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4話 共に未来へ ⑦

「勝手な解釈ばかりしおって、いらつくやつだ」

 絵麻の家を出るとティアはせいせいしたといった感じに、手で赤いツインテールを跳ねあげた。

 いろいろと舐め回すかのように見られまくったら普通はこういった反応になる。同じ物語のキャラクターであったとしても、逢夢やブレイドが寛容的だっただけらしい。


「どうだ、体の調子は? 違和感とかないだろうか」

「今の所は問題ないな。この方が馴染んでおるくらいだ」

 それなら安心か、ほっと息をついてティアの姿を見た時にふとこの当たり前が心地良く思えた。

「嬉しいな、ティアとこうしていられるのが」

「ただ歩いているだけではないか」

「いいんだよそれで。その当たり前があるってことが嬉しいんだから」

 俺が創り出した魔王であるティアと共に歩き、そばにいられる。

 それはいつか来て欲しい楽しい未来そのものだった。その未来が今で、今があるから未来もまたこうしていられると思える。その喜びと嬉しさはなによりも宝物だ。

 

「ディアボロスの時のこと、いろいろとすまなかったな」

 そんな幸せを感じながら歩いていると、ティアは申し訳なさそうに謝った。

「謝ることはない。ティアは破壊力のせいで暴走させられていただけだ。俺こそごめんな、苦しませてしまって」

「それが貴様の使命なのだろ、解っておるわ」

 お互いにただ謝りたかっただけなんだと思う。そうすることでより前向きになれるのならそれでいい。それだけでいい。

 

「ティアはこれからどうしていくつもりだ」

「このままでは腹の虫がおさまらん。研究を続け強くなる方法を探し、我らを魔王を道具として扱った破壊王ベインとやらにもたっぷり礼をしてやるのだ」

 見た目は可愛い女子中学生って感じだけど、胸を張り威厳をみせつけようとする姿は魔王そのもの。変わったことはたくさんあるけど、変わらないものもある。

 魔王が魔王でいてくれること、それはきっとティアをティアたらしめることへとつながっていくのだろう。

 

「強くなるための研究をする、変わらないなティア」

「そうある方が貴様もよいであろう」

「そうだな」

 俺が紡いだ未来の先をいくティアは俺の手からはすでに離れ、自由に飛び立とうとしている。

 共に歩み、共に進む、それが作者とキャラクターとの関係だ。

 

 でもそれだけでないと今は思える。

 キャラクターもまた生命あるものとして一歩踏み出そうとしている。俺の予想を超えて、自分らしさをみつめすすんでいく。その成長がたまらなく嬉しいな。


「なんだ急にニヤニヤしおって」

 嬉しくてつい笑顔になってしまった。でもそれは隠すべきものじゃない。

「嬉しくてさ、ティアがティアであることが」

 ティアに嬉しい笑顔を見せる。この嬉しさを届けるために。


「我は我であること等、当たり前ではないか」

「その当たり前があるってことが嬉しくて笑顔になれるんだ。そしてそれはこの先も続いていく」

 笑顔が創りだした高鳴る鼓動に導かれ、手をさしだす。


「よろしくな、ティア」

「ふん、せいぜい我を楽しませることだ。創磨よ」

 ティアは気恥ずかしさな微笑みを隠すことなく、さしだした手を握ってくれた。

 

 スーパーで買い出しを済ませ帰宅すると、鍋の準備はほぼ完了していた。リビングの真ん中にはクッキングヒーターが置かれている。

「おかえりなさい、創磨。すぐに残りの具材をきりますね」

 逢夢は足りない野菜等をすばやく包丁で切っていく。その間にテーブルと皿をだし、席へと座った。


「これが鍋か。なかなか美味そうではないか」

 鍋の中で充分に煮込まれた具材が、美味しそうな香りを匂わせる。

 ティアも体を小刻みに揺らしながら待ちきれないでいる。年齢は低く設定しているからか、子供ぽさが少しあるよな。そういうとこも可愛いだけどな。

「は~ロリかわすぎ。創磨もそう思うでしょ」

「やめろ、俺を巻き込むな」

 絵麻は自分の欲望を隠すつもりがねぇようだが、ティアに対してだけはそういった態度はあまりとらないようにはしておこう。俺まで嫌われたくねぇしな。


 ほどなくしてすべての料理の準備が整い、逢夢が席に座った。

「ありがとな、逢夢、ブレイド、疲れてるとこ調理してくれて」

「これもわたしのつとめ」

「マスター達のためなら当然だよ~」

 激闘いがあった後でもいつもどおりで二人はいてくれる。本当に頼もしいな。

 

「ティアちゃん、いただきますは解る?」

「当たり前であろう。それなりにこの世界の知識は所有しておる。気をつかわずともよいわ」

 おそらく多くの魔王の意思を取り込んだときに学習をしたのだろう。そう考えると俺よか詳しい分野とかありそうだな。

 

「いただきます!」

 手を合わせ、いただきますを全員で言ってから、鍋で煮込んだ野菜や肉をよそい食べはじめていく。

 クリエイト・レイターズを描く前まではこんな風に俺が創りだしたキャラクター達と食事をできるなんて思ってもみなかったな。

 

「どうされましたか創磨、すごい笑顔ですけど」

 そんな問いかけをする逢夢すら笑顔でいる。たぶん答えを知っているんだ。

「こうして食事ができるのが嬉しくてな。誰かの笑顔ってやつは自分まで笑顔にしてくれるもんなんだな」

「わたしもです」

 創造達と共に食卓を囲み、当たり前の日常の中へ溶け込んでいく。

 創造の中の非日常の楽しさもいいが当たり前の喜びを共有しあえる、そんな楽しさもまた大切にしていきたい。つながりあうことで創造は輝くと信じていくためにも。



 ティアが誕生してから数日後……

「正谷さん、どうでしょうか」

 メールで送信した修正原稿、その相談のために正谷さんと通話をはじめていた。

 

「淡泊だった魔王の描写に説得力が生まれ、新しい姿に創造するっていうよりこの作品らしい終わり方になっていた。以前よりも面白くなってたよ、確実にな」

「ありがとうございます」

 自分の想っていたことが伝わっている。創造が正谷さんにも届いてるんだ。

 

「まだ感謝するには早いな。面白いと思えるクオリティにはなっていたが、細かい修正は必要だ。それについて話してくぞ」

「お願いします」

 それからは修正した箇所にともなって生まれた細かい指摘を中心にされた。

 指摘が一通り終わり、正谷さんとの通話をきった。面白いと言ってもらえたことが嬉しくて笑みがこぼれていた。

 

「その様子でしたら良い反応をもらえたようですね」

「ああ、細かい修正は必要だけどそれも少しだけ。書き終えたって思ってくれていい。これで次の段階へまたすすめる。新しい展開も考えないとな」

 一巻がようやく形になったけれどこれで終わりではない。まだまだ書きたいことはたくさんある。多くのキャラクターと対話し物語を創っていける。それがなによりの楽しみだ。

 

「覚えていますか。わたしと出逢った時の頃を」

「ああ、忘れもしない。逢夢と出逢ったあの夢のことは。あの出逢いがあったから今の俺はこうしていられる」

「そう、あの時わたし達は出逢った。あの瞬間からなんですよね」

「どうしたんだ、急に」

「こうしてわたし達の物語が未来へつながったことが嬉しくて」

 あの時はまだ逢夢の名前さえも決まっていなかった。それがこうして今は出版できる形にまで仕上げることができた。

 

「俺もさ。ありがとう、逢夢」

「こちらこそありがとうございます」

 物語を書き終えた喜びを分かち合い、お互いに感謝の気持ちが伝わるくらい微笑み合った。

 

 逢夢との物語はまだはじまったばかり。

 これからどう逢夢との物語を創っていくのか、考えなければいけないことは多い。

 破壊王ベインのことだってあるし、これからも幾多の困難を乗り越えなければいけない。

 苦しい道は続く、それでも新しい可能性を信じ、創造を輝かせることができればたくさんの笑顔を創っていける。それが俺達が創りたい創造なのだから。

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