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2話 あらたなる輝き、レイ・ブレイド ⑨

 絵麻を楽しませる創造について考えはじめてから数日が経過。

 絵麻と別れてから一週間後の土曜日となり、再び絵麻の家に訪れていた。

「チョコ手作りしてみました。お口にあえば良いのですが」

 今日は2月14日。バレンタインチョコを渡すという名目での訪問。リビングにて逢夢がラッピングされたチョコを絵麻に手渡した。

 

「ありがとう。もしかして本命かな~」

「義理です」

「そこはドキドキさせてよ!」

 絵麻はあの時のことがなかったかのように嬉しそうに笑っている。少し時間をおいたのは正解だったな。

 

「あたしもチョコあげるね。後、服も用意しといたから」

「ありがとうございます」

 俺と逢夢は絵麻にお礼を言いつつ、チョコと服が入った紙袋を受け取った。


 さてここまでは社交辞令。ここからだな。

「俺達からも渡したいものがある」

「ホワイトデーにはまだ早いと思うけど」

「スケッチブックを借りたお礼、俺と逢夢で一緒に考えたものを見てもらいたい。撮影部屋を使わせてもらってもいいだろうか」

「いいよ、好きに使ってくれて構わないから」

 スケッチブックについて触れはしたが、逢夢は俺達の申し出を煙たがるようなことはしなかった。

 

 逢夢の着替えが終わるまで、撮影部屋で待っていると

「お待たせしました」

 逢夢の雰囲気はがらりと変化、逢夢がスケッチブックの中に描いて女剣士と同じ剣士服を着ていた。

 

「え! それって逢夢が?」

「これは……演じてる経験を活かして頑張って創ってみました」

 創造力を使って創ったものであるが、創造力のことについて説明はできない。1からコスプレ衣装を作ったと解釈してもらうしかない。

 

「これから演じるのは絵麻のスケッチブックを元に創った、イラストレーターと女剣士の物語」

「ぜひ、楽しんでくださいね」

 舞台が始まる前かのような落ち着いた声をきっかけに、絵麻のスケッチブックから創り出した物語を開演させた。

 

「この物語の主人公、それはイラストレーターを夢見る絵描きの少女。どんなことでもそつなくこなす優等生だったが、何事も一番手になれないことをコンプレックスに感じていました」

 

 ここで用意しておいたノートを逢夢が手にとると、

「そんな彼女の元に降ってきたのはある不思議なノートでした」

 物語のように、頭上からノートを床に落とす。

 

「『奇跡のノート』、そう表紙に書かれたノートのページをめくると」

 俺は逢夢が落としたノートろ拾いページをめくり、

「「描け、己の描きたいものを」、そう書かれていました。それ以外のページは白紙が続きます」

 絵麻にも実際にその内容をみせていく。

 

「少女は空から降ってきたこのノートのことを不思議に思いながら、持ち前の好奇心でノートに描きたいものを描こうとしました。しかしそのノートに描くことができません」

 白紙のページの上にペンでなぞると、ノートを閉じて逢夢と語り手をかわる。


「ノートを拾ってから数日後、刀を腰に差した女剣士と出逢います」

 剣士の服を着た逢夢は俺に抱きつくと、

「マスター、マスターだよね~」

 マスターと呼びはじめた。

 逢夢はふわっとした声をだし、女剣士ぽいキャラづけをしてくれている。

 

「マスターと呼ぶ女剣士と絵描きの少女は初対面。だから……」

 その逢夢の姿に合わせて、俺も少女の気持ちになりきり、

「あんた、いったい誰なのよ!」

 ツンツン声で突っかかる。ちょい恥ずかしさはあるけれど、演じるっていう観点でみればこちらの方がいいはずだ。

 

「戸惑うばかりの絵描きの少女、それに対して女剣士はぐいぐいプライベートな空間にも入っていく。絵描きの少女は初めは煙たがってばかりいましたが、自分の絵を褒めてくれる女剣士に心を許していく……」

 ここで声を溜め、場面転換を予感させる。


「そんな時、奇跡ノートを狙う者、シルクハットの男が少女の前に現れます」

 ここで敵ぽいものと用意したのは、黒いシルクハットをかぶった棒人形。それをゆらゆらと揺らす。


「「無価値なあなたに、描きたいものを描けるわけがないのです」、敵はイラストレーター少女の心を痛めつけて奇跡のノートを奪おうとしてきてました」


 剣士服を着た逢夢が一歩前に踏み出し

「マスターの絵は無価値なんかじゃない。描きたいものを描くことだってできるよ」

 絵描きの少女の心を救う一言を言い放つ。

 

「少女の前に現れたのは、交流を続けていた女剣士。心を救う一言、それがきっかけで少女の心は奪われませんでした。敵はしびれをきらし怪物を召喚、力ずくで奇跡のノートを奪おうとします」


 逢夢は用意しておいた模擬刀をもち、

「マスターはわたしゃが守る」

 女剣士になりきって、敵とまるで戦っているかのように模擬刀を振るって、美しい殺陣をみせていく。

 

「いつもは眠たい目をした女剣士。しかしいざ闘いになると狼のよう鋭い斬撃をくりだし、敵を圧倒しました」

 語りをいれ、さらに物語を進めていく。


 剣を振るうのを止め、逢夢はこの場にいるもう一人の絵描きの少女である絵麻をみて、

「無価値でいらないものなんてない、大切なものを自分自身で決めていけばいい」

 俺達が創り出した物語の中で伝えたい想いを伝える。

 

「奇跡のノートと女剣士との出逢い、こうして絵描きの少女の物語は新しいページを描きはじめていくのです」

 逢夢が描いたスケッチブックから着想を得て創り出した物語、それをを演じきった。


 読者にみせられるほど練られたものではない。改善しなければいけない部分は山程ある。

 それでも心を揺さぶるような物語をできたことを確信する。


「創磨はいじわるだ。あたしの創ったキャラクターなんだよ、そんなの見たくなるに決まってる。捨てなきゃって思ってたのに、思わなきゃいけないのに……」

 晴れか雨かも解らない、にわか雨のような顔つきをしていたが、

 

「いらないだなんて思いたくない。あたしは見たい、この物語の続きを。楽しかった、ものすごく楽しかったよ」

 眼の前にいるスケッチブックを描いた少女は感極まって晴れやかな笑顔をみせていた。

 

 自分で創造したキャラクターのことが大好きで、大切で、なにものにも代え難いものだから、逢夢の心に響く物語となり楽しんでもらうことができた。


「絵麻が自分で創造したキャラクターをいらないって言った理由、それって自分が描いた漫画を出版社に見せたからだろうか?」

 今なら絵麻の心の中に踏み込むことができる。その扉を開けようとする。

 

「どうしてそれを」

 絵麻は驚くような声をあげるも、心の中に入られることを嫌がる様子はない。

 

「スケッチブックの絵が漫画ぽい動きのある絵で、そこから考えてみたんだ。どうしていらないなんて思ったのかを。俺もさ、何度も出版社に自分の作品を投稿してそれを受けいれてもらえなかった。嫌だよな、自分のせいで認められなかったって思うのは」

 俺は一度落選した時、世界のすべてを破壊してしまいたくなるほど自暴自棄になり、認められないのが嫌で嫌でしかたなくて自分自身を追い詰めた。

 

 今の絵麻はあの時の俺と同じ。創造したキャラクターのことを悪いだなんて思いたくない。自分が悪いと思えばそのキャラクターのことをそれ以上傷つけなくて済む。それが今の絵麻を作ってしまっている。

 自分自身を縛る鎖、それを断ち切るきっかけになって欲しい。ずっと縛られ続けていいわけがない。

 

「他人に話してみれば、気持ちが楽になることだってきっとある。話してみてくれないか、なにがあったのか。理解したいんだ、もっと絵麻のことを、絵麻が描いたキャラクターのことを」

 救いの手を差し伸べれるほど俺はできた人間じゃない。だからせめてでも同じ境遇、同じ立場の人間として絵麻の痛みをわかちあいたかった。

 

 絵麻はすーっと息を吸い込んで、胸いっぱいにかかえていたものを吐き出していく。

「聞いてくれる。どこにでもあるありふれた、あたしの描いた物語を」

 想いは絵麻の心の内側まで届き、ずっと開けられることのなかった記憶の扉が開き、絵麻はかつて描いた自分自身の物語を語ってくれた。

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