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怯える。

『大好きなアルベールへ


春の訪れとともにとても嬉しい報せを耳にしました。

魔境へ続く谷の魔族を倒したそうですね!

エバースの村はその話題でもちきりです。


アルベールの像はまだまだ作成途中なんだけど、村のみんなが作りかけの像の周りに花を飾るものだから、職人さんが困ってたわ。

本当にそれくらいみんな大喜びなのよ。

私たちにできることはこれくらいだからって、みんな感謝の気持ちを込めて花を飾っているみたい。

アルベールは本当に私たちの誇りです。


今回の戦いで左手を無くしたと聞いてとてもとても心配してるけど、アルベールならきっとまた乗り越えられるよね。

お腹に大きな傷ができた時も、大丈夫だったんだもの。


私はアルベールの強さを信じてる。

アルベールが無事に私のところへ帰ってくるって信じてる。



だから、かならず魔族を倒して帰ってきてね。 』



「……ルルカさんは…こんなことを書く人なんですか?」

書き上がった手紙をチェックしているギルバートに、私は暗い表情で問いかけた。

「こんなこと、とは?」

「なんていうか…精一杯がんばって疲れてる人を、無邪気に鼓舞するような……」

「……ルルカは『必要とされる言葉』をよく分かっている女でした」

長椅子に座るギルバートは足を組み替え、優しい口調で答える。


必要とされる言葉か……


私がルルカの代筆を始めてすでに半年が経っていた。

その間に、勇者アルベールはお腹に大怪我をした。

今回の戦いでは左の手首から先を失くした。


そんな人に対してこの手紙は…私からすると、怪我人に鞭打つような言葉に思えるんだけど。

彼をよく知る人からすると、これがアルベールにとって必要な言葉なんだ……


「アルベールは、人に頼られ喜ばれることが大好きなんですよ」

「体の一部を失くしてまで?」

「そうです。そうまでしても、です」

「…………………」


モヤモヤしている私の胸の内を見透かしたように、ギルバートが言う。

「聖剣による勇者選別も魔族の討伐も、誰かに強制されてやったわけではありません。アルベールが自ら志願した事なのです。そしてアルベールのような才能を持たない僕らは、自分に出来る最善の事としてアルベールを支援する」

「最善のこと……」


はたして、これが最善の支援なのだろうか?

この手紙が?

もうじゅうぶん頑張っている人に……

大怪我を負った大切な人に……

「もっと頑張って」なんて私なら言えない。


私なら……

私だったら……


考え込んでしまった私の目前に、気がつけばギルバートが立っていた。

「……そう言いつつも、貴女だってこのまま魔族に侵略されたら困るでしょう?だからこの仕事を断らなかったんでしょう?」

「そうだけど……」

「僕だってただ無闇にアルベールを鼓舞しているわけではありません。だから貴女が気にすることはない。心配なさらずとも大丈夫です。だって……」


勇者の幼馴染は美しい顔でふわりと微笑んだ。


「アルベールのことは僕が1番わかっていますから」


私には、それが悪魔の微笑みに見えた。



読んでくださってありがとうございます!

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