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5話 残されし想い ①

 窓から朝陽が差し込み、雀達の声が響いていた。セットした目覚まし時計の時刻よりも少し早いけれどふとんから出て、桜色のパジャマを脱いだ。

 創磨に創造していただいた、白いうさぎのような色白な肌、もふもふとした胸やふとももがあらわになる。

 白いワンピースに着替え、桜色のカーディガンを羽織る。

 

 顔を洗ってから、ツーサイドアップの髪を整えキッチンへ。お弁当と朝食を作りはじめていく。

 卵焼き、ほうれん草とベーコンのバター炒め、ウィンナーを調理しつつ、ミニハンバーグをレンジでチン。トマト、レタス、作り置きのきんぷらごぼうを用意。調理しておいた暖かいものから弁当箱に詰めていく。最後はご飯をよそい、とりそぼろをふりかけて創磨の分含めたお弁当の完成だ。

 

 朝食は目玉焼きとベーコン。レタスとトマトを盛りつけしたお皿にのせていく。これはティアちゃんの分もあわせて三皿分用意する。

 リビングに調理済みベーコンエッグ三皿をテーブルに置き、ご飯をよそっていると創磨とティアがリビングに入ってきた。

 

「おはようございます」

「「おはよう」」

 二人と朝の挨拶をかわしながら、よそったご飯を置いていく。創磨は冷蔵庫を開け、コップに牛乳をそそぐ。わたしの分も用意してくれていた。

 

「いただきます」

 3人一緒に手をあわせて朝食を食べていく。その間はテレビに流れたニュースをみつつ、話したいことを話した。

 朝食を食べ終わると弁当箱をかばんの中にいれて創磨は職場へ、ティアは家に設置したドアから異空間へつながる研究施設へ向かった。

 

 ここからはわたしもお仕事モード。

 家を出て歩いて8分の場所にある三葉堂書店 希望ヶ丘店へ向かう。道中の公園にある桜の木をみあげると蕾が芽吹いているのがみえる、住宅街からは子供達の声が聞こえた。

 本屋の開店時間は午前10時、かなり遅い時間なのでそこまでゆったり寝られる‥…ようなことはない。早番の人は開店準備にために動いていく必要がある。

 職場に到着。店内に入り、更衣室へ行き制服へと着替えた。

 

「おはようございます」

 バックヤードを通り倉庫に向かい挨拶をすると、

「おはようございます」

 眼鏡をかけた三つ編みの女性、直属の上司である文藤こよみ先輩と

「おはよ~」

 眠たい目をこすっていたブレイドが挨拶を返してくれた。


「ブレイドさん仕事は慣れましたか」

「なんとか。こよみ先輩の指導のおかげだよ~」

 ブレイドは人当たりがよくもうだいぶ職場に馴染んできている。ブレイド呼びも定着しており、担当部署外の人もブレイドと呼ばれるようになっていた。


「今日から働かせていただくことになった蒼輝刀剣です。“あおきとうけん”ではなく“ブレイド”と呼んでください。よろしくお願いします」

 3日前にブレイドがはじめて挨拶をした時、ブレイドと呼んで欲しいと自らお願いた時は少し変わった子だなと目でみられていたと思う。

 

 それ以外はブレイドは要領がよく。学習能力もいように早い。さらに肉体的にハードなこともこなせるということもあってどんな仕事でもこなしていける力はある。すぐに変な目でみられるようなことはなくなった。

 

 まずはトラックから荷受けされたカートに載せられたダンボールを荷開けしていく。一冊の本ならば軽く持てるのだが、中に大量の本が入っている。手だけで持とうとせず体全体で支えるように、腰に負担をかけないように持ち上げるのが負担をかけないコツ。

 

 ダンボールを開けると大量の入荷された本がはいっており、それを検品をしていく。

 

 タイトル、価格、冊数、それぞれ正しいかを確認したら、売り場ごとにわけていく。

 もちろん一つだけではない。入荷された本が入ったダンボールは大量のあるので、その分だけ置こうなう必要がある。雑誌の付録なんかがあるときは雑誌に付録をつけていくのだが、他の人がやってくださるので、わたし達は別のことをする。

 

 わたし達の担当は二階のコミック・ライトノベルコーナー。シュリンク包装機を使って、シュリンクと呼ばれる透明なフィルムを漫画にかけていく。

 それが終わってからは陳列に移る。二つの棚の側面に置かれた一番通路に面している場所、エンド台に新刊を平積みしていく。

 

 この世界の本屋さんは新刊の数が創磨が創り出した世界の本屋よりも多い。本屋さんの娘としてお手伝いをしてきたけれど、その数の多さに最初は驚かされたものだ。

 

 平積みしていくときは、持ち上げた時に隣の本が持ち上がらないようにするためにスペースを空ける。下敷き一個分くらいが目安と教えてもらった。

 エンド台に本を並び終えたら、棚の正面の平台と面だしに新刊を置いていく。在庫は台の下にある引き出しの中に入れた。

 どの本達からも読まれたいという強い想いと輝きを感じる。


(たくさんの人に手をとってもらえますように)

 最後に創造がより輝けるように、創造がもっとみてもらえるように願いをかけた。 

 新刊をある程度並べたら、こよみ先輩と一緒にブレイドの棚をみた。

 

「場所も間違えてない。すごくいい感じにできてますよ」

 初日はこよみ先輩の指導を聞くだけで精一杯と言った感じだったのに、もう人並みくらいにはやれている。

「こよみ先輩と逢夢の指導のおかげだよ~」

「そんなことないです。ブレイドさんがちゃんと学ぼうとしてくれたからですよ」

「嬉しいな~そんな風に言ってくれるの。次は欠本や補充分の本をみていきます」

「わたしはある程度したらレジ入りますね」

「逢夢さん、お願いします」

 新刊を入れるだけでもかなりの時間を要する。すでに開店が迫っていた。

 欠本や補充分の棚差しを手伝いつつ、開店前にはレジへと入る。

 

 開店するとお客様が入ってくる。早朝は常連さんの方が多く、無人レジも設置されているが常連さんはレジに来てくれることの方が多い。

「いらっしゃいませ。今週も来ていただきありがとうございます」

「どうも~今日もでらいい笑顔やね~」

「みなさんに本を読んでもらえるのが嬉しくて嬉しくて」

「そやな、わたしもでら嬉しいわ」

 バーコードリーダーでスキャンをしながら、お客様に笑顔をお届けする。

 どんな本も読まれるからこそ輝くことができる。この本は目の前にいるお客様に買っていただけるからこそその一つになれる。一人の物語のキャラクターとしてそれが嬉しい。

 そしてその瞬間というのはレジにいると何度も訪れる。笑顔を届けるために嬉しくなれて、わたしまで元気になれた。

 

 

「「お疲れ様です」」

「おつかれ~」

 昼過ぎ、休憩室でブレイドとこよみ先輩と共にに昼食を食べはじめた。

「いただきます」

 朝調理した弁当箱を開け、みなで手をあわせてお弁当を食べていく。


「こよみ先輩、お奨めされた『たゆたう場所にて』読みましたよ」

「どうでしたか」

「とても面白かったです。話の筋がしっかりしていて文体も作風にあっている。良い部分だけではない、人間の悪い部分もくどくなりすぎないくらいに描かれているのも好印象でした。特に良かったのは三章からの展開で……」

「ラリミアちゃんが関わってきてから、いい意味で緊張感でてくるんですよね。それなのに愉快な部分も多くて……」

「わかる~あの明るさがいいんだよね~」

「ブレイドさんも読んでいただけたんですね」

「こよみ先輩が面白いってからね~ラミリアちゃんも魅力的だったけど、わたしゃ的にはミナモさんもがん刺さりだったな~クールだけど抜けてるとこが多くて」

「冷静なようにみえて意外と抜けてるとこありますしね」

 昼職を食べながら、こよみ先輩がお奨めしてくれた本をみんなで語り合う。こうして本のことについて話している時は本を読んでいる時と変わらないくらい嬉しく感じます。

 

 楽しく談笑をしていたら昼休憩が終わり、仕事へと戻る。

「いつもどおり返本からしましょうか」

 返本というのは出版社に本を返品することである。すでにそれらは午前中にまとめてくださり、バックヤードでその処理をしていく。

 

 返品の対象となる本は売れ行きの悪い本、返品期間がすぎてしまう本である。

 新刊委託、長期委託、常備委託、買いきりでないかぎりは3ヶ月、半年、一年、それぞれ期間が決まっている。本の返品期間をすぎれば返品できなくなってしまうので、その前に処理を済ませなければいけない。

 

 新刊がたくさん入ってくる以上はしかたのないことだし、売れないと判断されやす本はただそこに置かれているだけでは手にとってもらえないことのが圧倒的に多い。

 それは解っているが好んでやりたい仕事ではない。まだ輝ける可能性があるかもしれないけれど、書店を存続させるために返品処理をしていく。

 

「やだよね~こうやって送り出さなきゃいけないのって」

「寂しいと思ってしまいますね、わたし達も例外ではありませんから」

 物語のキャラクターという立場からすると、同胞達を送り出しているようなもの。輝きを失ったとは思わないけど、上手く輝くことができなかった。創られてことは無駄ではない、はずなのに。

 

「わたし達も例外ではない……それはどういった意味で言われたこと言葉なのでしょうか?」

 文脈が通らないことに、こよみ先輩は疑問をもたれていた。

 

「他人事ではないという感じでしょうか。人間社会に通ずる部分があるというか……」

 変な方向に口をすべらしてしまい、慌てて整合性を図ろうとする。とりあえず変に思われないようにしなければ。

 

「なるほど……生み出されたからには、生み出されたことに価値があるとは思いたい。ですが現実は評価されない人たちもいる。だからこそ見切りをつけてしまうことが寂しいと感じられているということですね」

「そう、そういったことが言いたかったんです」

 創られた創造物なんて言ったらますます混乱させてしまうだろうし、こよみ先輩がなんとか自分なりの解釈をしてくれてよかった。ついブレイドといると安心してきにせず話してしまうこともある。そこは気を引き締めたいところ。

 

「こよみ先輩は返本のことをどう思ってるの~」

「正直苦手わたしもです。割りきれるようにはなっていますけど、好きな本が売れない姿をみるというのはもやもやします」

「その気持ちすごく解ります」

 返本処理中は気持ちが沈んでしまうことの方が多い。割りきってやっているんだけど、このもやもやした気持ちは消えることはないのだろう。

 

「返品を少なくしたりはできないのかな~」

「うちの書店はそういった方向性で動いているようですよ。返品するにも輸送コストがかかりますし、そこは削減するような施策はとられはじめています」

「返本は減らそうとちゃんとしてくれてるだ~」

「存続するためにも、このままというわけには行きませんから」

「存続か~本屋ってそんなに厳しい状況なんですか?」

 ブレイドは返本する本みながら、本屋の現状について聞いた。


「年々数が減っている状況で、まだまだそれが止まる気配はありません。10年前と比べて半数以上がなくなり本屋がない地域もある。有名な大型書店でも閉店してしまった所もありますね」

 こよみ先輩の手が止まり、物悲しい表情をみせる。

 大好きな本と出逢える場所が減ってしまうのは悲しい、その気持ちはわたしにもある。

 

「本屋としても、もちろん手を拱いているばかりではありません。新しい本屋ということで様々な取り組みもされていますし、他の商品も取り扱うことでより幅広い人にも来てもらうようにしています……今はできることをやりましょう。本屋の良さが解ってくれる人はいますよ」

 まだまだ大丈夫だ、そう自分にいいきかせるようにこよみ先輩は返本作業を再開した。

 

(今できることをわたしはやれているのでしょうか?)

 こうして本を見送るとしかできないもどかしさ、それは消えることはなかった。

二巻目スタート。

ここからは水曜&土曜日、21時20分の更新になります。

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