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短編集

立つ女

作者: 暮 勇

 本棚と本棚の間。

 ありそうで、ありえない姿があった。


 家の近所にある書店に来た。読んでいた本が読み終わり、次に読む本を漁るためだ。

 店内は白い照明に照らされ明るかった。店は1フロアながら広く、天井まで届く高さの本棚で隅々まで埋め尽くされていた。

 そんな書店内の隅の方に、海外書籍のコーナーが追いやられるかのように押し込められていた。普段は私も通ることのないそのコーナーになんとはなしに足を向けてみた。買いはしないが、表紙を見て楽しむ。ウィンドショッピングってやつだ。

 壁に沿うように並ぶ本棚、その向かいにも並ぶ本棚。そこには異国の言葉と見慣れない彩の表紙で溢れており、見ているだけで旅をいているような心地だった。

 粗方見て周り、いよいよ文庫本を漁ろうかと思い店の中央に足を向けた瞬間、奇妙なものが目に映った。

 本棚と本棚の間。通路の真ん中に、髪の長い女性が立っていた。

 それだけなら奇妙でも何でもないだろうが、その立ち姿がおかしかった。通路を真っ直ぐ行こうとする私に背中を向けて立っているのだが、足は肩幅に開かれており、手は指先までぴんと伸ばされ、一直線に降ろされていた腕は腰に触れず、鞄ひとつ分腰から離れた状態で浮いていた。

 まるでポーズを取る前のマネキンの様なその様相に違和感を覚えながらも、じろじろと見るのは良くないと思い、私はその女性の横を通り過ぎた。


 本を物色し終えた私はちょっとした好奇心で、あの女性がまだ居るのではないかと、先ほどの通路を本棚の隙間からのぞいてみた。

 やはり、いた。

 しかし向きが変わったのか、先程とは反対側から見たにも関わらず、見えたのは顔ではなく後頭部だった。ただ、向きが変わっただけで、立ち姿や位置は寸分の狂いもなく同じだった。

 せめて本棚に向かって立っているのならまだしも、通路を塞ぐ様に身じろぎせず立ち続けるその姿に、何処か背筋が寒くなる様な思いをしながらも、一層好奇心をくすぐられた。

 私は再び海外書籍コーナーへ向かう振りをし、女性の横を通る。真横を通った瞬間、女性の方をちらりと見てみた。

 女性に顔はなく、顔があるはずのそこには黒く長い髪がかかっていた。

 思わず顔を向け、まじまじと見てしまう。

 女性には、背面しかなかった。

 どちらから見ても、顔や胸、腹やつま先がなく、そこには後頭部があり、背中があり、踵があった。二人の人間が向かい合い、そのままくっついてしまったかの様な、異様な光景だった。

 私は思わず後退り、早足で通路を引き返しレジに向かった。まともな人間がいる場所に行き、安心したかった。

 角を曲がりレジが見えた瞬間、頭に「あの女が追いかけて来るのでは?」という思いが過ぎり、思わず振り返る。

 そこには、先ほどと変わらぬ立ち姿があり、動く気配は微塵もなかった。

 それでも私は恐ろしくて堪らず、早々に会計を済まし店を出た。

 

 あの女は、今もあそこに立っているのだろうか?

 それを確かめる勇気は、私には無い。

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