2話 あらたなる輝き、レイ・ブレイド ⑫
「ちょっとあんた創磨を離しなさいよ!」
創磨が掴まれたのを見て、いてもたってもいられなくて声を荒らげた。
どうして創磨が戦ってるのか、この敵はなんなのか、いろいろと展開に追いつけない所はあるけれど、今、自分がやらなければいけないことは、はっきりしていた。
創磨を助ける。方法とか解んないけどそうあるべきだって解るもの。
「断る。我には我の願いを叶えるという目的がある、破魔達よ、レイ・クリエイトを倒せ」
魔王ディアボロスとかいうやつは創磨を人質にとることで無抵抗なクリエイトを倒すつもりらしい。
「クリエイト、俺のことはきにするな。あいつらを」
「そんなことできません、きゃぁああああああ」
魔王ディアボロスの狙いにはきずいているのに、クリエイトは抵抗はしない。剣に斬られて傷ついていく。こんなのって、こんなのってあんまりだよ。
「この卑怯者。人質をとるだなんて」
「確かに今の我は卑怯者だが、これも魔王の意思を尊重してのこと。魔王ならばどんな卑怯なことでもできる、破壊力をもつ貴様もそうであろうて」
赤く輝く瞳でみられた瞬間、
(苦しい、痛い、こんなの認めたくない……)
漫画を見られなかった時、自分が作った剣士をいらないと思った時の記憶が呼び起こされる。
「耳をかすな、絵麻」
「黙っていろ、創造主。さぁ、解放しろ、お前の破壊力を」
創磨の声が聞こえて一瞬だけ苦しい気持ちが和らいだけど、ディアボロスが放つ赤い輝きに包まれると、あたしの意識がなにかに侵食されはじめる。
(認められたい、認められたい、認められたい……あたしが望む世界は、あたしが描いたものがすべて認められた世界……)
あたしの絵がすべて認められた世界。苦しむこともなく、幸せの中にいる。
居心地がいい空間、これがあたしの望み。
「その気持ちに身をゆだねてしまえ。苦しむことのない世界、それが望みだろうて」
(苦しみから抜け出すためにすべてを奪おう。そう、すべてを奪えば……)
あたしを手招きする欲望の声が、頭の中から噴出していく。
いつまでも心を蝕み続ける苦しみ、それは心の中に生まれそうなこの赤いものに身をゆだねたら消えるの?
(手をのばしさえすれば……手を伸ばしさえすれば)
赤い輝きに手をのばしつかもうとしたその瞬間、創磨の声が聞こえた。あの時心の奥底に響いた声が。
――自分自身が大切にしている創造を捨てる必要なんてない。俺は絵麻自身が創りたいと思った創造をもっと楽しみたいんだ。
創磨の言葉、わたしが信じるべきものはすでにある。それなのに破壊の意思なんていうものに身をゆだねる必要なんてない。
自信なんてなくてもいい。あたしの好きをみてくれる人がいれば。悩んでたってあたしは超頑張れる。それがあたしだ!
「認められないのは嫌、あたしはまだまだ実力不足だなって思うよ。でもね、あたしの絵をみて喜んでくれる人がいる。笑ってくれる人がいる。考えてくれる人がいる。そんな人達のためにあたしはなりたい。だからあたしはあんたになんて支配されない。あたしはあたしの描いた創造を大切したいんだ!」
自分自身の気持ちをさらけだすことで自分のあるべき姿がみえてくる。
創磨はあたしを笑顔にさせてくれた。
それなのに、あたしがそんな創磨を助けないでどうする。
「創磨をはなせぇええええええええええええ」
心が、体が動く。あたしだってやれる。
今は行動しろ。自分を信じて、そうしなきゃだめだ!
心が動いた時、手には創造の輝きでつくりだした刀が生み出されていた。
不思議なことが起こった、それを理解しつつもその刀で魔王ディアボロスへと斬りかかる。自分が描いた剣士のように誰かを助けるために。
「何!」
刀を創りだすなんて思っていなかったのか、魔王ディアボロスは慌てて創磨から手をはなしあたしの攻撃へ対処をした。
赤い煙がでた魔王ディアボロスの腕とあたしが生みだした刀はぶつかりあうものの、力の差は歴然。簡単に刀ごとはじけとばされてしまった。
「どうやら先に死にたいようだな。覚悟しろ」
魔王ディアボロスが殺気をむけてきたが死の恐怖を不思議と感じない。今のあたしならなんだってできそうなきがする。
そう思えた時、あたしの目の前に不思議は光が輝く。
それは逢夢の変身した姿、クリエイトが出していた光と似ていた。
――マスター、わたしゃを呼んで
そして声が頭の中に響く。あたしがいらないと言ってしまった、あたしが描くのをやめてしまった蒼い剣士の声が。
名前はすでに決めてある。それを叫べばいいだけ。
「あたしは死なない、あたしは生きて創造するの! 来て、ブレイド!」
輝きは人の形、蒼い狼のような少女へと姿を変えていく。
俊敏に動けそうな細身な体、あたし好みな線を引けそうだ。
ウルフカットの蒼色の髪は狼の毛並みのように触り心地が良さそうな美しさがある。やからかい部分と硬い部分があるように見え、描いた線の強弱を再現してくれている。
眠ぼけたような顔立ちからは想像できない、狼のようにするどい蒼い眼をしている。ハイライトの入れ方、目の大きさも理想的。きつい印象を与えないのを意識した。
ゆったりとした紺色のボアコートを羽織り、その下にはふわふわとした黄色のセーター、蒼色スリットスカートを着ている。ゆるふわ感と蒼のクールなイメージ、かっこかわいいを目指した服であり、想定通りの効果を発揮してくれている。
「マスター、会えて嬉しいよ~」
「わたしも! うぉおおおお、本当にあたしが創ったブレイドなんだ!」
感激のあまり両手をぎゅと握って目を輝かせる。いい、すごくいい!
ぼやけたように聞こえる緩い声も、かっこかわいいその姿も。
そっかこれがあたしが大切にしたい創造、ブレイドなんだ。
「まずはあいつをなんとかしちゃってよ」
「マスターのためなら、がんばちゃうよ~」
感激モードは終わり、まずは敵を片付けるのが先。
ブレイドは鞘から剣を抜いた――その次の瞬間には目にも止まらぬ速さで魔王ディアボロスを退かせる一撃を叩き込んでいた。
「こいつ」
斬りさかれ後ずさりするディアボロス。こんな不思議なことが起こってるのに、まるでこうなることが運命で決まっているかのように感じた。
「少し浅い? いや、そっちの身体が普通じゃないみたいだね」
斬りつけられたというのにディアボロスは出血すらしていない。どうやら根本的に肉体の構造が違うってことみたいね。
「助かった絵麻、ブレイド」
ブレイドが誕生した機会を逃すことなく、創磨とクリエイトは態勢を立て直している。これならいけそうじゃん。
「あたしも助けられたからおあいこだって。これからどうすればいい」
ここからはなんかイメージができない。もっとなにかできそうなのに、創造がここで止まっている。だから信じられる創磨を頼った。
「絵麻、ブレイドはもっと輝けるはずだ、逢夢みたいに」
逢夢のようにブレイドもなれる。
そう信じた時に剣の紋章が描かれた小さな本、クリエイトブックがあたしの手に生まれた。
「ブレイドこれを!」
クリエイトブックをブレイドに渡す。
「ブレイド、あたし達も輝こう!」
「もちろんだよ、マスター」
創磨の作品をみてからずっと妄想はしてきた。自分が創ったキャラが創造の輝きで強くなる、その姿を。イメージはできている。後はブレイドと意識を同調させるだけ。
「創造の輝きよ、すべてを斬り裂く力となれ」
あたしの呼びかけの後、
「レイター・ブリリアントチェンジ」
ブレイドはクリエイトブックの剣の紋章をタッチ、ブレイドの衣装が蒼いシャツに変化し、創造の輝きを身にまとう変身を始めていく。
クリエイトブックを開くと蒼く輝くページから刀の柄が顔をだし、柄を持って創造の力を宿す蒼輝刀剣を引き抜いた。
蒼輝刀剣を鞘から抜刀、鞘から引き抜かれた蒼輝刀剣から五体の蒼い狼が出現。霊体のようにブレイドの中心をくるくると飛び回った後、蒼い狼はブレイドを狙い飛びかかってきた。
ブレイドは迫ってくる蒼い狼を一匹一匹斬っていく。
斬る度に蒼い狼は蒼い輝く灰となってブレイドに蒼い輝きが降り積もっていく。すべての蒼い狼を斬ると、蒼い輝く灰が蒼い剣士服を創り出していく。
フィッシュテールドレスのような蒼い剣士服はスカート部分が蒼色、正面と背面で長さが違っている。正面は膝と同じくらいの長さ、背面は膝下まで伸びている。
上半身はブルーグレイ色、蒼炎が燃えた後に残る灰をイメージした。肘と手首の間、前腕には着物のように長い蒼い振り袖がついていて、手の動きに合わせ大きく揺れ動きそうだ。
蒼い剣士服が創られると、鞘に一度刀を納めてから抜刀。回転斬りを放ち、切っ先から創り出された蒼炎で円を描いた。
「すべてを切り裂く創造の輝き、レイ・ブレイド」
蒼炎が燃え上がる中ブレイドは名乗りをあげ、創造の輝きをまといし蒼き剣士レイ・ブレイドへと変身を遂げた。




