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1話 誕生、レイ・クリエイト ①

「こだわりは人生を豊かにする極上のスパイスである」

 これは偉人が残した言葉ではない、俺自身が考え創りだした言葉だ。

 どんな時でもこだわりを持てばいいとは思っていない。

 仕事、学業、家庭……いろいろな事情でこだわりを持てないことの方が多い。

 社会とつながり生きるということは、なにかに縛られて生きるということだからだ。

 

 でも縛られ続けたままの人生には刺激が足りない。だから人は刺激を求める。

 縛られることない時間の中で、自由に選択し、自分だけのこだわり探している。

 そして今日も俺は探し続ける。自分だけのこだわりを、人生を変えてしまうようなこだわりを。


         *         *         * 


「お先に失礼します」

 ようやく終業時刻になり、ロッカーの扉を開けて制服から私服へと着替えた。

 

 髪は跳ねすぎるのが嫌なのでまつげに髪がかすめる程度の短髪、目つきは良くも悪くもないが、考え事をしている時は少し表情が鋭くなってしまう。

 背丈は成人男性の平均値のちょい上の方。手頃な価格で購入した白のシャツと藍色のチノパンツを着ている。とりあえず外にでても恥ずかしくないと思える格好ならば、見た目にこだわりはなかった。

 

 職場から家までは車で十分程度。ぼんやりと光る夕焼け空に照らされながら帰宅ラッシュの列へと加わり、何度か信号で待たされながらも帰宅する。

 

 帰宅後、アニメを見ながら夕食を食べていく。

 今日の夕食は作りおきしてあった鍋と、野菜類、それにおかずとして冷凍食品を何点か。

 食事はこだわっている……ただし食事のメニューにではない。コスパが良くて時短ができるかどうかにこだわっていた。

 

 といった感じで、普段はどちらかといえばこだわらないことに対してこだわっていた。

 社会人となってからはとにかく時間が足りない。すべてはこれからはじまる自由な時間のため。

 好きなことに対してはこだわり、そうでもないことは無頓着。

 こだわらないことにこだわることも人生を豊かにする、そう主張はしておきたい。

 

 食事を風呂を済まると、自室へと戻る。

 

 自室の窓は青いカーテンで遮られ、白と薄花色のジョイントマットが床に敷かれ、ベットには青い掛け布団が掛けられている。自室の内装は落ち着いた雰囲気でいられる青色にしていある。

 

 壁には好きな作品やイラストレーターが描いたキャラクターのタペストリーが数点飾られている。そのほとんどはツーサイドアップ及びツインテールの女の子ばかり。大きな胸やふとももであることも多く、好きなキャラクターを常にみたいと思ってら自然とこうなっていた。

 

 フィギュアケースの中には、ロボット、バトルマンガの男キャラ、ゲームの主人公だったりも飾られているのだが、やはりツインテール美少女のキャラが多い。

 本棚には特に思い入れのある漫画、ラノべ、アニメのBDが置かれている。

 自室以外の部屋にも本棚やグッズ置き場があり、一人で暮らすには広い間取りを借りていた。

 

 ここからは自分の好きなことに対して、こだわれる時間。

 ディスクトップパソコンでSNSや動画サイトをある程度みた後、アニメ、ラノベ、漫画などをみる時間に当てていく。


 こだわりのある作品をみつけられるこの時間は、食事を食べ、息を吸うのと同じくらい、生きていくうえで当たり前だと思うくらいには必要な時間だった。

 

 食わず嫌いはしない。明るくて可愛い女児向けの作品も見るし、シリアスで重たい作品も読む。どんなジャンルでも見るのが当たり前。

 

 物語が好きだからこそ、こだわりたい。

 社会人となった今では見れていない作品も多くあるけど、なるべく多くの作品を見て、こだわりを感じられる作品をみつけたいと思っていた。

 

 おおよそ1、2時間が経過、そこから就寝……というにはまだ時間は早すぎる。

 これからの時間は、こだわりを見つけるのではなく、自らこだわりを創り出す時間。

 

「そろそろ、はじめるか」

 台所でコップに注いできた緑茶を飲んだ後、気分がリフレシュできた所でテキストエディタを起動し『ヒーローもの(仮) プロット』というファイルを開いた。

 

 そこに書かれている文章は、一目で読みきるができないほどの文量がある。

 風景、外見、しぐさ、内面、そして行き交う言葉の数々と熱いバトル、その場面に応じた話が展開されていた。

 その文字は紡がれ続けることで意味をなし、キャラクター達の人生を創り出す。

 俺が4年前からこだわりを持ってやっていること、それが小説の執筆だった。

 

 部屋に響き渡るのはパソコンのうねるような機械音とキーボードを叩く音だけ。鳥のさえずりのや川のせせらぎのような心をおだやかにするようなものではないけれども、この音は嫌いではなかった。

 今、書いているのは新作のプロット。ざっくりと言えば物語の設計図みたいなもので、人によって書き方は違ってくる。

 どんな導入からはじめて、中盤ではどんな逆境が待ち受け、ラストはどんな風に解決をするか、という物語の大まか流れや、物語のキャラクターはどんな設定にするか、物語のテーマはどんなものにするか、みたいなことを決めることが多かった。

 

 進捗が順風満帆かと言われると、かなり厳しい所。

「なんか違うんだよな~」

 新作のプロットを書き進めていたがしばらくすると手が止まった。

 夢をテーマにして書いてみたのだが、まったくといっていいほど面白くなっていきそうにない。夢を守るために闘う、それは創作においてはあまりにもありふれていた。

 

 別にありふれた王道が嫌だというわけではない。どちらかといえば好きな方だ。

 でもそこにその作品のだけのこだわりというの欲しい。ヒーローが登場する作品は数多く創作をされ続けている。その中で独自の魅力をだすために、ヒーロー×魔法、ヒーロー×宇宙、みたいに他のジャンルと掛け合わせている作品があり、作品のテーマは変えるのはその作品のこだわりが出しやすい部分だ。

 そう考えてヒーロー×夢という形にしてみたのだが……プロットの段階で雲行きが怪しい。なんていうか自分なりのこだわりがそのテーマから創りだせてはいなかった。

 

 今プロットに書いてある部分で良さげだなと思っているのは、物語に登場するメインヒロインくらいだ。細かいキャラクターの設定については物語が進めていく時に決まっていくことも多いが、キャラクターの見た目は性格はプロット段階からこだわれる部分。

 自分が創作する側になって楽しいと思えている点は、やはり自分の好みをいれやすいという点。

 もちろん作品全体のバランスを考慮はしているものの、他人の作品ではこだわりきれない部分をこだわることができる。

 

 ヒロインの見た目でまずこだわったのは髪だ。

 髪型はツーサイドアップ、髪色はやさしげな印象を与える桜色。それに加えて髪の長さが重要になってくる。髪はそのキャラクターのシルエットを決める重要な要素、ロング、セミロング、ショートでまったく違う印象のキャラクターになる。

 

 俺が好きなのはセミロングくらいの長さ。

 ツーサイドアップの後ろにおろした髪とツインテールの部分が、ちょうど肩にかかりそうくらいが個人的にはベスト。まるでうさみみのようにみ見えることでナチュラルな印象を与えられ、それが個人的にぐっとくる。

 

 他にも胸に対するこだわり、ふとももに対するこだわり、目に対するこだわり、見た目だけでもこだわっている点は数多くある。性格はやさしい方が好き。

 桜の木のように美しいツーサイドアップの女の娘、短い文章で伝えるならこれだけでも充分だが、その中には自分なりにたくさんのこだわりが込められていた。


「行き詰まるとつい他事ばかり考えてしまうな。好みなヒロインを考える、それも創作の楽しみといえば楽しみではあるが……そればかりしていても進展はない。じゃあどうすればいい?」

 再び物語について考えを進めてみようとするものの手が止まったままで、テキストエディタに白い空白ば埋まることはなかった。

 

「なんも思いつかないな~」

 考えがなにもでてこないこの時間は、退屈でとてもつまらない時間だ。ゲームをしている時のような爽快感、物語を読んでいる時のような気持ち良さなんてものはなかった。

 

「自分自身が納得できるようなこだわりのある作品を創りたい、俺が大好きな作品、『テラステラ』がそうであったように……でも、俺にそんなことできるのか。才能なんてなかった。そんな俺が物語を書く意味なんてあるのだろうか」

 ネガティブな感情は、また新たなネガティブな感情を創りだしていく。

 この4年間で物語を書くことは楽しい、その気持ちだけでは超えることができない壁あることにきずきはじめ、その心の内側をむしばむ壁に今にでも圧し潰されそうになっている。

 

「ネガティブ禁止! 考えろ、なにかは思いつくはずだ」

 自分自身を一喝、それが空元気ではあるのには自覚していたが、なんとか考えを導きだそうともがき苦しみはじめた。

 

 大好きなことを諦めたくない、その意地だけ持ちこたえている状態。

 そんな満身創痍な状態で、今日も答えを探し続ける。

 この先に、俺がこさわりもって創りたいと思えるような作品があると信じて。

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