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11話 託されし使命 ⑥

 ペンギンを撮影してから次なる場所へ。

 アザラシ、キリン、コアラ等のたくさんの動物達との出逢いは続き、来た道を少し戻って連絡通路を目指す。

 ラーテル、ユキヒョウ、カバなどの動物達をみて、次のエリアにつながるエスカレーターに乗った。

 エレベーターの先に見えてきたのは自然動物館だ。館外で飼われている人が乗れるくらい大きなアルダブラゾウガメをみつつ、自然動物館の中に入る。

 自然動物館は夜行性の動物とたくさんの爬虫類をみられる場所。まずはたくさんの爬虫類から観ていくことに。

 

 まずはじめてにみたのはワニだ。縦長の大きな口と目力だけで相手を威嚇するその面構えは、ワイルドな魅力を感じる。

「ワニかっこいいよなぁ」

「う~ん、恐い系なきもするけど」

「動物で恐いものだと大抵かっこいいと思うんだが」

「肉食系がだいたいそんな感じって意味かな」

「そうそう」

「まだまだ創磨も少年だねぇ~|

「せっかく直接みられる場所なんだ。童心にかえりたくもなるよ」

 大人になってから見るワニは印象こそ変わったきがするが、迫力のある顔は今でも変わらずかっこよく感じてしまう。これが童心というやつか。

「ワニにガブガブされたら痛そうだよねぇ」

「痛そうじゃすまないと思うぞ」

「ガブガブ」

 絵麻が手をワニのような形にして、腕に噛みついてきた。

 

「ずいぶん可愛いワニだなぁ」

「創磨もやってみなよ」

「いいよ、俺は」

 さすがにガブガブしあうのはバカップルぽいのでやめておくことにしようと思ったのだが

「そんな恥ずかしがらなくていいじゃん」

 絵麻的にはやって欲しそうにしていた。

 

「ガブリ」

 手で絵麻の腕にがぶり、観念してやってあげることにする。


(うぅううう、なんだこのノリ。絵麻だな~)

 周りの人もこれはさすがにみるよな、恥ずかしくなってきた。

「へ~そんな照れるんだ。心をガブガブできたみたいだね」

 俺が照れてる姿をみて、絵麻はからかってくる。これじゃあ本当にただのバカップルみたいだ。そんなんじゃないのにな。

 、

 ワニをみながらバカップルぽいやりとりをしつつワニも撮影、二階へ行くとここからさらに多くの爬虫類と出会うことができる。

「トカゲかけぇよなぁ」

 展示室の中で枝の上にコガネオオトカゲが寝そべっている。ペンギンも素晴らしいが、トカゲも素晴らしい。なんたってドラゴンみたいな姿をしている動物だ。かっこいいのは当たり前、今にでも火を吐いてしまうかもしれない。。

 

「かっこいいよか、不気味ってイメージな方が強いけど」

「不気味っていうのは早計じゃないのか。みてくれよこの真面目そうな顔。動物界のいぶし銀とはまさにこのこと」

「いぶし銀……」

「見た目の華やかさはないが実力や魅力がある者という意味、つまり動物界の影の実力者ってことだ」

 トカゲの魅力を表現したのだが、絵麻は首をかしげている。


「……まぁ、そういうことにしとく。どのあたりがかっこいいの?」

「ドラゴン」

「うん、解るよ。神話にでてくるかっこいい幻獣だよね」

「ということは?」

「ドラゴンみたいなトカゲもかっこいい……ってこと?」

「解ってるじゃないか」

 これで絵麻にもきずいてもらえだろう、現存している動物の中でオンリーワンといえるであろう輝き、トカゲ=ドラゴンという公式にな。

「それ、めちゃ子供ぽい理屈だから!」

 しかしその反動で子供ぽいものだと思われてしまった。

「いいだろ別に」

「そんなにトカゲのこと推してたの」

「うさぎやペンギンと同じくらいには」

「それはすごい推し方だね。そっかそんなにトカゲのこと好きだったんだ。こことは別の場所に世界一大きなトカゲもいるらしいね。コモドオオトカゲだっけ」

「そうなんだよ。いるんだよ、世界一大きなトカゲが。いや~それも楽しみなんだよ」

 なんとこの動物園には世界一大きなトカゲもいる。最近来たらしく、それを見るのも実はものすごく楽しみにしていた。

「そんな待ちきれない顔しちゃってさ~」

 子どもオオトカゲトカゲのことを楽しみにしていたら、やたらと絵麻が俺のことを見てクスクスと笑っている。

「なんだか嬉しそうだな」

「子供ぽい創磨をたくさんみられてるからねぇ」

「そんな子供ぽくないだろ」

「よしよし~次いきましょうね」

 なんか子供扱いされるのは、納得いかない。

「なんかティアの気持ちが解ってきがする」

「もしかしてソウマもツンツンしてくれるってこと!」

「しないから」

 ツンツンした対応をしたら、よだれを垂らして喜びそうだったのでやめておく。いつもこんな視点で絵麻のことをみてたのか。これはうざいかもしれないな。

 

「あのお兄ちゃん達すごくラブラブだね」

「ほんとうだね~」

 通りすがりの親子連れを筆頭に俺達に注目が集まっているようなきがする。かわかっこいいコガネオオトカゲですら俺達のことをみていた。

 それがなんだか気恥ずかしくて、お互いに顔を見合わ顔を赤くする。うわ~恥ずいなこれは。

「先いこうか」

「そうだね」

 平静を装いながらも、やたらとドキドキしてしまった。トカゲに夢中で周りにどうみられているとか考えていなかった。みている人達からしたらカップルなのかもしれないが、俺達はそういった関係ではない。誤解されないようにしないとな。


「このトカゲもこのトカゲもいいなぁ」

「ドラゴンだもんねぇ」

 ラブラブ見えない程度には落ち着いたものの、この場所には多くの種類のトカゲがいる。好きなものは好き、そんなには落ち着いてみることはできなかった。

 トカゲをはじめ、ヘビ、カエル、サンショウウオなんかの爬虫類と、夜行性の動物をみて館外へと出た。

 自然動物館を出て道なりへと進み、屋外に展示された動物を再び見ていくことになる。


「ライカちゃんきたぁ!」

 枝につかまっているハクトウワシを絵麻はカメラ越しにみている。

 ワシは鳥の中では目つきが鋭く、かっこいい系の鳥である。好みな鳥ランキングでいくと上位には間違いなくいた。

 

「いいよ、ライカちゃんいいよ」

 俺がトカゲをみている時みたいに、少し声のテンションがあがっているようなきがする。

 絵麻にとってはワシは推しアイドルみたいな感じということか。


「名前も知ってるか」

「もうだいぶ見てきたからね。顔みただけで、これこの子だみたいなの解るんだよね」

「そこまで解るもんなんだ」

「ちょい目元が違っててて、ちょい細めなんだよね。後は他の子よりも警戒心も強いほうかな。サービス旺盛って感じではないけど、ワイルドな感じがまたいいんだよ」

 動物園に来ても名前で判断するっていうことはしたことはないが、絵麻はかなり通っているのかそれをしているようだった。


「どれくらいここには来てるんだ」

「小さい時から含めるとだいぶ来てる感じ。それこそ数十回は。、動物描く時の参考に最初は来てたりしてたけど、見ているうちに愛着わいて名前を覚えるようになったんだ」

「名前で呼べるっていうの、少し羨ましく感じるよ。それだけちゃんと見てあげてるってことだろ」

「そうなるのかな、うん、たぶんそうだと思う。見てくれるだけでもここで生きている意味はあると思うけどね」

 人にみられるために動物園の動物達をいる。だからこそ生きている意味を感じていたい。それは創造の中で描かれるキャラクターと似ているようにも思えた。


「狼か」

「うん」

 ワシの後に出逢ったのは灰色のシンリンオオカミだ。展示室内をぐるぐると走りまわり、ワンちゃんみたいだね~って声がちらほらと聞こえてくる。

 絵麻は狼をじっとみつめたまま、力強く手を握りしめていた。


「あたしオオカミのことも好きなんだよね。鳥の好きとはまた違うんだけどね」

 オオカミをみながら、絵麻は思い出を語ってくれる。

「はじめてオオカミと出逢ったのはこの動物園だった。小さいころだったかさ、まだまだオオカミのこと恐いと思ってたんだ。絵本の中のオオカミさんをみてたから」

 小さいころの絵麻の姿を想像し、ここで同じように立っている姿を創造する。

 怯える絵麻、それとオオカミ。オオカミは絵本の中では悪役にされていることが多い。恐い人には近づいてはだめだよ、そんな影響をあったのかもしれない。

 

「オオカミはそんなあたしを見て、近づいてきたの。このまま食べられちゃうかもと思ったけど全然違ってた。ワンちゃんみたいに座って、耳をぴくぴくしただけ。ずっとみてても襲うなんてことせずに尻尾をふりながら歩いてたんだよね」

 子供の頃の絵麻は絵本の中のオオカミさんしか知らなかったけど、動物園のオオカミはまったく違うと驚いたんだろうな。

 

「だんだんと見ていくうちにさ、鋭い瞳で可愛らしく動くの可愛いって思ったんだよね。子供なりのギャップってやつを感じとったんだと思う。ツンツンしてるようにみえて、実は全然そうじゃない。楽しそうにじゃれあうオオカミ達もいて、それがすごく興味を引いた」

 絵麻の感性っていうのはその頃からきずきあげてきたものだったのか。オオカミがまさかその手助けになっているとは思わなかったけどな。

 

「あたしさ「オオカミさ~ん!」って呼んでみたんだよね。そしたら「アオーン」ってオオカミさんが遠吠えをあげたんだよね。なんだか心が通じ合ったみたいでさ、それがすごく嬉しかった」

 絵麻が呼びかけ、オオカミが遠吠えをする光景は目を閉じればすぐに創造できた。

 可愛らしい子供とオオカミが通じ合った物語、なんとも微笑ましいな。

 

「ブレイドのかっこいい姿も、おちゃめな所、真面目な所も、ギャップがある所も、子供のころにみてたオオカミの影響だった。そのオオカミはもうこの世界にはいないのが残念。創磨とも見たかったな。創磨、そのオオカミの名前なんって名前だと思う?」

「ワンワンとかか?」

「それも可愛いけど、外れだね」

 絵麻は記憶の中にいるそのオオカミのことを思い出すかのように目をつむった後、目を明けた。


「そのこの名前は“アオ”っていう名前だったんだ」

 ブレイドが蒼い理由、オオカミぽい理由、それは子供の頃に出逢ったオオカミが影響をしていたのか。

 

「子供のように無邪気な姿をした創磨みてたら、そのこと思い出したんだよね。あたしの大切にしたい想いはここからはじまってたのかなって」

 オオカミとブレイドのことを話してくれた絵麻は今にでも泣き出しそうだった。

 悲しいから、もうこの世界にいないから、考えられる理由はたくさんあるけれど、傷跡はまだ癒えていない。ずっと残り続けていくのか。

「話してくれてありがとう」

「ううん、あたしが話したかっただけ。なんかスッキリしたよ」

「写真撮ろうか」

「うん」

 シンリンオオカミと共に俺達は写真を撮った。

「これも忘れられない思い出になるのかな」

「そうかもしれないな」

 たとえこのシンリンオオカミが寿命を迎えることになっても、この思い出は心の中に残り続ける。想いはずっと残り続ける、俺達が忘れないかぎりずっと。

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