まずは参拝から。

 手水舎で手を清めた後に賽銭箱の前へ。


(創磨の作品が多くの人にみられますように。わたし自身がなにか新しい発見ができますように)

 二礼二拍手一礼の後、願い事を唱えてから賽銭箱にそっと五円玉をいれた。


「次はこやつか。このうさぎ像、他の神社ではあまり見かけぬものだな」

 神社に小さなうさぎの人形が飾られているのといい、他の神社ではしないことをここではしていた。


「この神社独自の特色をだしたいから、このようなことをされているのでしょうか」

「最初から特色をだそうとしていたわけじゃなくて、自然とそうなっていったんだと思う。因幡うさぎの伝承を後世の人々にも伝えたい。そういった想いからすべて生まれたものなんだ」

 神社というのは何千年も前からあるもの。特色をだそうとしていたのではない、想いを大切にしていったことが今につながっている。

 

「わたし達を見守っていてくださいね」

 兎の像をやさしい気持ちで撫でると、心が穏やかになっていく。


「やさしい気持ちが幸福を運んでくれる。やさしい気持ちでいることがきっと幸福への近道だと教えてくださっているのでしょうね」

 時代を超えて教えを得ること。そんな貴重な体験をこの場所ですることができた。


「次はどこへ行かれますか」

「昼飯ついでに食べ歩きでもしようか」

 

「ぴりっと辛味が効いたかりっとした衣の裏には、柔らい噛みごたえと共にジューシーな油の旨みが広かっていく。何度でも食べてみたくなる味ですね」

 カップの中に入ったジューシーな鶏肉を衣で揚げた大須商店街の名物料理の台湾唐揚げを食べ、


「肉包の方はとろけるような肉汁が美味しくて、菜包の方はさっぱりとした味つけの中に野菜の旨みが確かに残っているのが美味しいです」

 小さな屋台のようなお店で売られた、本場台湾の味を再現した中華まんを食べ比べた。

 

「このさっぱりしたレモンの香りがいいですね。喉も潤います」

 喉もそろそろ乾いてきたので、レモネードを飲んで喉をうるわしていく。


「向こうがわに老舗の天むすが食べられるから、そっちもいってみようか」

 少し離れた場所にある老舗のお店にもうかがい、

「このさくさくとした衣の食感、エビとお米がさっぱりとした油と溶け合って……とっても美味しいですね」

「塩加減も良い効き方をしておるな」

 エビだけではなく、衣や米にこだわりを感じられ、それが計算されつくした旨味を引き出していた天むすも食べた。


「どの店も長年愛されているように感じました」

「これからも多くの人に愛されつづけていくんだろうな」

 食事を通して、代々受け継がれた味が後世にも伝えられていく。それはこの味を大切にしたいという想いを持っている人達がたくさん訪れているからでしょうね。

 

 食べ歩きをし終えるとまた違う場所へ。

 

「ここが大須観音。また雰囲気が違いますね」

「大きなお寺っていうのはあるんだろうな」

 ロウソクの火でぼんやりと照らされている観音菩薩像がある本堂、三輪神社とはまったく違う厳かな雰囲気を感じながら、参拝した。


 参拝が終わった後も大須商店街の散策は続く。


「ここのみたらし団子美味しいです」

 老舗の団子屋で美味しいみたらしだんごを食べたかと思えば、

「りんご飴の専門店、どんなお味なんでしょうか」

 りんご飴のカリカリしたほどよい甘さを堪能。

 

「え、こんな商品まであるんだなんて」

 アニメショップやレトロゲーム店をめぐり、多くの魅力ある物を見て周った。

  

 時刻は4時ごろ。まだまだ周りきていない所があったが、日が暮れはじめている。


「大須商店街、楽しんでくれただろうか」

 そろそろ帰宅の時間、そう告げているかのような創磨の言葉だった。

「ええ、とっても楽しかったです。そろそろ帰宅される感じでしょうか」

 大須商店街にはまた来ることができる。楽しみは後にとっておこう、そう考えながら話していたら


「早めな夕食を食べてから、またつきあって欲しい場所がある」

 思いがけないことを創磨は口にした。

 

「まだなにかサプライズが用意してくださっているのですか」

「そんな感じかな。楽しみにしといてくれ」

 どんなサプライズが待っているのか、創磨はわたしを楽しませるのがうますぎます。

 

 夕食を軽く食べ、電車へと乗る。

 そして訪れたのは『愛知芸術大ホール』

 そこにある看板には『鈴原あかねライブツアー ギャラクシーコンタクト』と書かれた。

 

「え! あかねちゃんのライブ!」

「配信でみるライブだけじゃなくて、現地のライブも見て欲しいなって思ったんだよ。知ってる声優のライブなら興味があるかなって。直近でチケットとったから後ろの方の席にはなってしまったけど」

「いえいえ、あのあかねちゃんを間近でみられるのが楽しみですよ。やさまのOP歌ってくれたらいいですね」

「例年のセトリにはあったから、歌ってくれそうだけどな」


 二階からステージがみえる。映画館の最高座席よりも少し後ろな感覚。

 約2500人規模の座席があり、ライブが始まるのを今か今かと待っているお客さん達がいる。

 

「はい、ペンライト。やっぱりこれがないとな~」

 わたししとティアにペンライトを創磨は渡してくれた。

 

「なぜ、そんなものを振るのだ」

「一体感がでるんだよな~ペンラあると」

 ティア後ろについているスイッチを押して、ペンライトの色を変えている。

 一体感、それはどういうことなのでしょうか。体験してみないと解らないことのようです。


「まもなくライブを開始いたします。どうぞお楽しみください」

 ライブがはじまると同時に会場が暗くなり、会場に黄色のペンライトが灯りはじめる。ざわつきが消え、誰もが運命の瞬間を待っていた。


 そして……

「みんな~おまたせ~!」

 あかねちゃんの声が響き、ステージが光輝いた。

 

 黄色いライブ衣装を身にまとっているあかねちゃんが現れ、

「届け、あなたの心の銀河まで! ギャラクシーコンタクト、ライブスタート!」

 ライブのはじまりを告げると同時に音の渦が会場にまき起こった。

 

 ライブ会場で聞く歌声は圧巻だ。音の広がり方がCD音源やWEBで流れていたものとはまったく違う。ずしんずしんと、体の内側まで広がっていく感じがする。 

 聞きやすく調整された完璧な音ではない、生きた音がここにはある。

 

「ハイ! ハイ! ハイ!」

 曲のリズムに合わせて声をだし、ペンライトを振り。

 熱唱と声援が踊りあい、それと同時に会場全体のボルテージもあがっていく。

 同じ歌を聞いて盛り上がっているという高揚感。これが創磨の言っていた一体感! すごく楽しいです!

 

「鈴原あかねです! みんな~! 来てくれてありがとう!」

 あかねちゃんが挨拶をすれば、会場がどよめきたつ。

 鈴原あかねは今もたくさんの作品に出演され、何度も作品を通して声を聞いたことがあった。

(あのあかねちゃんが目の前にいるんだ!)

 直接出逢えたという喜びが一気に湧き上がってきた。

 

 銀河色のライブは続く。スポットライトの光が会場を目まぐるしく照らし、ステージが様々な色で光輝く。

 太陽のように熱くかっこいい曲から、煌めく星々のように美しい曲。

 歌う曲によって色が変わり、心まで変色していく。

 

(きたきた! やさまのオープニングだ!)

 その中には『やさしい魔王の育て方』のオープニングソングもあり、思い出の曲はさらに熱狂を創り出していく。

 

(想いが一つになっていく。これがライブなんだ!)

 歌声に呼応として、会場全体の想いが一つとなる。

 この時間、この場所でしか聞けない歌がある。それがここに来る意味なんだ。

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