2話 あらたなる輝き、レイ・ブレイド ⑩
あたしが絵を描きはじめたのは、憧れている姿になってみたいという願いがきっかけだ。
パパとママの娘として生まれたあたしがはじめて憧れたのは、自分がデザインした服を着るママの姿だった。きれいでかわいいママの服を着たい、モデルとして活躍するママ衣装を何度か着ようとしてみるもサイズが合わなくて無理だった。
そんな時に出逢ったのがコスプレだった。コスプレ好きなパパとママと一緒にコスプレするのはめちゃ楽しい。大好きな変身ヒロインを筆頭にたくさんのコスプレをすることで一定の満足感は得られた。
それでもママみたいになるという願いは叶えることできない。圧倒的に成長が遅すぎる。コスプレにしたって子供のあたしと大人のママじゃ全然違うものになる。そこがあたし的には不満だった。
転機が訪れたのは小学校二年生。SNSのアカウントを作成し、可愛い服を着ている女の娘達のイラストと出逢ってからだ。
絵の中でならたくさんの可愛いあたしを描くことができるかも。
パパの部屋にたくさん置いてあったスケッチブックと鉛筆を手に、パパがデザインした服を着た大人に成長させたあたし自身を描いてみた。
大人かわいいくてあたし自身じゃないみたい。幼い娘が描いた絵、他人からみればそんな程度のものだったかもしれないけど、あたしにとってそれは夢のような絵だった。
他のことは飽き性のあたしだったけど、絵を描くことに飽きるようなことはなかった。
小学校三年生、同じクラスに絵描きの友達ができた。その友達からお絵描きソフトを使った描き方を教えてもらうと、絵を描くのが格段に上手くなった。
その時ちょうどはまったのがナイツ・オブ・リバイブだった。
元々パパとママが好きだったんだけど、見たのが幼さすぎてそのすごさっていうのを理解していなかったんだよね。改めて見直した時は、圧倒的な迫力にすごいと叫び、読む度に頭に電流が走った。生命をはって誰かを守ろうとする主人公の剣士をめちゃくちゃかっこいいと思った。
こんなものも描いてみたい。それがあたしにとっての第2の憧れだった。それからはたくさんの剣士もスケッチブックに描くようなった。
小学校の高学年になると流行りにも敏感になり、他の友達が遊んでいる間もたくさんの絵を描き続けていた。。そのかいあって上手いとみんなに言ってもらえる絵が描けるようなり、中学生になる頃にはフォロワーも増えてたくさんの人にイラストをみてもらえるようになった。
たぶんその頃は自信があったんだろう。あたしの描いたものならなんでも受け入れてくれる、そんな自信が。
あたしはスケッチブックの中で描いた剣士を主人公にした漫画を描いていた。
はじめてのことで苦労はたくさんあったけど、漫画を書いている時は楽しくしてしかたがなかった。あたしが描いた剣士が動いている、それだけですごいものだと感じた。
書き終えた漫画を出版社に持ち込んだ。
絵がうまいあたしが、すごい漫画を書いた。絶対に受け入れてもらえる、あたしはその時まではそう思っていた。
「絵は上手いですけど、漫画は面白くないですね」
はっきりと覚えていない、そんなありふれた言葉を言われたんだと思う。
そしていかにあたしの漫画が駄目だという指摘がされ続ける。話が駄目、構図が駄目、コマの使い方が雑、読者のことを考えていない。
書いた漫画を自分で読んだ時、ようやくあたしはそれが面白くないことにきがついた。
一度駄目で終わるようなことはなかった。
何回も描きなおして、何回か挑戦してみたけど、改善される点はあったが、受け入れてもらえることはなかった。
そうしてあたしは漫画なんて描けないこと、物語なんて書けないこと、あたし自身が創りだしたものなんてみれるようなものじゃないんだって自覚した。
高校一年生になってしばらくすると仕事の依頼がきた。
先方の意向をうかがいながら絵を描くのは初めてで苦労したけれど、要望に応えられたことがあたしにとって良い経験となった。
あたしの絵柄が好みだって思ってくれていること、看板娘の絵咲ちゃんのことを可愛いって言ってもらえることも嬉しかった。
イラストレーターとして仕事をもらえるようになり、これ以上のことを求めずともよくなった。憧れだとか、夢だとか、そんなものは置き去りできてしまえば迷うことはない。
「それなのに、なんでまだこんなに苦しくなるんだろ」
漫画を描くなってからも、自分が描いた漫画のことをきにかける日々は続いていた。
自分が好きなことで、諦めるなんて経験をしたことはなかった。それがこんなにも苦しいことだなんて思ってもいなかった。
もう無理だ、そう思っているのにしょうこりこもく自分が描いた漫画のキャラクターを見返してしまう。たくさん妄想をして、どんな展開にするかも考えた。
でもそれが見ている人に響かないものならば、描く意味なんてない。
利口になりさえすればいい、つまらない憧れなんて捨てさえすれば……
「いらない、憧れなんていらない。あたしは前へ進まないと」
立ち止まっている時間なんてない。イラストレーターとして活躍していくためにはもっと他の人にニーズにこたえて、たくさんの人に見てもらわないといけない。
自分が憧れていた好きなものなんて捨てしまえばいい。
そうしたほうがきっといいんだ……
その日からあたしは憧れを捨てることに決めた。
そうして生きていくことが最善だと信じて。
* * *
「これがあたしの描いたありふれた物語。ごめんね、こんなこと話されても困るよね。今更どうすることもできないのにさ」
無理やり笑顔をつくろうと絵麻はしてるけれど、笑顔がいつもよりぎこちなさすぎて頬がつりあがってしまっている。自分が辛い時ですら、相手のことを考えようとしている。それは絵麻の強さでもあるが、こんな時くらいは誰かに頼っていいはずだ。
「そんなことない。絵麻はずっと自分で創造したキャラクターのことを大切に想い続けている、悩めているのがその証拠だ。捨てちゃいない、絵麻はまだなにも捨ててなんていない」
スケッチブックを手渡し、その絵を絵麻に見せていく。
「このまま自分をだまし、大切にしたいという気持ちをごまかして過ごすことはできる。やらなきゃいけないことだって絵麻にはたくさんあるからな。それでも……」
自信なんてたぶんすぐにはつかないと思う。実力が飛躍的に向上するようなことはない。それでもこの想いは届くはず。
「自分自身が大切にしている創造を捨てる必要なんてない。俺は絵麻自身が創りたいと思った創造をもっと楽しみたいんだ」
才能もない俺ですら大切にできてるんだ。
才能もあって、努力も続けてきた絵麻だからこそ大切にして欲しい。後悔はして欲しくない。
そう思っていた時……
「やめてほしいね~せっかく濁っていた心のもやもやを消さないでくれよ」
突如、変わろうとしている絵麻の真上に破壊王ベインが現れた。
いたずら好きな子供の笑顔、今度はどうやって悪事を働こうか、そんなことを考えいそうなだった。
「なに、あんた!?」
「俺は破壊王ベイン、これからはじまる闘いの支援者さ。お前もこの闘いの場に招待してやるよ、その方がきっと楽しくなる」
「待て、この娘は関係ないだろ」
「つながりもった、それだけでただのモブじゃないのさ。さぁ、いこう闘いの場へ」
ベインは指をならした瞬間、空間がなじれ異空間へと飛ばされた。




