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3話 魔王と創造 ④

 逢夢の力によって転移した場所はビルが立ち並ぶ街中だった。

 空を見上げれば、肩には翼、頭に二本の角を生やした異形の存在が。その姿は物語の中に敵として登場する魔王のようにも見える。その手にすでにくす玉ぐらいの大きさの火球が創られていた。

 

「消えろ、人間共」

 火球が放たれ、多くの人がまだ残っているであろうビルに直進していく。

 

「ふう、危ない危ない。いきなり無関係な相手を攻撃しようだなんて、ひどいことするな~」

 それを止めたのはブレイド。真上に飛び上がり、火球を蒼輝刀剣でかき消した。

「普段よりも警戒していたおかげで間に合ったようです。セラフ様助かりました」

 間一髪だったが、被害はまだでていない。セラフ様のおかげだな。


「貴様達がディアボロスが言っておった、レイターとかいうやつらか。我は魔王、この世界にいる人間共に我らを利用した報いを与えにきた」

 転移した俺達のいる方に向くと、魔王ははるか頭上から見下してくる。自分の方が圧倒的に上な存在だということを解らせるかのように。

 

「あなたはディアボロスに命令され、このような行いをしているのですか」

 逢夢は名も知らぬ魔王を睨みつけ怒っている。俺も同じ気持ちだ。もし被害がでていたらと思うと、こんなことをされて喜べるはずもない。

 

「我が誰かの指図されただけで動くとでも思っておるのか。我らを利用した奴らに報いを与える、それは我自らが望んでいること。貴様達もキャラクターであろう。人間共に利用されることは不愉快だとは思わんのか」

「考えこともありませんね。わたし達がいるのはこの世界でわたし達を見てくれる人達がいるからです。あなたは魔王として多く人に目を止まる活躍をした。物語として楽しんでもらえることの、なにが不愉快だというのでしょうか」

「不愉快に決まっておろう。人間共が我らを見ているのは小さな欲求のため。自らが強くなり敵を圧倒する快感、それを得たいがためにすぎぬではないか」

「そんな風に思ってやつなんてほとんどいないと思うけど。みんな娯楽として楽しんでるの。物語の中の出来事をいちいち本当に起こった出来事のように追求することの方がおかしい、わたしゃはそう思うけどね」

 人間達が悪だと断罪する魔王に対して、物語として楽しんでいることを逢夢とブレイドは肯定する主張をしていた。

 お互い意見は真っ向から対立し、寄り添いあうこともない。同じキャラクター同士でも、理解しがたい存在だとお互いに思っている。このまま話あっても溝は深まるばかり。かといって俺がここで話に割ってはいっても怒らせるだけになる可能性は高い。


「だまれ! 理不尽な死を受け入れるのは我らではない、この世界の人間共なのだ!」

 名も知らぬ魔王が抱くは復讐の炎、その業火は燃え上がり続け、右手にさきほどよりも大きな火球を創りだす。渦巻く炎は憤怒の証。話すべきことはもうない、自らの力を持ってすべてを押し通すきでいた。

 

「話すきことはもうないってことでいいよね」

 やっぱりかと息を吐き捨て、ブレイドはもう名も知らぬ魔王と語るべきことはないと判断した。それは解り合うことはもうないのだという意味でもある。

 

「レイター・ブリリアントチャンジ」

 ブレイドはレイ・レイブレイドへと変身、名も知らぬ魔王に向かって飛んでいた。迷いのない真っ直ぐな軌道。小細工はなにもなく、最短ルートをとっている。

 

「正面からだと。馬鹿が! 我が力でねじ伏せてやろう」

 名も知らぬ魔王はすでに創り出していた巨大な火球でブレイドを迎えうつ。

 

 ブレイドが火球と接触するのは避けられない状況。あと僅かで届く距離でブレイドは動きだす。

「できないよ、その程度じゃ」

 ブレイドは自分の何倍も大きな巨大な火球をたった一振りの斬撃でかき消した。蒼輝刀剣に込められた創造力は、名も知らぬ魔王の破壊力を完全に圧倒していた。

 

 名も知らぬ魔王の攻撃を完全にいなし、もう少しでブレイドの斬撃が届く距離。名も知らぬ魔王がその場にいてくれたならブレイドの攻撃は届いていただろう。

 

 名も知らぬ魔王は高度をあげながら後退。ブレイドが接近戦ができない距離まで離れてしまう。

 ブレイドは剣士だ、この距離から届く攻撃はない。常に名も知らぬ魔王は空中で浮いており、地面を蹴った勢いがなくなれば失速していくばかり。

 やはりネックになっているのは空に浮かんでいることか。

 

「フッハハハ、どこまで貴様が追いかけようとも我には届かぬわ」

「それはどうだろうね」

 ブレイドは余裕の笑みをこぼす、それはこの状況に対応できることを意味していた。

 

 ブレイドは刀を水平方向へ向け、創造の輝くを刀身に集めていく。

 細かな風の音、周囲の空気が巻き込まれているのを肌でも感じ取れる。

 風が踊り、風が舞い、風は切り裂く。

「蒼の風、蒼刃斬」

 刀身に集められた創造の輝きが、空を斬りさく風の刃と化し疾走する。

 蒼く輝く風の刃は名も知らぬ魔王に牙をむいた。風の刃に刻まれた名も知らぬ魔王は衝撃に崩れ、浮遊することもままならず地上へ落下した。

 

 たった一撃、それだけで名も知らぬ魔王は風前の灯火。立ち上がるだけで精一杯なのか空すら飛べなくなっている。レイター化したブレイドの差は圧倒的だった。

「これで終わりだね」

 地面に叩きつけられた名も知らぬ魔王にブレイドはトドメの一撃を撃ち込もうとしている。お互いの実力差がはっきりしてもなお、ブレイドに油断はない。、目は獲物を狩る狼のように鋭く光ったままだ。

 

「お待ちください」

 そんなブレイドの前に立ちふさがり、セラフ様は声を荒げた。

「闘いは終わりました。これ以上の争いはもう不要です」

 眼の前に立つセラフ様はその場から離れよとせず、ブレイドが名も知らぬ魔王のことを倒そうとしているのを止めようとしいる。

 

「そうかな~? あっちはまだ闘うつもりみたいだよ」

 ブレイドの視線の先にいる名も知らぬ魔王は状態を起こしつつある。さっけ受けた斬撃によるダメージが残っているからか、足はガクガクと震えている。なんとか戦闘が継続できそうな見た目ではある。

 

「あいつは現実世界で悪さをしたキャラクターだよ。それを生かしておくなんてことだけできないかな~悪いやつは倒さないといけない、それは物語と同じだよ」

「あの方がこの世界に危害を加えようとしたのは事実です。ですがその理由はこの世界の人間達が魔王をもて遊んでいるからです。一方的に悪だと断罪されるべきではありません」

 持っていた刀を突きつけられる中、セラフ様は毅然とした態度で向かい合う。どちらも引くきはなく、揺るぎない眼光をぶつけあっていた。

 

 俺がすべきことはなんだ。どちらかの意見に肩入れすることだろうか。それとも別の道を提案することだろうか。

 答えのでない解答、その中で沈黙し続けることしかできない。歯がゆい、何もできない自分が。


「もて遊んでるわけじゃない、楽しむために必要なことをしているだけ。キャラクター達は人のためになることが本望、そう思えていないほうがおかしいよ」

「そんな風に決めつけるな!」

 セラフ様は怒りの絶叫をあげる。そのことに一同驚いて、思考が止まった。

 

「マシャイン!」

 それと同時にセラフ様は閃光弾のように、目がくらむほどの眩しい光を発生。目を開けてはおらず視界が一瞬で真っ白になた。

 真っ白な視界の中で聞こえるのは嵐のように吹き荒れる風の音。砂埃を巻き上げるほどの強風は髪が逆立つほど強い風を吹かせていた。

 目を空けると、さきほどまで眼の前にいた名も知らぬ魔王は遥か上空に飛んでいた。


(逃げられる)

 おそらくセラフ様は、名も知らぬ魔王を逃がすために、このような行いをしたのだろう。

 そう思ったいたのだが……

「見ていろ、この我が一矢報いる姿を。屈辱をはらすのだ、この世界の人間共に」

 空高く浮遊していた名も知らぬ魔王の手には、赤く濁った破壊の輝きが灯っている。

 

 それは多くの人間がいる方へ向いている。あいつは腹いせに多くの人間達の命を奪おうとしていた。それは明らかに許さぜれる暴挙でしかない。

「止めてくれ、あいつを」

 迷っている時間はなかった。俺は逢夢にすべてを託す。あの名も知らぬ魔王を止めて欲しいと。

 

「レイター・ブリリアントチェンジ」

 逢夢は一瞬でレイ・クリエイトに変身すると、手のひらに集めた創造球を名も知らぬ魔王に向ける。

「創造の弾花、クリエイト・ショット」

 上空に浮かんでいた名も知らぬ魔王は逢夢の創造の輝きによって包まれると、

「おのれ、おのれぇええええええええええええ」

 物語の中に登場した魔王達のように断末魔をあげた。

 

 それは許さぜれる行為だったのか、俺に解らない。それでもこうしていなければ現実世界で生きる人々が被害を受けることになっていたであろう。

 残響の中で立ちつくすセラフ様は俺をみている。

 この世界を殺してしまいそうなくらい冷たい瞳で俺を見ていた。 

 

「こうするしかなかったのですか? こうするしか?」

 セラフ様の問いに俺は答えることはない。うなずくこともなく、逃げるように目線をそらした。

 闘いに勝利し、この世界の人々を守ることができた。しかしそれで喜んでいるものは誰もいない。

「戻りましょうか」

 変身を解き、逢夢は静かにそう告げると、俺の家に転移をしてくれた。

 

 さっきまで和気あいあい話していたリビングに戻っても、元に戻らない。

 闘いの余波は残り重たい沈黙が続く中、セラフ様が口を開いた。

「わたしから提案があります。魔王という概念をこの世界から消してしまいませんか。そうすればあなた方にも危険が及びません。。あなた方にはそれは可能なはずです」

「物語から魔王を消してしまうことで、すべてをなかったことにする。そうしたいとおしゃられているのですか」

「そうです。そうすればこの世界が狙われることはなくなります」

 元凶を断つことですべてをなかったことにする、それがセラフ様の提案した方法だった。

 

「そんなことさすがに……」

「できますよ。ブリリアントツリーに蓄えられた創造力、それにはどんな願いも叶えてしまう力があります」

「セラフ様がそのことを知っているのも、ディアボロスの記憶によるものなんだよね」

「ええ、ディアボロスはブリリアントツリーを狙っています。自らの願いを叶えるために」

 クリエイトもブレイドもセラフ様の言葉を否定することはなく、どうやら願いを叶えることは本当らしい。


「物語から魔王が消えてしまう、そうなれば魔王が描かれた物語だけではない。セラフ様、魔王であるあなた自身さえも消えてしまうのではないのでしょうか」

「それで構いません。この世界の人間達が狙われ続けることになるくらいならば、わたし達なんていない方がいい。魔王達もこの世界との関係を断ち切ることで不幸な目にあいつづけることはなくなります」

 破滅を望むその姿に悲壮感はない。すべてを捧げやり遂げようとする強い意思をセラフ様は持っていた。

 

 どうしてそんなことを……それがその問いに対する答えだったのが、言い出すことができない。

 セラフ様の意見を否定できる材料がないから? いや違う。きっと魔王達のことを考えきれていないことを自覚したからだ。

「考えさせてもらえませんか」

 今は答えをだすことはできない、それが今の自分の結論だった。

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