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3話 魔王と創造 ②

日曜日、家から歩いて8分、大通り沿いにある大きな本屋『三葉堂書店 希望ヶ丘店』へと向かっていた。

 三葉堂書店は東海3県を中心に展開している書店だ。

 希望ヶ丘支店は郊外にあり、フロアは全部で二階。大きなスペースに本棚が並び様々な種類の本が陳列されている。文房具、キャラクターグッズ、ゲーム、トレカ等、本以外の商品も販売されており、店舗によって何を重視しているのかは違っている。

 希望ヶ丘支店の場合は近場に愛知平和公園や東山動物園があり、子供向けの作品や生物に関連した本が充実している。

 また動画配信の復旧共にレンタルDVDを扱わなくなり、空いたスペースに今は展示やトークショーができるイベントスペースがあった。

 

 そんな希望が丘支店の前で絵麻と合流し、店内へと入った。

 入口を入ってすぐ、店頭の一番目立つ所に売れてる本や賞をとった本が置かれている。

 通路を歩いていくと、その先に無人と友人のレジがあり、書店員達の姿も見えた。

「逢夢、仕事の方は順調か」

「違いはたくさんありましたが、丁寧に教えてもらっているので大丈夫ですよ」

「なになに仕事って」

「この本屋で最近バイトをはじめたんです」

「そういえば作中でも逢夢って本屋さんの手伝いしてたよね」

 作中で本屋で働いていたこともあり、逢夢は現実世界でも本屋に働き始めている。作中と同じようにしてくれるのは作者として嬉しいものだ。

 

「ここってまだバイト募集してる?」

「してますよ」

「マスター、ここで働いてみていい? このままずっとタダ飯くらいってわけにもいかないと思ってんだよね~」

「ブレイドがやりたいと思うなら止めないよ」

「マスターの許可もらえたし、応募してみることにしてみるよ」

「あたしの知り合いがバイトをしたいと、伝えておきますね」

 ブレイドがこの本屋で働く意思を見せてくれて、逢夢は可愛らしいガッツポーズをするくらいには喜んでいた。


 漫画やラノベが中心に置かれている本棚の通路を歩いていく。

「本屋って、本当にたくさんの本があるよね~なんかいろいろありすぎて、なにを見ていいか困るかも~」

 ブレイドは本屋に来たのがほぼはじめて、その数の多さに困っている様子。

「良いなぁ~と思った表紙やタイトルがあれば、とりあえず手にとってみる所から初めてみるといいですよ。気になったらすぐ手に取れる、それが本屋の良い所」

 足を止め、ブレイドは気になる本を手にとっている。

「この女剣士、ちょいきになるかも」

「あ、それあたしも良いと思った。こんなの出てたんだ。買ってみる」

「いいの~」

「本屋はそういう場所ですから」

 気になる本をカゴにいれたりして寄り道をしつつ、本棚の間をいくつも通ると目的の場所に着いた。


「このあたりなら魔王が出てる作品はたくさんありますよ、例えば……」

 逢夢は魔王が出ている作品を手にとっていく。

『魔王学園』

『リミット・ブレイカー』

『人見知り魔王がめんどくさい』

 女子高生の魔王、ライオン顔の魔王、おっさん姿の魔王とエルフの女の娘が表紙に描かれている、魔王が登場する作品を逢夢は手にとった。

「この表紙になっているのがすべて魔王なの?」

「今見せたものはすべてそうですね」

「本当にいろいろいるんだ~なんか敵ぽくないね」

「今は味方として描かれてることも多いかな」

「そうなんだ~魔王って人気あるの?」

「あるよ、超あるよ。これとか、これとか、これとかも、魔王がかなり活躍してるね」

 絵麻も参戦、漫画を手にとり多くの魔王が登場していることを伝えた。


「今もこんなに魔王が登場してるだ思ってなかったよ~」

「それだけ魔王が多くの人に受け入れられてるってことなんだろうな」

 昔と今で違いはあるものの、魔王という存在は形を変えて受け入れられている。ブレイドの魔王に対する認識はだいぶ変わってきていそうだな。

 

「ディアボロスは贅沢だよね~魔王というだけで人気も活躍も保証されているというのに不満をもたれるだなんて」

「キャラクター側からしたら魔王になれたラッキー、ってことか?」

「そう思っている魔王がいてもおかしくないと思いますよ」

 キャラクター目線からすれば、魔王になれただけで嬉しいと思うのが普通か。もし俺がキャラクターだったら、実際かなり嬉しいのかもしれないな。


「ブレイド、魔王ぽく強そうにしてみてよ。もしかしたら人気者になれるかもだよ」

 思いつきとかし思えないような絵麻の発言ではあるものの、ブレイドにとって絵麻の意思が最重要。

 

 表紙に描かれた女の娘のように腕を組み、目を細めてから

「我は強いよ~超強いからね~」

 ブレイドは魔王を演じた。魔王ぽくしてみようと心意気は感じるものの、まったり感が強い。それが魔王ぽさを薄くしていた。

 

「まったり系魔王もありってことにしとこうかな。まぁ、魔王じゃなくてもブレイドはブレイドってだけで魅力的だから」

「それならいっか~」

 特に魔王になりきれなかったことをブレイドは悔しがることはない。絵麻が楽しんでくれたなら良かった、そう思っていそうだ。


「マスターの好きな魔王って、この中にいる?」

「デトガのメアちゃん、そしてやさまおのセラフ様。どっちもめちゃ可愛いんだよね~」

 絵麻は『デットリーガール』の表紙と『やさしい魔王の育て方』の表紙、を見せつけた。

 そこにはメアとセラフ様の姿が描かれている。


「ほんとだ、めちゃ可愛い~」

「創磨の一番好きな魔王って誰なの?」

 その答えを示すために、俺は絵麻が手に取る本を指差し、

「俺が一番好きな魔王も『やさしい魔王の育て方』に登場するセラフ様だな」

 一番好きな魔王が誰かを伝えた。

 

「わたしも好きですよ、セラフ様」

 逢夢もまたセラフ様のことが好きだと口にする。

「へぇ~みんな好きなんだ。セラフ……さま? って、どんな魔王なの~」

 ブレイドは本を手にとり、表紙に描かれているセラフ様を興味津々だ。

 

「落ち着いた大人のお姉さん、みたいな感じかな。この中だと一番逢夢と似てるかも」

「そっち系が好みなんだ~よしよし~おねえさんがいいことしてあげる~」

 ブレイドに強制的に抱き寄せられ、頭を撫でられた。ふわっとした感触が頭にあたる中での行為。しかも人前でということもあり恥ずかしくて顔が熱くなる。


「ブ、ブレイド、なにしてるんですか」

 逢夢は赤面しつつも、ブレイドと俺の間に入り、引き離した。

「お姉さんになってるだけだよ~逢夢もいろいろしちゃてるんじゃないの」

「してませんよ。創磨とは健全な関係でいますので」

「そうなの~? 逢夢は創磨のためにでっかいのおしつけたいいのに~あ~なんかやらしい~」

「勝手に妄想しないでください」

「おこらない、おこらない。冗談だって~」

 背中をペチペチ可愛らしく叩く逢夢を、ブレイドはまぁまぁ手をやりなだめている。

 いじられはしたが、自分が創ったキャラクターが他のキャラクターと仲良くしている姿を見れるのは素直にエモい。それで良かったと思うことにしよう。

 

 そんな風に呑気なことを考えていたのだが、

「ブレイド、きずきましたか」

「なんとなくだけどね~」

 じゃれあって二人は本屋の出口をみて、鋭い眼差しを送る。そんな二人をみて気持ちをすぐに切り替える。

 

「どうしたんだ」

「わたし達の近くに転移してきたものがいます。警戒を」

 おそらくディアボロス達が現れた可能性がある。今までの和やかだった雰囲気は一瞬で消え、緊張がはしる。

 

 店内の自動扉が開き、俺達に近づいてくる存在がいた。

(あれは……でもどうして?)

 意外な、そしてそれは出会ったことはないが見知った存在。


 黒い軍服に白いスカートを着用、紅色のロングストレートヘアの可愛いというよりも美しい若い女性。

「わたしはセラフ、あなた方にお伝えしたいことがあり、ここへ来ました」

 そう、俺達に声をかけてきたのはやさしい魔王の育て方の主人公セラフ様だった。

 見た目や話し方、歩く所作すらも落ち着いていて、物語と同じだ。

 

「セ、セラフ様ですか! 本物のセラフ様でいいんですよね」

 眼の前にいるのはまさに今さっき語ってきたキャラクター。好きなキャラクターを眼の前にして嬉しさを抑えられず、表紙に描かれたセラフ様と今眼の前にいるセラフ様を交互に絵麻はみていた。


「マスター、ちょい離れてね~セラフ、あなたはわたし達がここにいることを知ったうえでここに来たってことでいいのかな」

 浮かれる絵麻とは対照的。鋭い視線を向け、ブレイドは刀を引き抜くようなそぶりをみせている。なにか不審な動きがあればすぐにでも斬りかかりそうだ。


「そうです。あなた方にお伝えしたいことあり、ここへ来ました」

 セラフ様は臆することなく丁寧な対応をしていた。

 まともな相手だと思ってくれているのだろうけど、ブレイドは警戒を続けたまま、話を続けるように首を縦にふった。

 

「ディアボロスはこの世界に魔王達を召喚し、人間達へ復讐させようとしています」

 今度は俺達以外の者にまでディアボロスを手をだそうとしている。それを知った時、ふつふつと怒りが湧きだし拳をぐっと握りしめていた。

  

「あいつら、またそんなことを」

 むかついているのは絵麻も同じらしく、舌打ちでもしていそな顔つきになっている。

「セラフ様もディアボロスによって、この世界に現れたんだよね。どうしてわたし達の味方をしようとするのかな~?」

 ブレイドは警戒心は解いていないものの、セラフ様に歩みを進めるための言葉を伝えた。

 

「わたしはディアボロスの実験過程で偶然生まれた存在。悪意ある魔王達とは違う意思を持ち、ここへ来ました。それはあなた達ならばなんとかしてくださると思ったからです」

「セラフ様は、俺達これまでしてきたことをご存知なのでしょうか」

「すべてではありません、ぼんやりとだけわたしにはディアボロスの記憶が残っています。ここに来れたのもわたしの中に残っているディアボロスの記憶によるものです」

 ディアボロスにとって意図しない存在としてセラフ様はこの世界に現れ、しかもディアボロスの記憶をもっている……つじつまはあうか。

 

「ここで話すにもなんでし、一度家に来ませんか。こちらの事情を伝えておきたいので」

「よろしくお願いします」

 セラフ様に事情を話すために、家へ迎えいれることに決めた。

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