4話 共に未来へ ③
「笑っているだと……貴様、この後に及んでまだ我を愚弄するのか」
「愚弄するようなことはしない。ただ嬉しいんだ、魔王が魔王らしくあるのが」
「嬉しいだと?」
「ああ、だってお前は俺が創りだした魔王だ。相手に絶望を抱かせるほど強い方が魔王らしいだろ」
魔王は勇者を絶望させるほど圧倒的な力をみせつけてくる。子どもの時にみたあの魔王からそれは変わらない。ディアボロスが魔王ならば、こうなる可能性はあらじめ予想をしていた。
「こっちはどれだけ魔王のこと見てきてと思ってんのよ。これくらい想定内、こんくらいじゃ絶望してあげないんだから」
絵麻も同じ気持ちでいる。絶望することなく立ち向かおうとしている。
「どうやら貴様らはまだ自分達の置かれている立場が解っていないようだな。この我が強くなるのを予想はできていた……だからなんだというのだ。貴様らが虫けらであることは変わらぬわ」
ディアボロスは増幅した魔王の破壊力を集め、闇の炎を手のひらに創り出す。
「これで終わりだ。オメガフレイム」
今まで一番大きな闇の炎は魔王の怨念そのものを込めた一撃。対抗するためにはそれ以上の力が必要になる。
俺と絵麻がクリエイトとブレイドが手をつなぎ創造力を重ねあわせ、
「創造の盾花、クリエイト・シールド」
その重ねあわせた創造力の輝きで大きな花びらの形をした盾を創り出した。
「その程度の力でどうにかできるとでも」
花びらの盾よりも遥かに大きな闇の炎は破壊の意思で花びらの盾ごと俺達を消そうとするが、
「わたし一人ではできません。でもわたし達ならば」
「守りきってみせる」
四人全員で重ね合わせた創造力をさらに強く輝かせることで、闇の炎を創造力で浄化し花びらのように散っていく。
「俺達の創造力を簡単に消せると思わないことだな」
全員で創造力を輝き重ねることで創造力を増幅させた。魔王ディアボロスが魔王達の怨念を使って破壊の意思を増幅させられたというのなら、創造も重ねあわせれば増幅できる。それは魔王にだって負けない力だ。
「ディアボロス、あなたが魔王達の破壊力を増幅させ強くなるのなら、わたし達はわたし達の創造力を重ねあわせることで強くなります。そして必ず創造を届けてみせる」
「ふざけたことを言うな! 我が炎と雷、避けられると思うなよ!」
魔王ディアボロスは、辺り一帯に闇の炎と雷を降らせてすべてを破壊しようとする。その無差別な攻撃はクリエイトとブレイドだけを狙ってこない。俺と絵麻すらもしつように攻撃をしはじめてきた。
俺はクリエイトに、絵麻はブレイドの背中に捕まり、無数に飛び交う闇の炎と雷を避けていく。
「どれだけディアボロスが憎しみに囚われようと、俺達がやるべき事は変わらない」
「この中をなんとか抜けて、創造を届けるしかないってことね」
「マスター、しっかり捕まってて」
「わたし達が必ず送り届けてみせます」
ヒーローの背中に捕まりながら悪へと立ち向かう。映画のワンシーンみたいな世界の真っ只中に俺達はいる。創造の中でしかみたことのない闘い。そこで生命をかけることにはなってしまっているが、ワクワクする気持ちっていうのもあるように感じる。
「怖いけど、なんか楽しくなってきた」
「創磨はこの闘いの中でも楽しさを忘れない、本当に物語が好きなんですね」
「ああ、大好きさ。だからこそ、俺はあいつにもこの楽しさを届けたいんだ」
背中につかまりながら楽しさを伝えると、クリエイトは嬉しそうに目を輝かせた。
「創造の散花、クリエイト・スキャター」
クリエイトは闇の火球に対して走りながら、花の種を一気にまくかのように手に集めた創造の輝きを撒き散らした。魔王の攻撃は質ではなく量に変わっていた。今までなら通じなかった攻撃も質がともわなければ通じるようになり、闇の火球を次々に爆発させていく。
量には量を、そんなこちらの動きに対して魔王ディアボロスはさらなる量をもって対応する。
「オメガ・フィスト」
闇の火球と雷を展開したまま、黒い穴が無数に俺達の周りを囲み、その穴から魔王ディアボロスの巨腕と似た魔力でつくりし拳をいくつも出現させた。
魔法と巨腕の同時攻撃、それを二人は背中に俺と絵麻を背負いながら対処してくれている。
今はまだ攻撃にあたっていないが、このままいけば攻撃を受けるのは時間の問題だ。
防御にだけ徹しても勝ち目はない。魔法陣から多量の破壊の意思が流しこまれ、尽きることのないエネルギーとなっている。
ならば前へと進むのみ。道はもうすでにみえている。
「クリエイト、合図したら飛んでくれ。絵麻とブレイドは俺達の援護を」
「まかせといて」
こちらも攻勢にでるためにはここは絵麻達に道を切り開いてもらう。
「今だ」
合図と共にクリエイトはディアボロスに向かって飛んだ。
ディアボロスは近づく者への対処を優先。無数の火球と雷、それに加えて異空間から出現させた巨腕までものがクリエイトと俺を狙っていた。
「いくよ、ブレイド」
「OK、マスター」
ディアボロスの狙いがさだまったその瞬間、ブレイドは地面を強く蹴った。
その勢いは風の抵抗無視、それどころか創造力で創り出した蒼い風はさらなる速さを創り出した。風を操り、風になることでなせる迅速の技。
そしてそこから
「蒼の旋風、蒼破旋風斬」
ほぼ同時にブレイドと絵麻は二人背中合わせになり回転斬りを放つ。剣から蒼き風の刃が生まれ、するどい狼の爪のように三六〇度あらゆる方向にいる火球、雷、巨腕を攻撃し消滅させた。
「頼んだよ、創磨、クリエイト。ディアボロスにあたし達の創造をぶつけてやって!」
「ああ、任せとけ」
絵麻は自由落下していく中で想いをたくす。ああ、解ってる。そうしてやるさ。
ブレイドと絵麻のおかげで攻撃は一度止みはしたものの、攻撃の準備が再び整えばディアボロスの攻撃は再開されてしまう。この一瞬というのは一時的なものにしかすぎない。
しかしその攻撃がこない時間、それが今はなによりも重要だった。
絶対に魔王ディアボロスに創造を届ける、その想いで通じあっているこそお互いに信じ合うことができる。絵麻とブレイドがいるからこそ、俺達は前に進める。
創造力を推進力に変えて、ジェットコースターが落下するかのように魔王ディアボロスに向かって急降下し
「創造の衝花、クリエイト・インパクト!」
クリエイトはありたっけの創造の輝きを集め、それをディアボロスへとぶつけた。
ディアボロスは高速で落下して撃ち込まれた俺達の創造力を、闇の炎で燃えた右手の巨腕で受け止める。
衝突した闇と光のエネルギーは拮抗し、バチバチと稲妻のように光と闇のエネルギーの余波が飛び散った。まだだ、まだこんなもんじゃない。
「はぁあああああああああああ」
伸ばされたクリエイトの右腕に手を重ねあわせると、創造のつながりが大きな輝きを創りだしていく。光が闇の炎を浄化し魔王の巨腕を弾き飛ばすと、砕けた鎧がむき出しになっていた。
条件はそろった。ディアボロスが防御する余力がないこの瞬間を待っていた。
ディアボロスの俺達の創造を届けたい。そんな想いを込めて創りだした創造球を握りしめ、砕けた鎧の隙間に撃ち込んだ。
「ディアボロス、これが俺達の創造だ!」
鎧の内側へと侵入した創造球はディアボロスの心の中を輝かせ、創造を届けていく。




