1話 誕生、レイ・クリエイト ②
いつ眠りに落ちたのか覚えていない、気がつくと不思議な夢をみていた。
目の前には色とりどりの花が地平線の先まで咲き広がっている。それぞれ花の形や色もまったく違って統一感はなく、よく見ると咲いている花ばかりではなく蕾のままの花も多かった。
空からは花びらが何枚か降りてきている。空の先を肉眼でみることはできないが青色ではなく、まるで花でも咲いているかのように鮮やかな桜色に染まっていた。
(あの桜の木、ありえないほど大きいな)
花畑の中に見たこともないくらい大きな桜の木が植えられていた。あんな大きな桜の木を見たのは生まれてはじめてだ。物語では世界樹というものが存在している、たぶん張り合うことができるのはそれくらいなのかもしれない。
(夢なんだろうけど……それににしてはちょいリアルすぎやしないか)
降ってきた桜の花びらを触りながら、この現実離れした空間をどう捉えていいのか解らない。
「あの大きな桜の木でも目指してみるか」
漠然と立っていてもなにかが解るわけでもない、あの大きな桜の木の下まで歩いてみるこにした。
花畑の中には舗装された道のように草原が伸びていて、大きなな桜の木の下までまっすぐつながっているその道を歩いた。
そびえ立つ桜の木を見上げると、溢ればかりの桜の花が咲き乱れていた。花びらの散る姿すらも美しく感じ、見ているだけで心を奪われてしまいそうになる。それゆえにまだありきたりなものしか芽吹いてない俺にとってその花達が羨ましくもあった。
「創造主様、お逢いできて嬉しいです」
花の美しさに見惚れていると、背後から花のように柔らかな少女の声が突然聞こえ振り返る。
少女が身につけている白色のワンピースは、まだ何者にも汚されていない清廉な印象を与えてくれている。背丈はほぼ俺と変わらない。まだあどけなさが抜けてない顔立ちで高校生くらいにみえるが、胸周りも読者の心をつかんでしまえるくらいには柔らかそうに膨らんでいた。
美しい桜色のツーサイドアップは肩より少し伸びたくらいの長さがあり、風が吹くと色気を感じる揺れ方をしている。
まだ年端もいかぬ少女だと思えるのに、あでやかな桜のように美しい。髪からは花のように優しい匂いがした。
(この姿、俺がこれから創ろうとしているヒロインと同じじゃないか!)
桜の木のように美しい姿をしたツーサイドアップの女の娘、そんなヒロインにしたいと考えていたのだが、そのこだわりを的確に再現してくれている。
うさみみのように調和のとれた美しい桜色のツーサイドアップ、うさぎやペンギンみたいにもふもふとした胸周りとふともも、おだやかな春を感じさせるやさしい目、そのどれもが魅力的でずっと見ていたくなる。
(やばい、まじでうさみみみたいな髪、うさぎやペンギンみたいにもふもふした体つきをしている。いや~こだわり抜いたかいがあった。完璧じゃないか!)
その衝撃の余波はおさまることを知らない。、眼の前にいる少女をくまなくみて、その美しい姿に惚れ惚れしていた。
眼の前にいる彼女のことをずっとみていたら
「///////////////////」
頬を赤く染めて恥ずかしそうにしていた。
(あ~照れてる顔もめちゃくちゃかわいいな)
あまりのかわいさに声が漏れ出てしまいそうになる。くそ、恥じらう姿まで理想的じゃないか。
(待て、さすがに初対面でじろじろみるのはやばい奴すぎやしないか。そもそも俺が創り出したキャラクターだとは確定はしていないのに)
あまりにも自分で創り出したキャラクターに似ているため、理性が完全に吹き飛んでいたと自覚する。
なにか取り繕う言葉を言わなければ。そうしてでてきたのが……
「君が可愛すぎるだけだから」
やばいやつだと思われてもしょうがない、初対面の相手が困惑するような発言だった。
(なんでさらに恥ずかしくなるようなこと言い出してんだ、俺!)
なんのフォローにはなっていない、絶対変なやつだと思われてる……そう思っていたのだが、
「かわいい、それは創造主様に創っていただけたからです」
眼の前にいる少女は、顔をさらに赤らめながら嬉しそうに目を輝かせていた。
そういえば出逢った最初の第一声も創造主様という言葉だった。その言葉とこの見た目、まずは本当かどうか確かめておく必要があるか。
「俺のことを創造主だと思ってくれてるってことは、君は本当に俺が創り出したキャラクターなのだろうか?」
「ええ、わたしはあなたに創造されたキャラクターです」
眼の前にいる少女の言葉は現実離れした言葉ではあったが、そんな馬鹿な……みたいな風にはならなかった。
「こうやって間近で見られることができて嬉しいよ」
「わたしも、あなたに見ていただけることが嬉しいです。わたし見られたがりなので、もっと見てくださいね」
見られたい、そう眼の前の彼女は思っていながら。
「///////////////////」
もじもじと手を動かしながら顔を赤らめ、嬉しそうに照れていた。
これが可愛いの四重奏、可愛いを奏でれば奏でるほどより可愛さが心に響いていく。
(これを俺が創造したのか)
く、なんていう破壊力、可愛いの暴力で悶えてしまいそうだ。
(見られたがりなのに恥ずかしがるの新鮮だな。あれ? でもこんな設定まで考えいないような……)
ふとした疑問、そのことについて尋ねてみる。
「見られたがりなのって、君自身が決めたことだろうか」
「いえ……それは、わたしが物語のキャラクターだからです。多くの人々に見てもらい楽しんで欲しい、創造主様の想いがわたしに反映されたのだと思います」
眼の前にいる少女は、両手を胸のあたりに重ね合わせ、ありのままの気持ちを伝えてくれた。
物語のキャラクターだから、作者の想いを汲み取ってくれているのか。確かにと言わせるだけの説得力がある。
「見られたがりだなんて、お嫌でしょうか?」
首をふり、その言葉を否定する。
「そんなことないよ。物語のキャラクターだから、そう言えるだなんて本当に物語のキャラクターじゃなきゃ言えない。君自身が物語のキャラクターだと自覚している、この設定は絶対に作品の中にあったほうがいいと思ったくらいだ」
自分自身が物語のキャラクターだと自覚しているキャラクターは多くなく、他のキャラクターとうまく差別化もできる。もっとこの設定を掘り下げたら面白いかもしれないな。
「俺のことを創造主様だというのは、俺に創られたからだろうか」
「創造主様がいなければわたしは創られることはなかった、創造主様はわたしにとって神様みたいな存在なんです」
尊敬の眼差しを向けてくれるのは悪い気はしないけど、あまりにも度がすぎている。
「神様みたいに思わなくていいよ。俺はそんな大層なものじゃない。そうだな~まずは呼び方を変えよう。俺は遠坂創磨、創磨って呼んでくれていいから」
嬉しそうに眼の前の少女は口もとを緩めると、
「創磨……創磨ですね! あなたの名前を呼べてとても嬉しいです」
俺の名前を呼んでくれた。
嬉しい、創造したキャラクターに名前を読んでもらえるのが、こんなにも嬉しいことだとは思ってもみなかった。
この嬉しさを感じてもらいたい。そう思い俺も名前を呼ぼうとしたが
「え~と……」
まだ自分が創ったキャラクターの名前を決めていないことにきがついた。
「名前、まだ考えておられないのですよね。焦らなくても大丈夫ですよ、創磨が決めたい時に決めてください」
「今決める。せっかく出逢えたのに名無しのままにはしておきたくない」
桜の花びらが降る中で俺が創りだした少女が立っている。現実では起こりえないような、すべてが夢のような光景。この出逢いをそのまま形にしてあげたい。
「桜木逢夢、桜の木の下で夢のような出逢いができた、この瞬間を大切にしたいから」
ちょっと単純すぎるか……でも、この感じは悪くない。はじめて本のページをめくったときのように、心が高揚するこの感じは。
「桜木逢夢……嬉しい、嬉しいです! 名付けてくださりありがとうございます」
桜の花びらが舞う中で笑顔を輝かせる逢夢は、名前通りの美しさ。
その光景は、この出逢いは、幾千の時を超えても忘れることはないだろう。