出立のとき
たまりんは、そういえば、レベル1のときに、すでにMPが10あった。きっと魔法使いむきなんだ。オール1と2の成績のなかでは、知力だけ唯一3だったし。
たまりんは今、レベル8になっていた。
HP25、MP40、力5、体力5、知力30、素早さ5、器用さ10、幸運1。
かたよってるなぁ。
やっぱりMPと知力だけが高い。
典型的な魔法使いタイプ。
しかも、幸運がまったく成長してない。極端に運が悪いキャラだ。まあ、死んでるからな。それが死亡の原因かも……。
マジック
冷たくなれ〜(°▽°)
呪ってやる〜(๑꒪ㅁ꒪๑)
呪ってやる〜の顔文字が怖いんだけど。白目むいてるし、よく見たら、ほっぺのマークが呪いの“の”だ。恐ろしや。
得意技は以前と同じだ。
「これで今度こそ全員ですね」と、スズランさんが笑った。
ああっ、美少女の笑顔!
微笑みかえした蘭さんのそれは、少しさみしげ。
「じゃあ、僕らは出発するよ。スズラン。元気で」
ああ、そうか。お別れだからか。
出立のときはスズランさんとの別離を意味している。
スズランは何か言いたそうに蘭さんを見つめる。
よく似た顔の美男美女が、じっと見つめあうのって、なんだか妖しいふんいきだなぁ。
「スズラン……」
「お兄さま……」
「元気でね」
「はい。お兄さまも……」
あきらかに別れが悲しそうだ。
スズランちゃんもいっしょに来ればいいのに。
すると、そこへ師匠のマリーさんがやってきた。
「スズラン。ほんとはおまえも旅に出たいんじゃろ? 行きなさい。行って、その目で広い世界を見てきなさい」
「でも、お師匠さま」
「ほれ、このとおりじゃ。ババがすっかり元気になったでの。祈りの仕事はわしがやるわい。そなたは行くがよい。きっと、そなたのために良き経験となるじゃろう」
「あ……ありがとうございます! お師匠さま!」
ほんとに、ありがとうございます!
お師匠さま!
僕も弟子入りしちゃおうかな。
*
僕らだけなら、すぐにでも出発できたんだけど、スズランは女の子だし、いろいろ支度がある。
僕らはその準備が整うまで、神殿のなかを歩きまわった。
神殿に到着したときとは、そこに集まる人たちの情報が違っていた。
宿には年老いた夫婦が泊まっていた。
「わしら、北のウールリカから逃げてきたんじゃ。あの国はもうダメじゃー。魔物にやられてしもうた。やつらは街を襲って、若い者たちをみんな、つれていってしもうたんじゃ」
「勇者狩りですね。でも、勇者じゃなくてもつれていって、どこかに集めてるってウワサですよ。やつらはキャラバンに化けてやってきました。見かけたら近づかないように気をつけてください」
怪しいキャラバンの話は前にほかの旅人もしてたね。
また別の旅人は、
「知ってますか?」
どうでもいいけど、なんで、みんな『知ってますか?』って言うんだろ?
「義のホウレンが昔、武闘大会に出たことがあったらしいんですよ。優勝商品が欲しかったんですかねぇ?」
義のホウレンって、魔王の四天王の一人か。まあ、デマだろう。魔物が人間の大会に出るはずがない。
こんな人もいた。
「この世には三人の巫女がいるそうですよ。祈りの巫女。予言の巫女。夢の巫女だそうです」
ふうん。スズランちゃんが祈りの巫女だよね?
ほかにも二人、巫女姫がいるのか。いいなぁ。会ってみたいなぁ。みんな可愛いのかなぁ?
一番、大変なことを言ったのは、この人。
「ミルキー城の近くで、こんなものを拾ったんだ。なんだか怪しいことが書いてあるけど、どうしたらいいんだか」
そう言って、牛乳ビンみたいなガラスの容器に入った紙きれを渡してくる。コルク栓をぬいて紙をひろげる。そこには、血文字のような赤黒い字がのたくっていた。
『正気を保てる時間が日に日に短くなる。心のなかに別の誰かが……私はあやつられている。助けてくれ。ブラン』
えっ? ブラン? ブラン王のことじゃないよね?
蘭さんの顔がいっきに心配そうに。
やっぱり仲は悪くても実のお兄さんだもんな。
「この手紙、僕にください」
「ああ、いいよ」
蘭さんは手紙をにぎりしめる。
「アンドーはヤドリギのカケラにあやつられていた。もしかして、兄上も……」
ミルキー城は四天王の一人にのっとられているのかもしれない。
でも、今の僕らに、ちょくせつミルキー城を救いに行くことはできない。そこまで強くない。
僕らにできるのは、一刻も早くボイクド国へ行って、この事実をワレスさんに伝えることだ。