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2話 あらたなる輝き、レイ・ブレイド ⑥

「きたよ~」

 逢夢達が戻りしばらくすると、頼んでおいたお寿司が到着した。

 マグロにイカにタコにいくら、見事な赤と白で彩られた新鮮なネタが並んでいた。海の幸特有の匂いとまではいかないものの、普段はなかなか食べることできな食事。味わって食べることにしよう。

「いただきます」

 お寿司の入った桶をテーブルに中央に置き、しゃりと共に新鮮なネタを味わっていく。

 

「創磨って二十代?」

「二五だな」

「やっぱそれくらいなんだ。あたしはいくつだと思う?」

「十七くらいじゃないかな」

「当たり。希望ヶ丘高校美術科の二年生、まだまだ現役女子高生だよ~」

 寿司を食べながら、お互いのことを話をしていく。仲良くなる段階をいくつか飛び越えている感じはするけれど、これが絵麻のコミュニケーションのとりかたなんだろうな。

 

「逢夢は二十歳くらい?」

 逢夢は俺の方をじっとみつめてから、

「はい、大当たりです」

 なにも俺が言わないことを察して逢夢は二十歳という年齢になった。

 この世界の逢夢は劇中の逢夢よりも大人ぽい。おそらくそれくらいだと思っていたのでこれでいいと思う。

 

「大学生なんだ」

「いや、大学生じゃないな。逢夢は高校卒業してすぐは家の用事で忙しかったんだ」

「そうなんです。事情は家族間のことなので話せませんが、ここに来るまでは家の手伝いをしていました」

「そうだったんだ」

 現実世界での逢夢の過去については俺が話を最初に創り、それに逢夢が合わせてもらう。物語を創る時のように連携は完璧だ。嘘を重ねるのは良い気持ちにはなれないが、ここまで言っておけば変にありもしない過去のことは詮索はしないだろう。


「逢夢がこっちに来たのは最近だよな」

「ええ、色々とご迷惑をおかけしているので恩返しを早くしたいですね。実は本屋さんで働こうかと考えていて」

「物語の中と同じなんだ」

 逢夢は本屋さんで働きたいと思ってくれていたのか。それは自由にさせてあげよう。この世界で働いている姿も早くみてみたいな。


「絵麻は着ておられない服を持っておられますか」

「持ってるけど……逢夢はそんなに服を持っていないとか」

「創磨に買ってもらっているのですが、それが負担になっていないか心配で……」

「着てない服ゆずるよ」

「さすがにそこまでしてもらうわけには」

「創磨、女の娘は可愛い姿をみてもらいたもんなのよ。それに着てもらえないよりも着てもらった方も服も喜ぶってママも言ってたし。遠慮しなくていいからね、用意しとくから」

「ありがとうございます」

 思わぬ方向に話が進んでしまったが、ここはありがたく厚意を受けとっておくことにしよう。

 

 とりとめのない会話が続き、良好な関係をきずけていると思う。

 フレンドリーすぎる所はあるけど絵麻がいいやつだって解るし、安心していろいろと話せる。信頼できる関係とまではまだいかないけど、絵麻にイラストを描いてもらえて良かったとは思えていた。

 

「絵麻はどんな作品が好きか知りたいです」

「俺も興味あるな」

「よくぞ聞いてくれました。あたしの好きな作品はこれだよ!」

 絵麻はスケート選手のようにくるっと一回転を決めてから、本棚にある刀を持った少年が描かれた漫画を手にとった。

 

 『ナイツ・オブ・リバイブ』

 霊と話すことできる高校生青井みゆきは、悪霊に変えられてしまった霊と両親を助けるために生命の半分をさしだして、倉の中に隠されていた剣フツノミタマに宿っていたタケミカヅチの力を解放した。フツノミタマには悪霊を精霊に変えることができる力があり、悪霊を精霊に変えた。

 フツノミタマに宿っていたタケミカヅチの存在、それが呼び水となりみゆきは悪神達との闘いに巻き込まれていくことになっていく。

 少年漫画らしい熱さ、魅力的なヒロイン、スケールの壮大さ、そして圧倒的な画力と台詞回し。天上先生に描けないからみる、それほどまでに強い創造の輝きを放っている漫画。

 15年間の連載を経て、三年前に完結はしているがその魅力は色褪せない。漫画誌に残る傑作である。

 

「笑えるやりとり、熱い友情、切ない思い、あふれる涙、その全部が好きなんだよね」

「わたしも読みました。アクションシーンがとにかくすごい」

「そこなんだよね、それにはあたしも圧倒されたよ」

「物語の内容も面白いよな。一方的な感情じゃない、微妙なニュアンスの出し方も上手くて」

「わかる~スサノオとクシナダの関係もめちゃ好き」

「お互いのことを解りあってるって感じしますもんね」

 歳が離れていても、ナイリバの面白さは共通認識。どの世代にも通じるのはすごいな。

 

「絵麻って剣士好きだったりするのか。バトルコスチュームも剣ぶらさげてたし」

「実はそうなんだよね。好きな作品すぎで、こう闘いたくなっちゃってさ」

 小学生が空気の刀をつくってごっこ遊びするみたいに、絵麻は手を振りあげる。妙に様になっている。たくさん妄想してそうだ。恥ずかしげもなくやれる所に好感がもてる。俺もいろいろ動きを考える時はやってみたりするしな。

 

「やっぱりそうなんですね。ならあれってもしかして……」

「逢夢どうしたの?」

「実は片付けした時にきになるのがあったんですよ」

 逢夢が持ってきたのはスケッチブック。そこには今まで見たことのない青い剣士がたくさん描かれていた。ページをめくっていくと剣士同士が一緒に闘っている姿も描かれている。

 おそらく絵麻が描いたものだろう。自分の好きなものは好きなだけ描いている。

 そのスケッチブックには絵麻の夢が詰まっているに見えた。

 


「これって絵麻が自分で創造して描いたものですよね。すごいです、0から自分でオリジナルのキャラクターを創ることができるだなんて」

「…………見ないで、見ないでいい。それはもういらないものだから」

 スケッチブックの内容をみてもらえて天狗のように鼻をのばすかと思っていたが、絵麻はきまずそうに目線をそらしている。なんでそんな反応を。いらないものだなんて言い方は普通じゃない。

 

「逢夢にもなにか事情があるのかもしれません。それでも自分で描かれたキャラクターなのに、いらないだなんて言い方はよくないと思います」

 逢夢は相手の同情を誘うような顔つきになり、物悲しさで心が一杯になっているように見えた。

 責めるような言い方をしすぎないが、伝えるべきことは伝える。俺も自分が描いたキャラクターのことをいらないだなんて思って欲しくはない。

 

「ごめん…………でも、あたしに大切にできない。する資格もない。だってそれはあたしのせいでいらないものになったの。だからいらなくていいの」

吐き捨てられた言葉に力はなく、絵麻は言葉は紡ぐだけでも辛そうにしていた。

古傷がえぐられ、心から血がにじみでてきている。おそらくこの心に残った古傷は、まだ治療すらされていないのか。


「なんで逢夢や創磨がそんなのに悲しそうな表情をしてるの?」

「嫌だからです。いらない、そんな風に思われるのは」

 逢夢はキャラクターだからというもあって、キャラクターのことを大切にしきれない絵麻を放っておきたくはないのだろう。

 絵麻だって辛そうな表情をしているのは同じ。別に本心でいらないなんて思っていないはずだ。

 それでも大切にできない事情が、俺達にはまだみせていない一面が彼女にはあった。

 さっきまであれほど仲良く話していたのが嘘みたいに部屋は静まりかえってしまった。


「いらないなら、このスケッチブックを借りてもいいか」

 このスケッチブックにあるものが、きっとヒントになる。

 どうするのが正しいのかなんて解らない。それでも行動するが最善だと信じ、逢夢にスケッチブックを借りてもいいか提案をしていた。


「いい、好きにしてくれていいから……」

 未練がましく揺れる瞳は絵麻の言葉が真意でないことを告げていた。このまま俺達がここにいてもきまずいだけだな。

「今日はもう帰らせてもらうよ。偶然とはいえ踏みこまれたくないことに踏みこんですまなかった」

「すみませんでした」

「創磨達が謝ることないよ。全部あたしのせいだから……」

 絵麻は俺達の方を向いて、自分自身を責め続けていた。

 

 絵麻は自分自身を呪い殺してもいいくらいには、自らのことを卑下しているようなきさえする。

 自分のせいだと解っていても、自分ではどうにもできない。それは心に巣食う魔物となり、いつまでも絵麻の心を蝕み続けているのか。

 できるならその苦しみを和らげたいと思うけれど、いまの自分にはどうすることもできない。生半可な言葉をかけても心に響くようなものにはならない、絵麻が心を開いてくれるようなことを考えることができなければ、この問題は解決しないんだよな。


「またな」

「うん、また」

 食べ終えて洗った容器をゴミ箱の中にいれさて食事の後片付け終え、絵麻の家を出た。

 

 暗がりの中に輝く街頭に照らされた道を歩く中で、逢夢は一言も話さない。星空をぼんやりと見上げて静かに後悔の念にかられていた。

「逢夢がしたことは悪いことではなかったし、絵麻も悪気があって言ったわけじゃない。どちらにも理由があって、どちらも引き下がることはできなかった。それだけのことさ」

「そう割り切ることは簡単にはできません。絵麻はとても苦しそうにしておられた。そうさせたのはわたしだということには変わりありませんから」

 逢夢は少し俺よりも前に歩きはじめ、表情を伺い知ることはできない。自分だけの責任だ、そう思い込もうとしているのかもしれない。

 

 逢夢に置いていかれないように歩むスピードを早めて、隣を歩くようにした。

「もしあそこで本心を話さずにいた方が良かった……そう逢夢は思えるか?」

「…………思えません。いらないだなんて言う言葉を放っておくことはできなかったと思います」

「俺もそうさ。逢夢があそこで言わなかったら、俺が代わりに言っていたと思う。偶然にしろ逢夢がきっかけを与えてくれたから、絵麻の悩みを知ることができた。大事なのはこれからだ」

 隣を歩いていた逢夢の表情から硬さが抜けた感じがする。同じ想いでいてくれることに対する安心感、それを逢夢も感じてくれているといいな。


「とりあえず今できることは落ち着くために時間をおくことかな。今は色々なことありすぎて感情が整理できず、客観的な視点になれていない。落ち着いてくれば、また新しい考えが思いつきやすくなる。焦らずいこう。いつか良い案っていうのはでてくるもんさ」

 今は落ち着いて考えることが一番大切なのだと思い込むくらいがちょうどいいはず。

 月明かりのないこの夜道のように明るく照らされた道ではないけれど、歩むことを俺達は決意した。

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