2話 あらたなる輝き、レイ・ブレイド ⑧
「どうしたもんかな~」
執筆している手を止めて、大きく背伸びしながら考えるのは絵麻のことだ。。
あれから3日、作品の改稿はそれなりにやれていたが、同時に考えていた絵麻のことをどうすべきか、答えをまだ得られていない状態だった。
“トントン”
「今、よろしいでしょうか」
「どうぞ」
ドアを開けて、逢夢を部屋の中に招き入れた。
「果物をお持ちしました」
「ありがとう」
うさぎの形に切られたうさぎを食べた。頭の疲れをほぐすほどよい甘い酸味。シャキシャキと音を鳴らしながらりんごを味わっていく。
「どうですか、小説の進捗は」
「そっちはぼちぼち。絵麻のことはまだ考えをまとめきれていないかな。逢夢のほうはどうだ」
「わたしも同じですね」
歯切れの悪い返答をお互いに返し、二人同時にため息をついた。
「お互いに考えたことを話してみよう。新しい考えが生まれるかもだし」
気を取り直し、これまで考えて来たことを伝えはじめる。
「絵麻がなぜいらないと思ったのか、それを考えるためにスケッチブックに描かれた絵を何回もみた。それできずいたことがある。それはこの絵が漫画ぽいということだ」
「創磨もやはりきずきましたか」
「なんどか見ていくうちにな。刀を振るうシーンだけではなく、なにげない会話しているシーンなんかも描かれている。いつも絵麻がSNSにあげているイラストとは違う雰囲気だった」
絵麻が普段から描いている可愛さ全振りの一枚絵とは違い、スケッチブックの絵はときおり冷たい表情をみせたりと普段見ることのない表情で描かれている。それに加えて刀を振るう姿は躍動感があり、白黒ながらも魅力的な絵だと思える内容だった。
「絵麻は漫画を描いていた経験がある、ということでしょうか」
「おそらくはな。そして、それが事実だとすれば、いらないと思った理由も検討がつけられる」
「教えてください、わたしにはそれが解らなくて」
絵麻から借りたスケッチブックの絵をみながら、語りはじめていく。
「漫画に挑戦したことがあるなら、出版社に見せたんだと思う。それで良い評価をもらうことができなかった。その時に描いたキャラクターが、このスケッチブックのキャラクターだった」
「評価されなかったからいらない、絵麻はそう思われたと」
「よほどのことがないと、自分が創り出したキャラクターをいらないだなんて思えない。だとすればその可能性が高いのかなって……」
評価されない、それは誰かに読まれるようなものではなかったという証明にもなってしまう。
誰もが見て楽しんでもらうために創ったものが、つまらないものだと思われる。
しかも自分のせいでだ。そうなったら、自分のことを責めるしかなくなる。
傷つけて、傷つけて、最終的に描かなくなる人だっているだろう。立ち上がれるのは一部の諦めない人間だけ。多くの人はそこで諦めてしまう。
絵麻は漫画については、そこで諦めてしまったのだろう。
漫画は絵だけではなく、話の内容や見せ方も求められる。それに特化した技術が必要で、それが諦める要因になった可能性はある。
「諦めてしまった、だからいらない……そう思うしかなかったんですね」
逢夢は絵麻に起こってしまったことを理解し、祈りを捧げるかのように手を組んだ。手が小刻みに震えている。絵麻のことを想い、逢夢も苦しんでいるのか。
「どうすれば、絵麻を励ますことができるのでしょうか。なにも思いつかない。いらないって思うくらい、彼女は苦しんでいるはずなのに」
「できることは少ないと思う。どこまで言っても創作のモチベーションは創り手しだいだ」
結局の所、誰かの創作に関与するだなんてことは難しい。それは俺が一番解っていた。
「モチベーションですか……創磨はどんな時、創作して良かったと思えましたか」
俺が創作している時のこと思い出しながら返答をしていく。
「物語を書きはじめた時、エモい台詞や展開を創造できた時、新しい考えがでてきた時、物語を書き終えた時、良かったって思える瞬間って楽しいと思えた時が多かったかな」
「……楽しいと思えるようにする、それが前向きになることにつながりませんか」
パンパンな頭をひねり出し、悩みながらも逢夢は次なる一手につなげてくれる。
楽しいと思えるようにする、それなら絵麻の性格ともあっていそうだ。
「それならいけるかも。絵麻に楽しいと思ってもらえるようなことしたい」
「このスケッチブックとも関連づけていきたいですね」
「絵麻の描いたキャラクターを使って楽しいことをする、みたいなイメージか」
「それです、そんな楽しさを絵麻にぶつけたいです」
逢夢のスケッチブック、そこに描かれた絵をみながらできることを考えていく。
点と点がつながっていく。俺達にしかできないこと、それをすればいい。、
「このスケッチブックを使って、なにか新しい創造をしてみるなんていうのはどうだろうか」
「とても良い案だと思います」
俺達が考え着いた答え、それはこのスケッチブックを使って新しい創造を考えるというものだった。
「後は具体的にどんなことをしていくかだな」
「色々できそうですよね」
「この絵から物語を創ったりとかなら、できそうだな」
「わたしはそうですね……ここにいるキャラクターを身近に感じられるようなことがしたいです」
「身近に感じられるようなこと、それなら……」
逢夢と共に絵麻に楽しいと思えてもらうをだしあっていく。悩みながらも進んでいく、それが俺達のやり方だ。




