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5話 残されし想い ④

風呂にはいっから自室へと戻る。

 創磨の家に住むことになってからもうすぐ2ヶ月が経とうとしており、本棚の他に机を置いてもらっていた。

 

――こんばんは。お伝えしたいことがあり連絡させていただきました。もっと本屋を盛り上げたい、なにかできることをがないか……そう思いどうが配信をしてみたいと考えています。二人の意見を聞きたいです。


 机の前に座り、こよみ先輩とブレイドにスマホでメッセージを送った。


「わたしもやってみたいです」

「わたしゃも、協力するよ~」

 二人から返ってきたメッセージはどれも配信に協力的なもの。

「これから忙しくなりそうですね」

 机の上に置いてあったノートパソコンの電源を入れて、さっそく配信活動について情報を集めはじめていく。

 物語のキャラクターとしてだけではなく、この世界で生きる人間として輝きたい。わたしの中に違うわたしをみつけたようなきがした。

 

「店長に配信する許可はとりました。後は内容を決めるだけですね」

 翌日、店長への相談は社員であるこよみ先輩がしてくれ、本屋にて早速動画配信について話す場が設けられた。

 参加者はこよみ先輩、わたし、ブレイドだ。


「本の紹介はしましょう。本屋さんとして本の魅力を伝えていくことが一番だと思います」

「本のことを好きだなぁと思われたいですよね」

「本屋で配信するってなるとさ、他にはどんなことができそうなのかな~」

 ぐるぐると頭の前で指先をぐるぐると回し、ブレイドはお悩みアピール。本屋での配信についてはあまり知らない様子。

 

「本について配信している配信者さんのチャンネルでは、本の紹介以外だと本の考察や書評をしている人が多い印象ですね。本屋を著名人と観回ることをしているチャンネルもあります。後は著作権が切れている小説を朗読されている方もいますね」

 こよみ先輩はすでにどんな配信があるか調べて、本屋の配信について詳しそうです。

 

「あ、本当だ~いろいろやってるんだね。あ、この人形すごい毒舌でおもしろいね~本以外の紹介面白ろそう。へ~こんな面白そうなのがあるんだ」」

「そこのチャンネルは人気ありますよね。こだわりのあるものを面白い角度からされていて、このチャンネルでしか見れないような動画がたくさんあるように思えます」

 本屋でありながら、面白い文房具や読書用品。作家の日常や書店で買うことができる食品なんかの紹介していた。可愛らしい見た目の人形から出てくる毒舌、そしてトークセンスは見ている人を面白いと思わせる魅力がある。


「このチャンネルのようなことができたらいいんだすけど、わたし達では難しいと思います。知識や人脈もないですし、トーク力もあるとは言えません。なので今できる範囲でやれることをするしかないと思います」

 こよみ先輩は自分達のできる範囲でやれることを探したいという提案をしてくれた。

 

 まずやり始めるというのならば難しいこともよりも、できる所からまずはやってみる。挑戦してみることがすべてのはじまりだと創磨も言ってくれていた。

「本の紹介動画から作ってみませんか。参考にすべきものもたくさんあり、初めてみやすいかと。こよみ先輩はどう思いますか」

「それなら、わたしにもできると思います。紹介したいと思っている本は実はたくさんあって……あ、撮影機材とかどうしましょうか。動画撮影に必要なものは揃えていかないと」

「それなら、わたしゃの家でやってみない?」

「ブレイドさんの家にですか?」

「マスター、いやイラストレーターのハガサネ先生の家に実は住まわせてもらってるので、撮影部屋に配信機材があるのでそれを借りることはできるよ~」

 絵麻がわたしのことを描いてくださった時に使った撮影部屋、あそこを借りれるとなれば機材の問題もなんとかなりそうです。

 

「いいんですか、お借りしても」

「マスターの許可はもうもらってる。好きに使っていいよだって~」

「では、そのご厚意に甘えさせてもらうことにしましょうか」

 これで機材の問題もクリア、動画を撮影することはできそうですね。


「ブレイドさん、あのハガサネ先生のお知り合いだったんですね」

「こよみ先輩、マスターのこと知ってくれてるんだ。見てみて、マスターの絵って、本当に可愛くてさ~」

「素晴らしい絵を描かれていますよね」

 スマホに表示された絵麻が描いた絵をブレイドは見せつけ、満面の笑みをみせている。絵をみせる姿は、出逢った時の絵麻を見ているようです。


「紹介する本はどうする」

 ブレイドが普段の落ち着いた表情になり、本の紹介へと話題が戻る。


「わたしはすでに紹介したい本を決めています。本を好きになるきっかけになった『トキ』という本です」

 こよみ先輩はすでに具体的にどんな本を紹介したいか決めていた。しかもそれはこよみ先輩自身にとって思い入れのある本。


「本が好きになるきっかけを与えてくださった、こよみ先輩にとってその本は素敵な出逢いだったんですね」

「はい、わたしの人生を変えてくれた、そんな本なんです」

 大切な宝物を握りしめるかのように、こよみ先輩は素敵な笑顔をみせてくれた。

 

「トキ……ミカ・エーデルが書いた海外の児童文学でしたよね」

「逢夢さんはご存知でしたか」

「創磨の……親戚の方の本棚にあったのを読ませていただきました。ゆったりとした自由な時間を大切にしたい、そう感じることができる素敵な物語でした」

 トキは五十年以上前の作品ではあるが、この世界では名作として有名だ。創磨の好きな作品の一つでもあり、わたしも気に入っている。こよみ先輩は特に好きなようだ。

 

「こよみ先輩が昔の名作なら、わたしは最近読んで面白いと思った『アビスの深淵』を紹介したいですね」

「面白かったですよね。絶望的な状況からわずかな希望にすべてをかける主人公達」

「心理描写も丁寧で、ただ悲惨な目にあわせるだけじゃないっていうのがすごく良かったです」

 わたし自身紹介したい本があり、その本の名前を伝える。今、面白い本を他の人にもすすめたい、それがわたしの動機だった。


「ブレイドさんはなにか紹介されたい本はありますか」

「そうだね~すぐには思いつかないや! わたしゃは誰かがすすめてくれたのを読む専っていうのが多いし、しばらくは裏方に徹しようかな~編集はわたしゃがメインでやるよ」

「編集は大変だと目にしみました。わたしも手伝いますよ」

「分散するよりまず誰かが一人、ちゃんとできるようにしたい方が良いと思うんだよね~こよみ先輩は逢夢は本の紹介に注力したほうがクオリティあがると思うしさ~」

 ブレイドのやり方の方が効率がいい。反論する必要はなさそうだ。


「解りました。編者はブレイドさんにお願いしますね」

 ブレイドが編集、わたしとこよみ先輩が中心になって動画の内容を考えることが決まった。


「ある程度のこては決めれたので、各自準備を進めていきましょう。みなさん、これからよろしくお願いします」

 こよみ先輩は目に決意に満ちた表情をしている。。

 それは雨あがりの空のように透きとおった心を感じさせ、このままずっと曇ることなく輝いていて欲しい。そう願ってしまうほど、こよみ先輩の姿は輝いてみえた。

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