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5話 残されし想い ⑦

「この人の配信、すごく人気あるんですね」

 こよみはどうしたら再生数が伸びるのかヒントをもらうために、読書する時間を犠牲にしてでも動画配信サイトの動画みていた。

 

 ここには本屋さんにはない世界が広がっている。

 双方向であり、たくさんの人が一人の配信者とつながろうとしている。

 

 本のように自分で考えなくても、配信している人がすべてを考えてくれる。笑ってくれる、楽しんでくれる、すべてのことを他者に預けてる感じがする。

 

(他人を通してしか見れないのが、どうにも物足りない感じがします。自分が良いと思ってみていることには変わらないのですが、自分で新しい発見をすることも楽しいのに)

 

 住む世界が違う人達、遠い異国の地に迷いこんだかのよう。みんなは笑っているのに、わたしは笑っていない。

 多くの人にとって求められている娯楽は気楽で疲れないものになってきている。それは悪いものではないと思いつつも、こよみもの気持ちは暗くなるばかり。

 

(本を読むと疲れるって思われちゃってるのかな、必要ないって考えてるのかな)

 こよみは目を閉じると、たくさんの本が山積みになっていく光景がみえた。不安な気持ちがみせたその光景に背筋が氷立ち上がる。

 

「弱気はだめ。わたしがちゃんとしないと本に恩返しができなくなってしまいます」

 このままじゃ多くの人達に本を読んでもらえない。

 

 こよみは新しい案を考えようと白紙のノートをみつめた。ペンをもってもなにも書けない。本を紹介するのは楽しいけど、ちゃんと見てもらえるようなものにしないといけない。そうしないと配信をしている意味は薄れてしまう。

 

「もっと見ている人達が好きそうなものを紹介すればいいのかな……それってなんだろう」

 あの人達に届けられるものってなに? 流行りにのればいいのかな。本とは関係ないことをすればいいのかな。考えようとすればするほど、なにをすればいいのか見えなくなっていく。

 

(周りにあわせないことでわたしは救われてのに、今は周りに合わせないと救うことができない。誰もが本を好きになってくれれば良いのに)

 本を好きになって欲しい、その思いがこよみの過去の記憶を蘇らせる。

 

 こよみは中学生の時、本を友達に奨めてみたことがあった。

「これすごく面白いんだ」

 仲が良かった娘にたくさんの本を伝えようとしたら、

「文字ばっかり。わたしには難しいよ」

 そう白い目でみられてしまったことは今もこよみは鮮明に覚えている。興味がない人の目は心を凍てつかせるほどに残酷だってことを。

 

 本屋さんに来てくれる人達はどんな形であれ、本を求めてきてくれる。なにかに興味をもってくれているからこそ安心できた。

 でもこの場所にはそれはない。本との出会いを求めていない人もいる。本のことなんて眼中にないんだ。

 

「動画ばかり見ている人達の時間を奪えたらいいのに……だめだよ、そんなこと思うなんて。この人達は悪くない、どうしてこんなことを思ってしまったんだろう」

「それはその願いが、お前のの本心だからだよ」

 身勝手な感情がこよみの心に生まれた時、邪悪な声が聞こえた。。


「あなたはいったい?」

 こよみが声のする方に振り返ると、赤黒い髪の男が部屋の中にいた。見た目こそイケメン男子って感じだけど、悪意を感じる部分があると見ただけではっきりと解った。


「俺か、俺は破壊王ベイン。お前の願いを叶えてやろうと思ってここにきた。良い願いじゃねぇか。自分の好きな物のために時間を奪うなんてよぉ」

 眼の前にいる赤黒い髪の男は怪しく笑いながら、こよみを闇に誘うかのように語りかける。


「違います、これはわたしの本心なんかじゃ」

「いいや、本心さ。お前が望んでる未来を教えてやろう」

 赤黒い髪の男が放出した赤い粒子に触れると、本をたくさん読んでくれる未来がみえてしまう。

 

(たくさんの人が本屋に来て、たくさんの本を読んでくれる。そのためだったらなんでもしていいのかな?)

 普通ならあまりの恐怖に押し潰されていただろうけど、本屋のためならばこよみは悪意そのものを受け入れてしまえた。

 

「教えて、何をすればいいの」

 そしてきがついた時には、こよみは自分の中に生まれた悪意に支配されている。

 

「簡単さ、願いを叶えるために奪えばいい」

「奪う……」

「そうだ、奪ってしまえばいい。お前から大切なものを奪ってるやつらからなぁ」

 こよみは差し出された手を握り、赤い悪意を流しこまれる。

 

 こよみはそれが悪魔に魂を売り渡していることだという自覚はあった。それにも関わらず悪魔と契約を交わしてしまう。駄目なのに、嫌なのに、その悪意を受けれるしかない。不安なままでいられるくらいなら、そうこよみは思ってしまうのだ。

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