皇女に転生しました。
「兄様、私争い事は好みませんの。
そのようなもの、野蛮な方が行う行為ですもの」
「――お前がそう言うのならやめておこう。
だが勘違いするな、未熟な令嬢が。これは我が妹の慈悲だと」
「勝手に解釈なさらないでくださる?私慈悲など持ち合わせていませんわ。
権力を振りかざすのは愚行。権力は弱者を守る為にあるものです」
チラリと目の前の可愛らしい少女に目を向ける。
彼女は驚きの表情で私を見つめたまま。
「リオ・メイテル子爵令嬢」
「はっはい!」
「私、貴女が気に入ったわ。
宜しければ、私の初めての『お友達』になって下さらない?」
微笑みを向けて言うと彼女はハッとした。
「私で良ければ、喜んで。
エリザベス・ルイ・フィルバーン皇女殿下」
ときは大きく遡る。
私は襟野 瑠唯。
至って普通の高校生だ。
いや…普通と言うのは少し違うのかも知れない。
地元では名の知れたお嬢様学校に通っている女子高校生だ。
「瑠唯、おはよう」
「おはよう、莉緒菜」
目の前からやって来たのは私とは別の高校の生徒だけど友人の緋花 莉緒菜。
彼女とはあるゲームをきっかけで知り合った。
「瑠唯、昨日のゲーム告知見た?」
「えぇ、見たわ。続編が公開したんですってね。前作では攻略対象ではなかった
キャラが攻略対象として現れるって思ってたのに…」
「でもさ、納得しちゃった気がしない?だってあの皇女様って
結構不遇なキャラだったじゃん?幼少期に目の前で母親が殺されるし」
私達が知り合った理由。
それは『帝国のアルカナ』という乙女ゲームだ。
主人公はゲームの世界線上一番の帝国であるディルナ帝国の子爵令嬢として
学園に入学し、攻略対象者と共に帝国に隠された秘密を見つけるストーリー。
ありがちのストーリーだが、制作陣の各キャラクターへの熱意が熱く、
多くのゲーマーを唸らせるクオリティであったことから大人気。
そして昨夜このゲームの続編である『アルカナのプリンセス』の発売が決定。
プレイヤーからは前作に登場した攻略対象者ではないキャラクターが
攻略対象になり、新たな主人公が登場するのではと囁かれていたが、
その予想を裏切り、前作にほとんど登場しないディルナ帝国の皇女様が
主人公となり、皇宮に隠された新たな秘密を探るというストーリだった。
続編の主人公デフォルト名エリザベス・ルイ・フィルバーン皇女殿下。
彼女は前作に一瞬だけ登場したキャラクター。
主人公との絡みも片手で数えられる数のみ。
なぜそんな彼女が主人公に選ばれたのか、その理由は誰にも分からない。
エリザベス・ルイ・フィルバーンは笑わない皇女だから。
「確かにあの容姿であんなに皇太子から溺愛されていたのに、
笑わないって不思議よね。不仲だって設定もなかったし」
私の言葉に、莉緒菜もうんうんと頷く。
エリザベスは幼少の頃、それこそ物心がついて直ぐの頃。
皇后であった実母が側室の貴婦人の差し金で暗殺者に殺された。
それがトラウマになり、それ以降誰を相手にしても
笑うことの出来ない少女になってしまった。
「親が目の前で殺された、それのせいで笑えない。
だから皇太子は溺愛してる。それくらいしかエリザベスの情報はなかった。
それなのに、バッドエンドは疎かハッピーエンドでも彼女は報われない」
「確かアルセットルートとディーンルートでは絶対に暗殺されていて、
クロノルートでも病死か自殺だったわね」
「でもって、バッドエンドルートでは冤罪で死刑とか投獄されたり、
戦争に巻き込まれて事故死しちゃうか奴隷落ち。不憫すぎ」
こうしてみるとエリザベスは不憫で不遇すぎるキャラクターになる。
その結果から、彼女が続編の主人公になったのではと推測されている。
「確かに幸せにしたいわね」
「だよね!あと考えたんだけどさ、ハッピーエンドに出来たらの話だけど
エリザベスって流石に笑うよね?!それ見たいと思わない?!」
莉緒菜の言葉にハッとする。
『帝国のアルカナ』では女性キャラクターの登場が少なかった。
そんな少ない女性キャラクターの中で一番ビジュアルが良いとされたのは、
皇女であるエリザベスである。
そんなエリザベスがもし、笑ったのなら。
続編で笑うスチルが存在するのだとしたら。
何人のプレイヤーが見たいと切望するだろう。
因みに私も見てみたい。
どちらかと言うと私があのゲームの中で一番好みだと思ったのは
攻略対象者でもないエリザベスだ。
「確かにそれは見てみたいわね。
あの鉄仮面が崩れるところなんて需要に溢れているわ」
「でしょでしょ!!発売日には一緒に買いに行こう!」
「えぇ、そうね。丁度試験とかも被っていないから大丈夫だと思うわ」
そう呑気に話していた私達は気付かなかった。
――背後から迫る猛スピードのトラックに。
次に意識が戻った時、私の目の前に居たのは血塗れの女性だった。
「…っ!」
声も出ない。
私、死んだんじゃないの?
どこかで見覚えのある風景。どこだろう、ここは。
「母后陛下!!エリザベス!!」
どこかで聞いた少年の声がする。
視界に彼が写った瞬間、唐突に理解した。
彼は、乙女ゲームのキャラクターだと。
アルセット・イル・フィルバーン皇太子。
父である皇帝陛下によく似た銀髪の髪の毛を持つ綺麗な少年。
…じゃあ、私の目の前に居るのは、母后陛下?
それってつまり…。
死ぬ前に莉緒菜と話していた内容が頭によぎる。
私、エリザベス・ルイ・フィルバーンに転生したって事?!




