2話 あらたなる輝き、レイ・ブレイド ⑭
リビングの窓をふとみると、カーテンの隙間から満月が輝いているのがみえた。
「満月だ、きれい~」
ブレイドははじめて満月を見れて喜んでいるみちあ。あたしの視線の先にあるものをブレイドも見てくれている。なんだかそれって心地良い。まさかこうして肩を並べて月をみれるなんて思ってもいなかった。
「創磨、逢夢、せっかくだし月見でもしてかない?」
「いいぞ」
創磨達ともそんな心地良い一時を共有したい。
カーテンを空け、部屋の照明をぼんやりとした光に変えた。
部屋を照らすのはぼんやりとした照明と蒼く輝く満月の光だけ。乱雑な部屋なのにすごいドラマティックな世界が創りだされた。
「こうして月をみているだけで、落ち着くもんだな」
「そうだね~」
悩んでいたり、決意したり、戦ったり、気持ちが揺れ動くことばかりしてきたので、こうして落ち着けるのは心地良く感じる。
よし、伝えたいことを伝えよう。今日のうちに伝えたい。
「あたし、これからはブレイドのイラストも描こうって思ってる。漫画にだって挑戦したい。でもね……まだ迷いがある。漫画とイラストは違う、あたしにはすごい物語を書く才能はない。それはやってみて解ってることだから」
自分の気持ちをもう偽らない、今もまだ不安に思っていることを伝えていく。想いを伝えることで変わるものはきっとあるはずだから。
「挑戦したことで後悔することもあれば、挑戦できなかった後悔もある。後悔っていうのは挑戦の有無に関わらずしてしまうものだ。俺は逢夢みたいにはできなかった人間だ。ラノベやアニメや漫画が好きで創作に興味あったけど、学生の時にそれはしなかった。それは無意識に自分に才能がないと思っていたからだと思う」
創磨は過去の自分の選択したことについて語りはじめた。創磨だって完璧だったわけじゃない。才能なんてないと思っているのはあたしと同じなんだ。
「社会人になってから、ようやく俺は小説の執筆をしはじめた。子どもの頃からしていた絵麻と比べたら、そういう意味でもまだまだひよっこみたいなもんだ。それでも才能を理由にして、挑戦しなかったのを後悔している。気軽にはじめれば良かったってな」
小説を書くのとイラストを描くのはまったく違う。それでも創作に挑戦するという意味では同じ。創磨が自分のことを語るのは、経験から得たことをわたしに伝えるためなのかな。
「才能がないから、そのせいで迷っているなら、それはきっと後悔につながると思う。才能がないないなら、ないなりにやり方を変えてみる。それが挑戦するってことだから。決めるのは絵麻だ。絵麻自身が進むべき道を決めていいんだ」
決めるのは全部自分、そう思いながらブレイドのことを見た。
描いて良かった、出逢えてよかった。心からそう思える相手がいる。
そっか、あたしの心はもう決まってるんだ。後はそこから逃げなければいいだけ。
「創磨の気持ちは伝わった……あたし挑戦してみる。イラストだけじゃない、ブレイドの物語を漫画を描いてみたい。あたしには面白い物語は書けないし、漫画映えするすごい絵をすぐには描けばいと思う。それでも挑戦したいって心の底から思えたから」
満月の夜の誓い、それはあたしの運命を大きく変えるものになる。
創磨がいなかったらたぶんあたしはブレイドのイラストだけ描いて満足していたと思う。本当にやりたかったことをやらないまま終わっていた。
「どうせ挑戦するなら、みんなに面白いと思ってもらえるものにしないか」
創磨は真っ直ぐとあたしをみつめると、
「絵麻、俺は絵麻の物語になりたいと思っている。夢のために努力し、諦めることを選ばなかった、絵麻の物語に俺はなりたいんだ」
月明かりのようにあたしを照らしてくれる言葉を創磨は伝えてくれた。
あたしよりも歳上なのに、落ち着いていて大人ぽい所もたくさんあるのに、こんな時だけ無邪気な顔をしている。
「するい、そんな嬉しい事いってくれるなんてずるいよ」
そんなこと言ってもらえるなんて思ってもみなかった。ずるい、本当にずるい……でもそれがいい。そんな創磨だからあたしは心を動かされる。
心のキャンパスに色が足され、あたしの中で眠っていた想いが色で満たされていく。
「あたしからも言わせて――創磨、あたしの物語になってよ」
月のように照らしてくれる創磨をみつめ、あたし色に染まった想いを届けた。
「上手くできる自信とかないけど、なってみるよ絵麻の物語にな」
きっとこうなることは運命だった、そう思えるほどにあたしの心は満月のように輝いている。
憧れなんていらない、あたしには無理だって思っていたけど、そうじゃなかった。
太陽のように照らしてくれる人がいれば輝くことができないものだって月のように輝くことができる。あたしの物語だって輝くことができるんだ。
「少しずつ絵麻の物語を書き進めてく予定ではあるけど、まずは魔王ディアボロスのことを先に考えさせてくれ」
「あっちも放置ってわけにもいかないもんね」
あの魔王はあたしが描くキャラクターの一人、なにが理由であれこのまま放置にはできない。一緒に考えていかないだとね。
「創磨と絵麻、良い信頼関係を築けていると思いませんか」
「わたしゃ達も見習いたいよね~」
逢夢とブレイド、二人が尊敬の眼差しを向けてくる。
なんか崇められてる感じになってるのは、ちょい恥ずい。
「ブレイド、これ食べる。逢夢の手作りチョコだよ」
ブレイドの意識をそらすために、逢夢からもらったチョコを渡してみた。
「わ~超うれし~いただきます~これは、逢夢の母性が口の中で溶けてるみたい。めちゃくちゃ美味しいよ~」
「ありがとうございます」
逢夢のチョコをブレイドは食べて、逢夢にお礼を伝えていた。
なんか少し心がざわざわする。こんな風に褒めてもらいたいって思えている。
「わたし達も絵麻からいただいたチョコ食べましょうか」
「そうだな」
逢夢達もあたしが用意したチョコを食べるようだ。手作りじゃない義理チョコ。それが創磨の口の入るのをじっとみつめてしまっていた。
「どうした?」
「どうだったかなぁて思って」
あたしの方を創磨は見ている。あたしのチョコを食べながら。
「甘くて美味しかったよ」
「も~う、嬉しいこと言ってくれるな~」
なんてことないふりをしてるけど、なんだかおかしなくらいにそわそわしてしまって、後ろに回した手を強く絡ませた。
ああ、もうこんなの嬉しい気持ちが止めようがないじゃんか。
あたしは創磨の耳元まで顔を近づけると、
「ありがとね」
気持ちをこめて、ありがとうと囁いた。
満月の夜とチョコがつくりだすあたし達の未来、
それはこのチョコのように甘くはいかないのかもしれないけれど、あたしは一人じゃない。
みんなといるから、もっと輝くことができる。それが今のあたしなんだ。




