4話 共に未来へ ⑤
「最後くらいもう少し抗って欲しかったな~だめだ。やっぱこれじゃ物足りねぇよ。やっぱ最後は派手なものにしてよなぁ」
ベインは頭を抱えて不満を吐き出すのが聞こえた途端、心が安らぐような余韻はすぐに消え去った、
「きれいなもんをたくさん味わって、お前達は嬉しいだろうな。だけどディアボロスに裏切られた俺はどうだ? 悲しい、すごく悲しいと思うのが当然だよなぁ~」
まったく悲しくなんてないのは見れば解る。ベインは楽しんでいるんだ、この状況を。
「ベイン、お前はディアボロスを道具として利用してただけだろ」
「それのなにがいけない。楽しむためなら道具として利用する。それができるから楽しめる。作家ってやつもそうやって楽しさを創りだしているじゃねぇか」
「必要な時はな。でもなんでも道具にしない。キャラクター達の想いを大切にしたいからな」
「理解できないね。楽しさのためならなんでも利用すべきだ。まぁそこの裏切り者はもう使い物にならないようだけどね」
「貴様の道具であり続けるのならば、使い物にならぬほうがよいわ」
ティアは少女の姿とはいえ魔王の威厳は健在しており、動じてすらいない。ただ守られる存在ってわけじゃない。ティアが魔王らしくあることは嬉しいもんだ。
「雑魚ほどよく吠える。まぁいい、俺は俺で勝手に魔王達を利用させてもらうさ。そのためにディアボロス、てめぇに目をつけたんだからなぁ!」
ベインが指先から赤く輝く破壊力がを照射され、白い床に赤い魔法陣が描かれた。
それと同時にアウターワールドに散っていた破壊の意思が渦を巻き収束、禍々しい赤い魔王達の破壊の意思が巨大な形を形成していく。こいつはいったい。
「魔王共解放しろ、その力を!」
禍々しい赤い塊は大きな角が生えたミノタウロス……いや、ライオンのような鬣とミノタウロスのような角が生えた巨大な赤い魔王獣と化した。
その全長はゆうに五メートルは超えており、いまだかつてない破壊の意思の大きさに圧倒された。これが囚われた魔王達が結集した破壊の意思。今まではティアが抑えこんでくれていたのか。
「ウゴォオオオオオオオオ」
魔王獣は雄叫びをあげながら、ブリリアントウォールへ向け赤い光線を角から照射する。
照射された赤い閃光は破壊への序曲を奏でるかのように、光輝く防御壁の一部を砕いた。これが魔王達の力。単純な力強さだけなら魔王ディアボロスよりも強いのか。
「どうする、こいつを倒さねぇとてめぇらの世界が破壊されちまうかもなぁ!」
圧倒的な魔王達の力。その強大さを実感はしている。
だけどみんなの目からは諦めというものを感じない。むしろ生き生きしてるくらいだ。
「魔王達がどれだけ強くても、わたしゃ達は負けないよ~」
「あたし達の力を甘くみないでよね」
「どんな強大な力であろうとも、力をあわせれば」
「絶対に勝てる!」
魔王獣がなんだ、俺達の創造はそんなものだって超えられる。そう信じなければ新しい可能性は生まれない。俺達の力で未来をつかむ。
「やれ、魔王獣。レイター共を破壊しろ!」
魔王獣はベインの命令に従い動き出した。
「いきます!」
動きだした魔王獣へ向かって飛びかかったクリエイトは巨大な魔王獣の腹めがけて連続でパンチを浴びせ続けていき、殴るたびに快音が響き渡る。並の敵ならこれだけでも悶絶ものだが巨大化した魔王獣には効果がない。チクチクと針を刺されてる程度ってことかよ。
「はぁああ」
ブレイドも狼のように素早く地上を駆けて魔王獣へと近づき、目にも止まらぬ速さで魔王獣の巨大な足を刀で何度も斬りつけた。
しかしダメージを受けている様子がない。やはりこれだけ巨大となると防御力も相当なものってことか。
「ウゴォオオオ」
魔王獣は攻撃してきたクリエイトとブレイドを狙って何度も何度も腕を叩きつけていき、これにはたまらず接近していたクリエイトとブレイドは距離をとって攻撃を回避することに専念をした。
魔王獣の攻撃で白い床は砕け、地響きが俺達まで伝わってくる。攻撃力の高さ、それは見た目以上のものだとこれだけでも伝わってくる。
「あいつすごい硬いね~」
「しかも攻撃力もあります」
「も~う、次から次へと難題ばっかり作ってくれちゃって」
「それ全部に対処する必要はない。でかいやつはでかいやつで弱点があるはず」
「ボスキャラみたいな感じでってこと」
「ああ、コアみたいなのあったらいいんだけどな」
巨大な魔王獣をみながらみんなでどうするか考えるために、思いついた事を伝えたら
「あの魔王獣にはコアは存在しておらぬ。我という核がすでにいない状態で創られておるからな」
ティアが助言をしてくれた。破壊力の研究をしていたであろうティアがいうなら、ほぼ間違いはなさそうだ。
「弱点はないってことか」
「そう考えた方がよい」
物語の中でなら、これだけ巨大な敵にもなれば弱点がついていそうなもんだがな。それがないとなると、腹をくくって力と力でぶつかりあうしかない。
「大きいのがきます」
クリエイトが警戒するよう伝えると、巨大化した魔王獣の角に赤い光が溜まっていく。悩んでいる時間すらくれねぇきか。
「ウォオオオオオ」
魔王獣は雄叫びをあげ、破壊力が凝縮されたエネルギーを無数の赤い雷撃として解き放つ。
その攻撃はこちらを狙う目的すらない。あたりを破壊の海に変えようとするもの。真っ白なこの世界を赤い破壊の色に染めあげる。
これだけの広範囲の攻撃となると、行動が制限される。
魔王獣は雷撃で動きが鈍っている間に、俺と絵麻に対し拳を振りおろしてくる。確実に俺達を抹殺するために。
(くそ!)
このまま押しつぶされる。
そう思った瞬間、クリエイトとブレイドが魔王獣の巨大な拳を受け止めた。
「クリエイト、ブレイド」
押しつぶされそうな俺達を守るようにして割って入り、巨大な拳をクリエイトは両腕で、ブレイドは蒼輝刀剣でおしあげようとしていた。
眼前にみえる巨大な拳は、破壊の渦に俺達を飲み込もうとしている。その力は圧倒的で二人がかりといえど弾き飛ばすことはできず、徐々にだが強大な破壊力の力に押し潰されようとしていた。
「こんなものかレイター共。もっと楽しませてくれよ! フッハハハ」
ベインは楽しいアニメでも視聴しているかのように膝の上に肘をついて、高笑いを響かせる。
くそ、こんな所で終わりたくない。終わるわけにはいかない。どうしたらいい、どうしたら。
「こんな所で終わらせんぞ」
破壊の意思に押し潰されそうなこの状況で逃げることもなく、ティアは俺達の背中を押した。
「ティア危ないですよ、こんな所にいちゃ」
「そうだ、お前だけでも逃げろ」、
「我を誰だと思っておる魔王だぞ。貴様らを置いて逃げられるものか」
クリエイトと俺が逃げるように言うも、ティアはそれを拒否した。
「なにか策でもあるのですか」
「そんなものは必要ない。貴様達にはあるではないか、我の未来を創り出した無限の可能性を秘めた創造力が。貴様らの創造力をみせてみろ、この我に」
ブレイドの言葉にティアは魔王のようにふてぶてしく笑い、戦う意思と創造の価値をティアは教えてくれた。
ティアの想いに応えたい、その気持ちが絶望的な状況に立ち向かう勇気をくれる。
「そうだ、まだ俺達は戦える。ティアは俺達を信じてくれたんだ、この巨大な破壊力を乗り越えられると。そんなティアの気持ちに答えたい。いや答えなきゃいけない」
「ティアとわたし達の想い、その夢を叶えてみせます」
信じる者のため、巨大な拳を支えてくれるクリエイトに手を重ね、創造を強く輝かせる。
「ティアはあたし達を信じてくれた。だから絶対に破壊の意思なんかに屈したりしない」
「わたしゃ達の想い、断ちきらせないよ!」
絵麻もブレイドの刀に自らの刀を重ねあわせ、創造を強く輝かせる。
創造は幾重にも重なる願いであり、運命であり、想いだ。
どんなに押し潰そうとも消えない想いの形、それは幾重にも重なり力となっていく。
結集したみんなの創造の輝き、それは巨大な破魔の拳は徐々におしあげていき、
「「「「もっとだ、もっと、もっと、輝けぇええええええ」」」」
俺達の掛け声と共に光は強いエネルギーとなって巨大な拳をはじいた。
巨大な魔王獣は拳が吹き飛んだ衝撃を抑え込むことができず、赤く染まった床を削りながら後退した。
「みんな創造力を輝き重ねてくれ。出力最大のクリエイト・バスターであの破壊力を浄化する」
「まかせといてよ」
「あたし達ならやれる」
「ぶつけましょう、わたし達の創造の輝きを」
クリエイトの背中にはブレイドが、俺の背中を絵麻が手を当ててくれた。
創造力を再構築、クリエイトと俺は広げた掌に創造力を集めていく。
「ふん、我の力も貸してやろう。この力を扱えることを光栄に思うがいい」
そうしていく中でティアは俺とクリエイト両方の背中に手をあて、自らの創造力を送ろうとする。
創造力の強さはブレイドには遠く及ばない。だけど、たった一人増えるだけで何倍の力になる。創造は想いを重ねれば重ねていくほど強い力になっていく。
2×2じゃない、2×3だから強いんだ。
ティアの力が加わったことで創造力は、さらに強く育った。
「根源は紡がれし創造の輝き、今一つとなりて解き放つ」
創造力を輝き重ねて創った創造球を、
「クリエイト・バスタァアアアア」
全員が叫ぶと同時に創造力を解き放たれ、魔王獣へと直進していく。
「ウォオオオオオ」
膨大な創造力に対抗するため魔王獣は雄叫びをあげながら、角に集めた破壊力が凝縮されたエネルギーをぶつけてきた。
スケールの大きさならば圧倒的に負けている。人よりも何倍も大きく力強い。しかしそれはあくまで表面的な力の強さでしかない。心の強さは何倍も俺達の方が大きい。
破壊力は創造力を阻もうとするも、止まることなく魔王獣へと突き進んでいく。
やがてその創造力は破壊力を上回り、魔王獣を創造の輝きでつつみこんだ。
相手を破壊するわけではない、俺達が生み出した創造力は魔王獣の破壊力のみを浄化する。
憎しみに囚われていた魔王達の意思は白く輝く光となって消えていき、魔王が活躍する物語の中に帰っていった。




