1話 誕生、レイ・クリエイト ③
「この世界について逢夢はなにか知らないか? 夢の中にして現実感がありすぎる。匂いとか手触りとかまで感じるなんてこと今までなかったから」
降ってくる花びらを触りながら、気になっていたことを質問してみた。
「この世界は『クリエイト・ワールド』と呼ばれ、“ブリリアントツリー”を介して、すべての創造とつながり、あらゆる願いを叶え創造することができると伝えられています」
すべての創造をつなぐ場所、そんな風に考えながらこの広大な花畑を見渡していると、色とりどりに咲いた花達は一つ一つ個性があるように思えてくる。
「あの花が形や色や大きさが違うのは、それぞれ個性を表しているのかもな。この大きな桜の木、これがもしかしてブリリアントツリーなのか?」
眼の前にある大きな桜の木を見ながら、逢夢に問いかける。
「この木はブリリアントツリーの一部、数え切れないほどあるうちのブリリアントツリーの枝の一つです。ちなみにわたし達が立っているこの場所はブリリアントツリーの幹ですね」
「この桜の木は枝の一つ、今立っている場所は幹の上……すべての創造とつながるっていうだけのことはあるな。これからはこの桜の木をブリリアントツリーの枝って呼んだ方がいいのかな」
そう決まっているなら、そんな風に考えてのことだったのだが、
「桜の木のままがいい。ブリリアントツリーの幹の上に咲いた桜の木、そのほうが個性的だと思います」
逢夢は桜の木でありたいということに、こだわってくれた。
「あ……すいません、出過ぎたことを言ってしまって……」
自然と出てきてしまった言葉なのだろう、逢夢は慌てて口を抑えている。
「俺も桜の木がいい。その方が個性的だからな」
そんな逢夢の反応や言葉を聞いて桜の木の方がいいと伝えると、そうしたいとでも言うかのように、二人で目線を合わせ、うなずきあった。
「逢夢がこのクリエイト・ワールドに俺を連れてきたのだろうか」
逢夢の方へと体を向き直し、また疑問に思っていることを聞いていく。
「間接的というのであれば……おそらく、創造神様がわたしが創造主様に出逢いたいという願いを叶え、夢を通じて創磨の魂をこの場所に連れてきててくださったのだと思います」
「創造神、それってこのクリエイターワールドに存在する神様みたいなのものか」
「はい。すべての世界とつながりあうことできる創造をつかさどる神、それが創造神様です」
おお~と唸ってしまうような、スケールの大きな話が飛び出してきてわくわくするな。
「創磨、とても嬉しそうですね」
「こんな物語しか起こらないようなことを体験できるのが嬉しくて、わくわくするんだ。逢夢はどうだ?」
「わたしも、とてもわくわくしています」
物語みたいなことが起きていることを、二人して喜び微笑みあう。誰かと同じ喜びを感じることをできるのは幸せだ。
「せっかくこうして出逢うことができたので、気晴らしに物語の世界を体験してみませんか?」
「物語の世界を体験する……それって物語のような場所に行けたり、物語みたいな能力を使えたりするってことか」
わくわくする気持ちが増す逢夢の提案に、心を踊らせ自然と目を開いていた。
「創造力で再現できることであれば、どんなことでも可能です」
「物語の中でしかできないようなことはしてみたいとは子どもの頃から思っていた。ぜひ体験してみたい」
予想もしていなかって逢夢の提案に、もちろんのってみることにした。
「では、体験してみたいと思う作品のことを思い浮かべてみてください」
頭の中で体験したみたいと思った作品のことを思いうかべてみる。
俺が小説を執筆するきっかけになった、あの大好きな作品のことを。
それは一瞬の出来事だった、花吹雪が辺りに突然吹き荒れると同時に世界が変わっていき、花吹雪が止んだころには物語の世界が再現されていた。
眼の前には黄金色の雲がどこまでも広がり、その雲の上に俺達は立っている。
黒い影ができ頭上を見上げたら、物語の中でしか存在しない竜達が空を飛んでいた。ヘビみたいに胴体が長い竜もいれば、大きな翼をはやした竜もいる。
「本当に高天原に来ることができたのか、あのテラステラの世界に」
作中で描かれた神が住まう世界、高天原の光景がそのまま再現されていた。
「テラステラ、主人公の勇気未来がテラブレイブに変身し、神々達の力を使って戦う物語。創磨が一番好きな作品なのですよね」
「逢夢もテラステラ、読んだことがあるのか」
「はい、何度も何度も見返したくらいには大好きです」
うんうんうんとうなずきながら、逢夢の言葉を聞いていた。
逢夢もテラステラが好きな作品だなのか。俺の影響もありそうだけど、自分が好きな作品を面白いと思ってくれるのは嬉しいな。
「雲の上って、マットや布団の上みたいな感覚だったのか。質感も丁寧に再現されていて、こだわりを感じるな~」
黄金色の雲を少し強く踏んでみると沈む感覚があり、雲の上を蹴ってジャンプしてみると着地した衝撃を和らいでくれていた。
「創磨はこだわりのある物が好きなんですよね」
「そのほうが良いと思うことは多いな。物語なら時間はかかるかもだけど、コストをきにすることなくこだわることはできる。こだわりしだいでまた違う良さが滲みでてくるのがいいんだよ」
「創磨はわたしのこともこだわって創ってくだいさいましたよね。触ってみませんか? さきほどからすごくきにされているようで」
逢夢は指先で桜のように美しい髪をいじっている。
無意識だったんだろうな、かなり目線が逢夢のあらゆる所を見ていたらしい。
「さすがにそれは……」
「ではこうしましょう……わたしが触ってほしいんです」
たじろきながら優柔不断なことを言っていたら、逢夢が俺の手をつかみ桜色の髪に強引に触れさせた。
「///////////////////」
逢夢の顔が真っ赤に燃えあがる中、俺自身照れくさく感じながら逢夢の髪の毛の感触を確かめた。
「こだわれていますか?」
「ああ、とても気持ちのいい触り心地だよ。とてもさらさらしているうえに、ふわふわしたうさぎの毛のように手をやさしく包みこんでくれて、本物のうさみみに触れてるような感じもするな。手入れをかかさずしてくれてのが触ってみるだけでも伝わってきたよ」
こんなにも魅力的な髪を触っているのに、こだわりを語らずにいられない。
「創磨はすごいですね。こだわっている部分はそんなに言語化できるだなんて」
「別に褒められるようなことじゃないきが……普通に考えたらさすがにきもいよ」
自責するような言葉を言っても、
「いえ、創磨はすごい、こだわりを感じとれる所もすごいです」
逢夢に褒められ、なんだかこそばゆい。髪を触っているってだけで照れくさいのに、輪をかけて照れくささが増していた。