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11話 託されし使命 ④

 創磨達が戻った後、ベットの上に寝そべり、ティアから受け取ったブレイドの最後を知ることができる記憶装置に触れた。

 ベインに膝蹴りをいれられて、意識が消えかけていた所を助けてもらったことは覚えている。

 その後のことは覚えておらず、それをみていく。

 

 ブレイドの別れの言葉、ブレイドの生き様、ブレイドの最後、ティアがみせてくれた映像によってすべてをみてしまった。

 

「ブレイド、なんで、なんで……」

 ブレイドはあたし達を守るために闘ってくれた。

 それがどれだけ尊いことなのかも理解はできる。

 けどあたしはブレイドに消えて欲しくなかった、消えて欲しくなかったんだ。

 

 ぽっかりと空いてしまった心の抜け穴は簡単には埋まらない。事実を受け止めようとしただけで大きな広がりをみせていく。

 身体を縮め丸くなり、涙に顔を濡らす。自分なんて消えてしまってもいい、自暴自棄になってしまいそうだ。

 

「創磨……」

 創磨が握ってくれた手にぬくもりを思い出し、悲しみを受け止めようとする。

 こんなあたしなんかのために手を握って、あたしのためになろうとしてくれた。


「あたしができること……創磨のためになりたい」

 そう思うことで、ブレイドが消えてしまった悲しみが少しだけど和らいでいく。

 まだなにか新しいことをはじめるきにはなれないけど、悲しみを受け止めることはできる。

 ゆっくりとでいい、ゆっくりと慣れていこう。

 

 

 夜が明け、朝を迎えた。

 ブレイドがいなくても普段通りに学校がはじまる。

 朝食を自分で用意して、それを食べてから学校へ登校した。

 

「さゆちぃ、おはよう」

「えまちぃ、おはよう」

 教室に入ると、いつもと変わらない日常があり、クラスメイト達は普段どおり他愛ない話をしている。

「なんか元気ないね。なんかあった」

「え?」

「悩み事あるぽい感じがする」

 普段と変わらないテンションだったはずだけど、さゆちぃにはなんとなくあたしが元気がないことが解ってしまったらしい。あたしの演技がめちゃだめだった可能性はあるけど。


「なんていえばいいのかな。大切なものがぽっかり抜けちゃったって感じなんだ」

「もしかして、失恋」

「失恋ではないよ……ブレイドっていたでしょ」

「ブレイド?」

「え?」

 さゆちぃはブレイドと面識はある。忘れぽいわけでもない。嫌な予感がする。

 

「ほら、あたしの家にいた女の子だよ」

 笑顔は崩さない、大丈夫。大丈夫、忘れてるだけだよね、さゆちぃ。


「そんな人いたっけ。ソウマ先生、イラスト描くことになった作家のことは聞いてるけど」

「漫画、いっしょに手伝ってくれたよね」

「それすごい昔の話だよ。えまちぃのイラストから学べる所は学ばせてもらってるけどね。えまちぃ、また漫画描くの?」

 心臓の鼓動が耳になりひびき、血の気が引き、顔があおざめていく。


 目の前で話しているさゆちぃの事はもう見えていない。スマホをとりだし、急いでで漫画をアップロードしたサイトをみた。

 あたしのアカウントにアップロードされた漫画は存在しない、なにもないことされていた。


「ない、ないじゃん。なんで、なんでさ」

 ブレイドが活躍するあたし達が創り出した漫画はこの世界から消えていた。

 

「どうしたのえまちぃ」

「あ、ごめん。あの……」

 なにも事情を知らないさゆちぃにまで迷惑をかけてしまう。それが嫌で笑顔を保とうとしたけれど、涙が止まらなかった。

 

「えまちぃ保健室いこ、ね?」

「うん」

 ただ事じゃないとさゆちぃは思ったんだと思う。

 あたしはさゆちぃの手に必死にしがみつきながら、保健室へ向かった。

 

 急に具合が悪くなった、さゆちぃは保健室の先生にそう伝えてくれている。

「あたしまだ頑張らないと」

「無理しないでいいわ、今日はお休みにしましょうか」

「すいません。熱とかないのに」

「きにしなくていいの。気をつけて帰ってくださいね」

 元気な姿をみせなきゃ駄目なのに、それすらできない。保健室の先生に言われるままに早退することになった。

 

 家に帰ってから、あたしはあらゆる所からブレイドの痕跡をさがした。

 SNSにあげたイラスト、スケッチブック、昔描いた漫画の原稿、一緒に撮影した写真、考えられるものはすべて探した。

 

(見つからない、見つからない、見つからない、なにも見つからない)

 まるで最初からいなかったみたいに、ブレイドはどこにいなかった。

 

「なんで、なんで消えてるのよ……」

 あたしの中のブレイドの記憶も消えたらどうしよう。みんなの中にあるブレイドの記憶が消えてたらどうしよう。

 

「ブレイドのこと覚えてますか?」

 通話アプリでメッセージを送信し、怯えて震える手を握りしめながら返信を待った。

「状況は確認した。我の記憶からは消えておらぬ。みなにも説明しておく」

 一番早くメッセージを返信したのはティアちゃんだった。

 

 ティアちゃんの記憶からブレイドのことは消えてなかったみたいだ。

 この世界からブレイドの痕跡が消えてしまったことも理解し、創磨達の説明も同時に行ってくれるようだ。

 

 あたしには支えてくれる人がいる。大丈夫、大丈夫。

 暗い部屋の中で連絡を待ち続けていると、

「覚えています」

「覚えてるよ」

 お昼時、逢夢と創磨からも連絡が来た。


「良かった、良かった、良かった……」

 ブレイドのことを覚えてくれている人がいる。あたしの創造を覚えてくれている人が。

「自分にできることってなんだろう……」

 今のあたしにできて、迷惑をかけず、みんなが幸せになれること。


「誰かのためになり続けよう。そのためにならすべてをささげてもいい。あたしには大切なものなんてなくていい、なくていいんだ」

 ベットの上で空っぽになってしまった手をみつめた。

 

 あたしの大切なものは消えてしまったけれど、わたしにはできることはまだある。

 誰かのためになれるなら、あたしはもう大切なものなんていらないと思えていた。

 

          *         *         * 

 

 ブレイドがいなくなったことは、本屋で働くわたしにとっても大きく関わりあいがあること。

 同じ職場で働き、ブレイドがいることはいつのまにか当たり前になっていた。

 それなのに、今はその当たり前は消え、忙しさの中に身をとうじている。

「逢夢さん今日も大変でしたね。もう一人いるとだいぶ楽になるのですが」

「わたし達なら大丈夫ですよ。ここまで二人でやってきましたし」

「……そうですよね。ずっと二人でやってきましたもんね」

「これからも二人で頑張っていきましょう。お先に失礼します」

「お疲れ様でした」

 こよみ先輩からブレイドの記憶は消えている。撮影した動画もブレイドが関わっているものはすべて消えていた。

 

 二人だけでやってきた、そこに違和感を感じているそぶりもあるのだけど真実にはたどりついていない。そもそも真実を伝えたところで、そのことを覚えていられるかどうかすら怪しい。

 ブレイドがこの世界から消えた、それはブレイドが再び輝きを取り戻すことでしかこの状況を変えることはできないだろう。

 

 緩やかな坂道が続く帰り道、夕焼け空の中で思い出すのはブレイドとのことだ。

 ブレイドは同じ創造の同胞として、良き友人でした。

 頼れる相手でピンチを何度も救ってくれた。

 劣勢になった時、厳しい正論をぶつけ甘えたまま闘わないようにしてくれた。

 見てもらいたいのに、いつも恥ずかしそうにしている姿がとても可愛かった。

 剣を扱う姿はかっこよくて、密かに憧れていました。


「ブレイドとの思い出はとても楽しいものでしたね」

 ブレイドがいる日常、それがすでにかけがえのないものになっていたんだと思う。

 けれど今、そのかけがえいのない人はもういない。

 闘いの場だけではなく、日常の中でいないのことで心に大きな傷ができてしまった。

 

 ブレイドのことを考えながら帰宅すると、いつもどおり夕食をつくっていく。

 それでもわたしはそんな傷跡がみえないようにしないといけない。普段どおりを心がけ、弱みをみせてはいけない。

 ブレイドいない今、わたしが誰かの支えになる必要がある。

 誰もが傷をかかえている中でも、創造として誰よりも気高く咲いていなくては。


「絵麻からの連絡、創磨もみましたか?」

 夕食の最中、絵麻について話を聞いてみた。

「ああ、ブレイドのいた記憶や記録までなくなってしまうなんてな。本屋にも影響があったんじゃないのか」

「はい。いないことにされていました」

「大丈夫なのか……ブレイドとのつきあいは逢夢だって俺よりも深いだろ」

「わたしは大丈夫ですよ。それよりも絵麻のことを心配してあげてください。絵麻が一番つらいはずですから」

 創磨にはわたしよりも絵麻のほうを見ていて欲しい。

 ブレイドいない今、絵麻のほうを大切にすべきだ。


「それでもなにか伝えたいことがあれば、伝えてくれると俺は嬉しい。逢夢が辛そうにしているのだって俺は心配だ。すべてを一人で抱えなくてもいい。俺にだってそうしてくれたろ」

 絵麻の方が大切にされるべきなのに、それなのに創磨はわたしのことも気遣ってくれる。

 創磨の創造であることを嬉しく思う。大切にしていることを嬉しく思う。


「あの……絵麻にしてくれたように、わたしの手を握ってくれませんか?」

 そんな嬉しさが心を惑わし、創磨に甘えしまう。

 

「あ! すいません。必要のないことを申し上げてしまいました」

「必要のないことではないと思うよ」

 強引に拒もうとすればできたはずなのに、創磨と直接触れ合うことを求めてしまう。

 絵麻のためにもならないといけないのに、創磨と繋がり幸せになろうとしてしまう。


「俺が辛い時に逢夢は手を繋いでくれた。だから俺もそうするよ」

 椅子から離れ、創磨がわたしの元まできてくれる。それを拒むことはできなかった。

「……これでいいか」

 手を握ってもらうことで創磨のぬくもりを感じる……嬉しい、もっとつながっていたいと思えてしまう。


「ありがとうございます」

 けれどこれだけでもう充分だ。これ以上は守ってくれたブレイドに対する裏切りだ。

 ずっと握っていたい創磨の手を離し、わたしは強くあらねばと決意する。

 大切なものを守る力手に入れたい。

 たとえどんなことになろうとも……わたしはすべてをささげよう。わたしのすべてを……

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