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4話 共に未来へ ①

「ここまでくればひとまず安心かな」

 絵麻の家に転移をするとクリエイトとブレイドは変身を解いた。とりあえず危機は去った……なんて言えないだろうな。ただ逃げたしてきただけだ。

 

「逢夢、大丈夫か」

「大丈夫です。まだ動けるだけの体力も残っています。創造力はかなり消費したので回復は必要ですが」

 まだ動けるから安心していいだなんて思えない。あのまま逢夢が破壊力を抑えこめれなかったら、それこそ消されてしまった可能性だってあっただろう。

 

「ねぇ創磨、どうして迷ったの? そのせいで逢夢は傷ついた。わたしゃ達の誰かは消えてたかもしれないのに」

 ブレイドは俺のむなぐらをつかみ詰め寄ってきた。噛みつくような声と瞳から静かな怒りがこみ上げている。仲間のことを考えれない愚か者、そう訴えかけられているようにも聞こえた。


「違います、わたしの甘さが原因だっただけです」

「逢夢いいんだ。魔王の意思が伝わってきて、そのせいで迷ったのは事実だよ」

 慌てて割って入ろうとする逢夢に対して、手をかざし静止する。


「どうすべきか選ぶ必要があるよね。魔王を倒すか、それとも創磨の想いを貫くのかどうかを」

 ブレイドはむなぐらを掴むのを止め、鋭利な言葉で選択を迫ってくる。

 俺達を倒さずともブリリアントウォールを破壊されたら、願いを叶えられてしまう。そうなれば負けたのと同じ。待っていても問題は解決はしない。

 

「わたしゃの意見は変わらない。ディアボロスを倒さないと逆に倒されるだけだよ」

「それは解っています。ですが、そうしてしまえばディアボロスと共に歩んでいきたい、創磨の想いを守ることはできません」

「それは理想論。マスター達を守るのがわたしゃ達の使命だよね」

 ブレイドは今にでも逢夢を壁に押しつけるかのような剣幕でまくしたてる。普段穏やかなブレイドなだけあって、その豹変ぶりは状況が深刻な事を伝えている。


「主を守るのがわたし達の役割ということには同意します、それは大前提です。ですが、それだけじゃ本当に使命果たしたとはいえません、願いを叶えることもわたし達の使命です」

 逢夢はブレイドに真っ向から対立し、お互いに一歩も譲るきはなかった。

 

「創磨、どう思ってるの?」

「俺は……」

「迷ってるなら、ディアボロスのことは諦めなよ。取り返しのつかないことが起きても責任はとれないでしょ、負けたらすべて終わりだよ」

 ブレイドは甘い言葉を一切使うことなく現実を知らしめてくる。自分だけの問題ではないからこそ決断には責任をともなう、俺はそのことをよく解っていなかったんだ。

 想いを貫くか、それともディアボロスを諦めべきか。簡単に答えがみつかるような問題ではない。もっと小説を書く時のように時間をかけて向かい合うことができれば良かったんだが、その時間もないのか。


「みんなを危険な目にあわせたくない。だから……」

 諦めなればならない、そう思い込もうとしたのに途中で言葉が詰まった。

 

「諦めたほうがいい、そう言いかけたのになんで迷うの」

 問い詰めるブレイド、沈黙は許されない。

 

「解ってはいるんだ、普通に考えたらディアボロスのことを諦める方がいいなんてこと。諦めさえすれば闘いやすくなる。諦めないなんて道は万に一つの可能性に賭けるようなもんだ」

「それでも創磨は諦められないのですね」

 逢夢の言葉にうなずき諦めきれない意思をみせるも、迷いが消えたわけじゃない。身勝手な理想論ばかりを語って周りに迷惑をかけようとしている、それが客観的にみた今の自分。

 逢夢はそんな俺の手をにぎり、その手をぐっと胸の近くまで引き寄せると、


「創磨は展開に迷って道がみえなくなった時、どんな物語にしようか迷った時、普通の人なら諦めてしまえるような状況であっても、あなたはこだわりを捨てず書くことは諦めませんでした。だからわたしがいる。それは諦めなかったからこそなんです」

 強く気高く咲きみだれる花のように強くやさしい言葉を届けてくれる。

 心が熱くなる、心がやさしくなる、心から迷いが消えていく。


「創磨、あなたが描きたいと思う物語をみんなにみせてください」

 こんなのは合理的ではない、そうだと解っていながらも逢夢は諦めたくない俺の気持ちを後押ししてくれた。

 逢夢はゆっくりと手を離し、花のように美しい瞳を向けてくれた。

 逢夢は夢の中で出逢った時と変わらない、あのクリエイト・ワールドでみた桜の木のように創造が咲くのを待ってくれているんだ。

 

 いつも作品を書いている時のように問いかける。諦めきれないのはきっと……

「諦めたくない。俺は作家だ、作家だからこそ自分が書きたいと思っている物語を簡単に諦めたくない。ろくでもないよな、自分勝手な理由でみんなを危険な目にあわせようとしている。それでも俺はディアボロスを楽しませたい、ディアボロスと共に歩むことにこだわりたい、その想いを大切にしたいんだ。だからもう一度ディアボロスと向き合わせて欲しい」

 痛くなるくらい拳を強く握り、高鳴る心の脈動に身をまかせ、身勝手な気持ちを叫んだ。

 物語の中で倒すしかなかった魔王。その魔王の憎しみは創造し続ける俺達が責任を持ちたい。魔王が好きだからこそ、俺は魔王のことを笑顔にしたい、楽しいものだと思って欲しいんだ。


「そこまで言われちゃ、諦めるわけにはいかないじゃん。みんなで協力してもう一度説得しようよ。そうすれば上手くいくって!」

 絵麻は俺の決断をうなずきながら許してくれるも、

「マスター、それは楽観的すぎ。ディアボロスには説得は無意味。作家なら考えて、説得する以外の方法があるなら教えてよ」

 ブレイドだけは刃を突き刺すかのように鋭い視線を向け続け、その意見が本当に正しいことかを問うてくる。

 俺は諦めないと決めた。そう決めたのならブレイドすらも納得させる答えを見つけなければならない。そうでなければ、ディアボロスを共に歩むことなんてできやしない。

 

 俺はこれまでしてきたことをもう一度振り返ってみた。

 クリエイト・レイターズを書いた時のこと、逢夢、絵麻、ブレイド、セラフ様との出会い、魔王を楽しんでいた時の記憶……そのすべてはつながっているはず。

「…………記憶を見せた時みたいに言葉じゃない方法で想いを届ける。俺は作家として物語を通してディアボロスの心に響く創造を届けたい」

 クリエイトやブレイドのように闘うことはできない。それでも作家にはできることがある。

 想いを伝えるのは言葉だけじゃないことを知っている。

 キャラクターを通して、文字を通して、絵を描くことで、クリエイター達は様々なことを伝えてきた。

 

「それが作家としてこだわりたい俺の覚悟。だから物語のキャラクターとして、その手助けをしてくれ。絶対に心に響く創造を創ってみせるから」

 心に響く創造、それが誰かの心を変えることを知っている。俺自身、いやたくさんの読者がそう思ってきた。

 一人の読者として物語を楽しんでいたディアボロスの心に響くものを創りたい。

 それが作家としての俺の覚悟だ。


「作家としての覚悟、心に響く創造か……うん、これならわたしゃも受け入れられるよ」

 今までの鋭い狼のような表情が嘘みたいた、蒼空のように透き通った笑顔をブレイドはみせる。


「ブレイド、まさかわざと」

「迷ったままで闘うことできない、そう思っただけ」

 もしブレイドが鋭い言葉で俺の心を傷つけてこなかったら、ここまでの決断はできなかったはずだ。

 

「憎まれ役をやらせてしまったみたいだな」

「構わないって~みんなのためになれたならそれが本望だよ~」

 思わず気が抜けてしまうようなブレイドの気楽な声を聞いて、ぐっと肩の荷がおりる。


「あたしも協力させて。あたしも心に響く創造をディアボロスに届けたい」

「そりゃいいね! マスターのイラストもあれば百人力だよ~」

 重く苦しい空気が、明るいものへと変わった。

 ブレイドは強いな。自分を犠牲にしても誰かのためになる覚悟がある。そしてそれを全うした。俺も見習わないとな。


「ディアボロスがわざわざ戦闘中に物語を読んだり、絵を見たりはしない。そこはどうするつもりでいるの」

 とりあえずの方針は決まったものの、ブレイドは現実路線でどうすべきかを問うてくる。

 確かに戦闘中に物語を読んでもらったり、絵を見てもらうのは非現実的だ。

 だけどこの創造を届けるという案は悪くないはず。

 闘っている最中でも物語や絵を見てもらえる方法、それさえ提示できれば……

 

「創造力、それを使って俺達が創り出した物語を見せることはできないだろうか。記憶を見せた時のように」

「なるほど……応用できる可能性はありますね」

「だったらやってみよう」

 可能性があるのなら、それを試してみる。最初から結果が解っているものを創っているわけじゃない。色々なことを試しながらいつも創りだしてきた。それと同じだ。可能性があるのなら試せばいい。

 

 届けたい想いをイメージする。最初は複雑なものにはしない。一番大切にしたい想いを手のひらの中に集めていく。

 すると手のひらサイズの光の球が創り出された。その光の球は創造力が込められている。


「逢夢、いくぞ」

 それを逢夢の背中に押し当てると、創造力は逢夢の中にはいりこみ、想いを届けはじめる。

「伝わりました、創磨が創りあげた物語と想いの輝きを」

 逢夢に創造の輝きを使って、物語を伝えることに成功した。これなら戦闘中でも想いを創造を使って伝えることができる。


「創造力で創った創造球で物語を届ける、そうすれば魔王ディアボロスに俺達の創った物語を伝えられるな」

「そうするためにも闘いは避けられませんね」

「創造球が破壊の意思に阻まれたら届けれない。ディアボロスの鎧はなんとかする必要があるとは思う」

「戦闘はわたし達に任せてください。鎧を砕き、絶対に創造を届けられるようにしてみせます」

 ディアボロスと戦うのは倒すためではない。ディアボロスと共に歩むためだからこそ、覚悟を決めれた。迷いは消え、皆の顔に自信と覚悟が宿っている。

 

「創造を伝える方法は考えれた。後は俺達クリエイターの出番だ。俺が物語を創り」

「あたしがイラストを描く」

 ここから絵麻との協力作業だ。絵麻と共に心に響かせる創造を創りだす。

 

「少しイメージしてみてくれないか」

「どう?」

「ぼんやりとしてんな……」

「じゃあこれでどう」

 絵麻に手をつかまれると、はっきりとしたイメージが俺の中に流れこんできた。


「おおお、これならいけそうだ。ってか、なんでそんな手が震えてるんだ」

 それと同時に絵麻の手が震えることにきがついた。


「ごめん、しっかりしなきゃいけないのに」

「しっかりする必要なんてないぞ。俺達の創造がディアボロスの運命を決めるんだ。俺だってびびってる。でもその不安な気持ちも必要だと思う。大切だから不安なんだ」

 お互いに震えていた手をぎゅっと握りあう。こうしていると落ち着ける。


「創るぞ、俺達の創造を」

「うん」

 ディアボロスを笑顔にする物語を届けたい、その想いが俺達の中で膨らんでいく。

 震えは止まった。瞳を閉じて絵麻とつながりイメージを共有する。

 手をつなぎあい創作をすることで、前向きになれる。

 こんなにも心強い仲間がいるのだから。

 

「よし、これで創造球は創れた。逢夢、ブレイド調子はどうだ」

「受けたダメージはある程度回復することはできました」

 絵麻と共に俺達の物語が閉じ込められた創造球を創り出し、逢夢達も回復することができた。

 

「く、またこの頭痛」

 ブリリアントウォールが破壊力によって蝕まれているのを感じる。

 ディアボロスは本気だ。本気で自らの願い、魔王を消そうとしているんだ。そんなことをさせるわけにはいかない。

 

「みんな行こう。ディアボロスに創造を届けるんだ」

 決意を固め、ディアボロスがいるアウターワールドへと転移をした。

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