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3話 魔王と創造 ⑦

「こんどは創磨の記憶を見て見ましょうか」

 絵麻の記憶を見終えると、今度は俺自身の記憶の扉を開いてもらう。

(小学生時ぽいな)

 記憶の中の小学生の俺は自分の部屋でゲームをしていた。プレイしているのは誰もが知っている有名なタイトル『ドラゴンストーリー』のナンバリングタイトルのひとつ。


『魔王アゼルはアブソリュート・ゼロを唱えた』

 ラスボスと魔王アゼルと闘っており、味方にかかっているバフ効果を解除する呪文を魔王アゼル唱えていた。

 

「ドラゴンストーリーに登場する魔王アゼルは、俺がはじめて魔王という存在に触れた相手だったな。絵麻はプレイしたことあるか?」

「ないよ、魔王の資料を探している時に見たことがあるくらい。子どもの頃の創磨……楽しんでるっていうよりも、ワクワクしてる顔になってよね」


 常に体力は黄色になり危うい状態が続き、魔王アゼルの攻撃は止まらない。

「うわ~またこれか! 早く、立て直さないと」

 手に汗握る魔王アゼルとの攻防にワクワクし、本当に魔王と闘っているみたいだ。

 そうしてワクワクしながらギリギリの闘い続けていると、

「よっしゃあああああああああ」

 魔王を倒し、子どもの頃の俺は雄叫びをあげ、ガッツポーズをとっていた。


「めちゃ喜んでる、可愛いとこあんじゃん」

「創磨、可愛い~」

 絵麻とブレイドは若干からかいまじりに喜ぶ俺に姿をニヤニヤしながら見ている。

「あ~尊すぎます!」

 逢夢は指先をぴくぴくと動かし、あまりの尊さに感激していた。


 どう反応すればいいのやら、ニヤニヤしたり感激されるっていうのは過剰なきがするな。

「こんな喜び方をしていたのですね」

 セラフ様にとってこの反応は想定していなかったものだったのだろう。純粋に楽しむ姿を目に焼きつけてくれている。魔王を倒すことの楽しさ、それはなにも悪いものばかりではない。そんな風に思ってくれたらいいな。

 

 ゲームをプレイしている姿から、次の記憶へ。

 映し出されたのは全身くろずくめの男の姿だった。床にはなにやら魔法陣が書いた紙が置かれている。

(こ、これは!)

 その状況だけがすべてを理解した、闇に葬られし中学時代の記憶だということを。


 やばい! そう思った時には遅かった。

「クッハハハハ、見せてやろうではないか。この我の力をな!」

 すでに黒歴史の扉は開かれてしまっている。

 隣で見ている絵麻は口をすぼめてくすくす笑う声を抑え、なにも知らぬ逢夢達は不思議そうな顔で見ていた。


「無限の摂理を超え、深淵を呼び覚ます、第5魔法、オメガ・フィスト」

 詠唱が終わり、すべての次元に干渉する魔法は発動している。

 もちろんそれは頭の中でだ。この記憶ではそれが再現されてしまい、

(これは妄想です)

 とわざわざ恥ずかしい表示されうえで、魔法陣が輝き、異次元の空間から魔力腕が飛び出していた。

 そう、これはかつて自分が作り出した魔法の一つだ。


(終わった!)

 見られた、みんなに。隠しておきたかった黒歴史を。

「これが黒歴史てやつ~?」

 まず口火をきったのは、ニヤニヤ選手権日本代表になれそうなくらい俺をニヤニヤみてきた絵麻。攻め、これは攻めだ。ここぞとばかりに攻めてきやがった。

 

 ああ~すべてばれちまった。空をあおぎてみて当方にくれるしかない。

「あ~そうだよ、そうだだよ。ここからいなくなりてぇ……」

 死にそうな声をだしながら、自暴自棄になる。体が熱い、顔から冷や汗もでて頭が沸騰でもしているみたいだ。もう、うさぎみたいに穴にあったら入りたい。入らせてくれないかな~


「まぁまぁきにすることないって。別にいいじゃん、これくらいなことなら。あたしだってやってたし」

 たぶんアイドル魔王のコスプレのことを言ってくれているのだろうが、絵麻とは状況が違う。

 あれは黒歴史とは違う。ちゃんとしたコスプレとして楽しんでいる。その場の勢いだけでやっている俺とは違う。

 

「絵麻のと俺のとじゃ違うって。絵麻はコスプレを楽しんでいた。本当に魔王になれると信じてやっていない。俺は魔王になれると思っていた痛い中学生、これが本当の黒歴史。絵麻のが黒歴史なわけないだろ」

「あ~そういうこというの。乙女の思い出を」

「いいだろ、それくらい」

「創磨が中学生になちゃったよ!」

 俺の反応が面白かっのか、絵麻の苦笑は止まらない。こいつ、絶対にこの状況楽しんでいやがる。なんてやつに見られちまったんだ。


「あの~これはなにか問題があったのでしょうか。物語を創る時に創磨はたくさん妄想してくださっています」

 逢夢は俺の黒歴史を普通のことのように受け入れている。純粋すぎる、むしろこれくらい当たり前だと思っていそうだ。

 

「なんて言えばいいのかな。これって別に物語を創るためにやってるとかじゃなくて、ちょい本気でなろうとしてるのが痛いというか、ラノベに影響を受けてオリジナルの魔法を創作しているのがね……」

「とてもいいことじゃないですか、それだけ物語にのめりこんでくれていたってことですよね」

 神に祈るかのように逢夢は手を合わせると、

「黒歴史って、とても素晴らしいです」

 黒歴史を披露した俺をあがめてきた。絵麻はニヤニヤと笑い続けている。


「逢夢がそう思うなら……」

 そして俺は無の境地経て、仏となった。

 くすくす笑っているのは絵麻くらい。逢夢やブレイド、そしてセラフ様は笑い者にしている感じはしない。キャラクター目線からみたら、黒歴史だと思っていないならそれでもいいか。

 

 記憶の再現は続き、今度はパソコンの前でキーボードをたたき執筆している最近の俺の姿が映し出されていた。

 

「この世界をすべてを支配するために我はここへ来た……う~ん、なんかこれだとありきたりすぎかもな。この作品ぽい感じの魔王にしたいんだけどな」

 どうやらディアボロスのことについて考えている時のものらしい。しかもだいぶ初期。この時からだいぶ苦労してたっけ。


「これってディアボロスを創ってる時のだよね。」

「だいぶ悩まされたな~創作に関連した悩みなんかを基軸としながらっていうのにはこだわりたくて、他の魔王にはない部分だったから」

 クリエイト・レイターズについて考える時は、これが創作に関連しているかどうかは常に考えていて、ただ魔王を登場させて闘うだけにはしたくなかった。


「魔王という存在をもてあそぶ人間に対し、復讐心をもっている。これならいけそうだな」

 記憶の中の俺はいけそうな案をみつけると、書く手が止まらくなっている。


「急に元気になったね~」

「なんかいけそうって感じになると、こうなる時が多いかな。物語を書いて時は苦労したり悩んでいる時間は多いけど、新しい発見をした時はすごい楽しくて」

「それは見ているだけで、伝わってきちゃうよ~」

 絵麻、逢夢、ブレイドは楽しそうに俺が創作をしている姿を見て、自分のことのうよう喜んでいた。

 

 それだけではない。セフラ様も目を輝かせながら、俺が創作している姿を嬉しそうに見ていた。

 大好きなアーティストのライブを聞いている観客、応援している時のファンの瞳を思い出す。

「セラフ様、なんだか嬉しそうですね」

 はっとした表情になったかと思えば、次の瞬間には何事もなかったかのように表情を戻している。戸惑い、感情のうねりは続く。


「嬉しい……そんな風にあなたには見えていたのですね」

 すがすがしい表情をしたかと思えば、後悔をしているように唇をかんでいる。二つの表情は相反するものだ。それなのにその二つは確かに混ざり合っていた。


「どうしてあなたは魔王を創作したいと思われたのでしょうか」

 目の奥そこにある光すらも見つめているかのような、真っ直ぐな眼差し。それは今までセラフ様が俺達に向けてこなかった視線でもある。


「魔王を描こうと思った時は、魔王という象徴が読者にとって解りやすいという考えでいました。それは今でも変わりません」

 最初のきっかけは読者のことを考えたうえでのことだった。第1巻、これから先の物語を読んでもらうために最重要な立ち位置。そこでの盛り上がりを考えたうえでの設定。

 解りやすさを求めたのは、他にいろいろな要素を展開しながら物語を進める必要があるから。


「けれど、今はそれだけじゃないと思えています。魔王を描いていくうちに、その魅力に改めてきずくことができた、改めて知ることができた。魔王という存在は魅力的、自分を楽しませてくれる存在だった。魔王を描いたのは、その楽しさを知っていたから。そして多くの読者にとってもそれは同じだと思えているからです」

 今までみた記憶、それはその証拠でもある。魔王を楽しんできた記憶。それは誰の手にも変えようのない証。楽しさはなにかを作り出す原動力であることを教えてくれた。


「セラフ様が嬉しいと思ったのは、そんな楽しさを感じたとったからではないのでしょうか。魔王を創りあげていく楽しさ。それもまた魔王の楽しさですから」

 そんな魔王の楽しさを伝えると、記憶の再現はすべて終わった。

 残されたのは困惑するセラフ様の表情。それがなにを意味をしているのか、俺はまだ知らない。

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