5話 残されし想い ③
「これからの本屋さんはどうあるべきだと、二人はお考えですか」
現実に向き合うための一歩、それは二人に意見を求めることにした。
今できることをする、こよみ先輩が言われた通りまずはそこからやってみましょう。
「難しい問題だな。本屋へ行くメリットはあるが、それを解ってくれる人はそもそも本好きな人が多いしな。本屋に普段行かない人達にどう興味をもってもらうか……本以外の分野とのつながりがもてたらいいんだけどな」
「来てもらえるような魅力をつくりだす、本屋でしか体験できないような経験を増やすことができればよいのではないだろうか。カフェやバーを併設していたり、シェア型本屋として個人でも本の魅力を伝えることができる、色々と新しい試みはしておるようだがな」
創磨もティアもどう本屋があるかを考えてくれていた。ティアは本屋に対して悲観的な意見を持っていたけれど、それは現実をしっかりとみたいがため。ポジティブな活動についてもしっかり調べていてくれていたのですね。
「ティアは正論をいいながらも色々と調べてくれてるみたいだな」
これはツンデレの気配、ティアの顔はみるみるうちに赤くなっていく。これぞまさに熟したりんご。
「そ、そんなもの創造の研究のために決まっておろう。それに我ら物語のキャラクターにとって、本屋は読者と物語をつなげる大事な役割をはたしておる。なくなって欲しいとは思っておらんからな」
これがデレたりんごの味、とても甘くて美味しい、また食べたくなる照れた表情をみられてこっちまでニヤニヤしたくなってしまいますね。
「逢夢はこれからどうなって欲しいと思っているんだ?」
「わたしはもっと多くの人が本屋に訪れ、本との出逢いを楽しんでもらいたいと思っています。来てくださる顔を観るのがとても大好きなんです」
物語の中でもこの世界でも、多くの人に本と出逢い楽しんでもらいたいという気持ちは変わらない。
「だから今できることをしたい……配信活動なんかをしてみたいと思っています」
なにかできることがあれば、そう考えた時にでてきた考えが配信活動だった。
「なにが一番気軽に多くの人に見られているの、それを考えていたらやってみたいと」
「配信なら本屋でもやっている者達がおる。なにか差別化できることはあるのか?」
「今の所はないですね。だから迷っていて……」
配信活動をしたいとは思っていたけれど、具体的になにをしたらいいかまではまったく決めていない。それが迷いにつながっていた。
「やる気があるなら、挑戦してみてもいいと思う。挑戦しなければなにもはじまらない。やってみた後で色々考えてみてもいいと思うぞ」
創磨は小説の執筆に挑戦してきた。挑戦した者の目線で、わたしに大切なことを伝えてくれている。
「挑戦しなければなにもはじまらない……そうですよね。わたし配信やってみたいと思います」
創磨の後押しもあって、動画配信をやってみたいと決心することができた。
ホタルのように小さく輝く希望を、手にいれたにすぎないのかもしれない。それでも輝きはじめたことに意味がある。やるべきことがはっきりとみえたからこそ輝きはじめるものもある。
「なにか本屋のPRでもしてみてくれよ。人前で話す練習だと思って」
「PRですか……」
「逢夢が困惑しておるぞ」
「適当な思いつきで言ったことだからな。無理そうだったら別に……」
「大丈夫です」
思いついたことに挑戦できるくらいがちょうどいい。創磨の意思をわたしは受け取っていかなければ。
「わたしから本屋のPRさせていただきます」
本屋さんらしい、いえ文学的なPR。それをすればいい。
「本屋さん、出会い求めて、歩きだす」
ふと思いついたのは5、7、5。本屋さんに関連した俳句です。
この語感とテンポ、やはり素晴らしい発明すぎますね。
「は、俳句だと……!」
俳句を披露するとティアは首をひねり、唖然としている。ティアにとっては想定外だったようです。
「本屋さん、棚に広がる、宝物」
創磨は俳句返し、動じることもなく本屋のことを俳句で表現していただきました。
「貴様もなぜ順応を」
「なんとなく」
「ティアもやってみてくださいよ。決起集会的な感じに」
「思いついたことをペラペラと」
「そうですよね。考えがでないのであれば無理をしていただかなくても……」
自分だけができない、ティアはそう思われたくなかったのでしょう。
「待て。やってやる、やってやろうではないか」
ティアは腕を組み、目を閉じるとどんな俳句にするかを考えはじめ……
「本屋さん、みんないきたい、本屋さん」
ティア渾身の俳句が部屋の中に響いた。
「とっても可愛らしいです。本屋さんに行きたい気持ちが伝わってきますね」
可愛い俳句、これもまた文学。
なんら恥ずかしいことなんてしていないと思うのですが、
「やはりなしだ! これでは一番お子様ではないか!」
ティアは子供ぽすぎだと憤慨し、ぴゅぷしゅと熱を帯びた沸騰顔で真っ赤に照れていた。
「そんなことないですよ」
可愛さにデレデレしながら、フォローをいれるも
「く、貴様ら記憶から消しておけ。よいな」
今にでも噛みつかれてしまいそうな視線を向けながら、ティアは念押し。
わたし達が無言でうなずくのを見ると、ティアはテーブルを離れ食器を洗いにキッチンの方へと歩いていった。ここはほとぼりが冷めるのをまった方が良いご様子、ご協力ありがとうございます。
「楽しかったよ、普段俳句なんて考えないし」
「唐突すぎはしませんでしたか? 完全な思いつきだったのに」
「最初はそれでいいと思うぞ。やってみることの方が大切さ」
創磨の言葉は挑戦できないでいた、わたしの勇気をくれる。それは物語の主人公のように頼もしく感じた。
「わたし色々どうすべきか自分で考えてみます」
「応援してるぞ」
「ありがとうございます」
応援してくれる人がいる心強さ、それも創磨のものとあればよりいっそう心強く感じます。。
最初から上手くいくなんてことはないでしょうが、できることをまずはしたい。
決意の種を撒く第一歩、さっそく行動あるのみです。




