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3話 魔王と創造 ⑥

「ここに集まられたということは、答えを決めてきたと考えてよろしいのでしょうか」

 翌日、絵麻とブレイドを家に招きセラフ様とリビングで合流をした。

 

「はい。その前にやっておきたいことがあります」

「やっておきたいこと……それはどんなものか教えていただけますか」

 首をわずかに傾け、考えるようなしぐさをセラフ様はしている。

 

「俺達が魔王を見て楽しんでいた時の記憶、それを見ていただきたいのです。どんな風に魔王を楽しんでいたのか知ってもらいたいと思ったので」

 俺の意見を聞くと、目を閉じ、腕を組んでセラフ様は考えをまとめていた。

 

「……見るだけならば、まぁいいでしょう。記憶であるのならば嘘のつきようはない。最後のあがきを見届けさせてもらいます」

 なにをしても無駄だ、そんな声が聞こえてきそうな余裕の笑みを一瞬セラフ様はみせる。

 どうしてそんな風に笑ったのか、その理由は解らないがこのまま突き進むしかない。

 吉と出るか凶と出るか、セラフ様の意思を変えられるのは俺達の記憶しだいだ。

 

「まずは絵麻の記憶から見ていきましょうか」

 逢夢が放つ創造力につつまれると、頭の中にイメージが広がっていく。

 まるで夢の中にでもいるかのような空間に飛び込み、宙を浮いているみたいだ。

 

 見えてきたのは、無垢な一人の少女。その少女が誰なのかは一目で解った。

「これはあたしが中学生の時ぽいね」

 中学生のころからそのスタイルのは良さは変わっていないが、どことなくまだあどけない感じが残っている。黄色のパジャマを着て、テレビの前に座っていた。

 

 画面には赤い髪の少女が戦っている姿が映し出され、黒炎の魔法で圧倒していた。

「メア、ありがとう」

「別にあんたのためにやったわけじゃないんだからね!」

 映し出されていたのはデッドリーガールに登場した魔王メアだ。お決まりのツンデレボイスと同時に頬を赤らめている。そんなメアの姿をみて中学生の絵麻はニヤついていた。


「はじめて魔王のことを好きになったのってメアちゃんからだったな~やっぱ可愛いねメアちゃん。魔王の強さとこのツンデレぷり、可愛い+かっこいいはね、めちゃくちゃ最強なんだから」

「かっこ可愛いってやつだろ、ブレイドに通ずる所があるんだな」

「かなり影響は受けてると思う。ブレイドはツンデレではないけどね」

「わたしゃもツンデレ系になったら、ニヤけてもらえるかな~」

「大丈夫、ブレイドは今でもニヤつけちゃうくらいには可愛いから!」

「マスターがそういうなら~」

 絵麻の感性っていうのは今もそれほど変わらないんだろうな。昔好きだったものは、今でも大好き。好きなものたいするこだわりっていうのはそうそう変わるもんでもないだろうしな。

 

 記憶が移り変わり、絵麻はタブレットにイラストを描いている。

「やばい、最高に可愛いいお顔だよ!」

 絵のクオリティに違いはあれど、楽しんで描いているのは今とまったく変わっていなかった。


「これって、あたしがオリジナルの魔王を描いてるの時のだね」

「これって絵麻のオリジナルなのか。魔王っていううよりも、アイドルぽくみえるが」

 絵麻が描いていたイラストをみると、アイドル衣装を来た少女にしかみえない。

「このキャラはアイドル魔王なんだよね~」

 そう絵麻が言った瞬間、再び記憶が移り変わり……


「アイドル魔王のマオマオだよ~! このあたしがみんなの心を世界征服しちゃうのだ」

 アイドル衣装を着た絵麻が鏡の前で手を振っていた。 


「うわ~これなつ~! 描いたキャラの衣装を作ってもらった時だ。あたしの描いたアイドル魔王マオマオ、めちゃ可愛いでしょ!」

 魔王という設定があるからなのか、ヘソまで出してかなり露出はされている。それでもアイドルらしさは健在、見えそうで見えないラインギリギリをせめていて、これが絵麻なりこだわりなんだろうな。

 

「なんでアイドル要素があるのでしょうか」

「そのころアイドルものも流行ってたんだよね。だから魔王と合わせたらめちゃ最強の好きが生まれると思って」

「好きなものをかけ合わせたって感じなのか」

「魔王でなくても良かったのでしょうか」

 セラフ様の一言は、絵麻に火をつけた。

「そんなことないって、めちゃ魔王ぽさをとりいれて描いたんだから! まずこの容姿、お顔からまず魔王らしさを出したくて、ちょい強気な感じ出してみたんだよ、アイライン変えてちゃんと自分の描いたイラストに変えてて、ほらほら目がぐってなってるでしょ。そしてこのヘソ出しルック、これがちょい強気な攻め攻めスタイルで魔王ぽさ求めてみたんだよね。この色とかも……」

 絵麻はこれでもかというくらい、自分で描いたイラストのこだわりを語りはじめる。それは誰も口を挟むことができないほど熱量が高く、魔王であることへのこだわりが確実に伝わるものになっていた。


「もうそれくらいで大丈夫ですよ……魔王にこだわる理由は理解できましたので」

 セラフ様はまいったと言わんばかりに、うなづき続けている。ここまでこだわりを語られてしまえばそうなってもしかたなし。

「魔王って要素があるだけで全然違うからね~そのあたりが楽しくて楽しくて」

「ええ、本当に楽しそうでした」

 記憶の中でオリジナルの魔王を描いている姿も、魔王にしたこだわりを語る絵麻の姿もどちらも楽しそうにしている。それが嬉しかったのだろうか、セラフ様も楽しそうに笑っていた。

 

「これは最近のだね。ディアボロスを描いてる時のだ」

 次はディアボロスを描いた時の記憶へと移り変わる。裏側をこうして直接見られるのはこちらとしても嬉しい。

 

「こんな感じなやつもどうかな」

 ディアボロスのデザイン案を描く。兜や鎧の形、シルエットの大きさ、それだけでだいぶ印象が変わっている。こんなにも多くラフを描いてくれていたのか。

「これじゃ兵士ぽいよね~魔王だからもっと悪そうな感じが出したいな~」

 自分の中にある魔王像を膨れあがらせながら創作する絵麻は、常に笑顔で描き続けている。

「赤い鎧の中身が可愛い女の子的な……う、それは自分に妄想にとどめておこう」

 鎧の中にいる想定で魔王娘も描き、どことなくそれは魔王メアや自分の描いたアイドル魔王マオと似ている。書きたい欲を抑えられずに自分の好みな方に脱線してしまうくらいには、絵麻が楽しんで描いているのは見ているだけ伝わってきた。


「ディアボロスのデザイン案を決めている最中も、楽しそうにしておられるのですね」

「商業で魔王を描くチャンスなんてないだろうしね。セラフ様、なんだか嬉しそうですね」

「そ、そう見えましたか。ディアボロスのことを考えてくれているのが嬉しいと思ってしまったのかもしれませんね」

 そんなことありませんよみたいに手を振っているけれど、セラフ様は笑顔を絶やさない。

 セラフ様はディアボロスを描く絵麻の姿を、まるで自分が描かれた時のことように嬉しそうにみつめている。魔王を楽しそうに描く姿を楽しむ、これも魔王の楽しみ方なのかもしれないな。

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