僧侶か天職か、それが問題だ(ハムレット風に)
アンドーくんは魔法使いになった。
HPと力がだいぶ下がってしまったが、かわりに『燃えろ〜』が使えるようになった。MPも職業補正で上がった。
早く冷気系の攻撃魔法をおぼえてもらいたいもんだ。
「ぽよちゃんやクマりんは?」
「残念ですが、モンスターは職業につけません」
「あっ、そうなんだ」
「ですが、この世のどこかには職業のツボをとらえた職ツボというものが存在するそうです。それを手に入れれば、あるいはモンスターでも……」
「なるほど」
このゲームとあのゲームがごっちゃになってるなぁ……。
このゲームでは職業の奥義書だったはずだし、あのゲームではツボは合成や保存などのアイテムの一種だった。
それにしても、みんなの職業は決まったけど、僕はどうしようか?
プリースト!
そう。もちろん、ぽよちゃんを死なせてしまったときのあの悔しさを忘れていない。
でも、でもなのだ。
あのときと今では、だいぶ状況が違う。
僕は僧侶が覚えるであろう回復魔法をすでに三つおぼえてる。
元気になれ〜ヽ(*´∀`)
もっと元気になれ〜ヽ(*´∀`)
毒よ消えろ〜(^ー^)ノ☆︎*.。
この三つだ。
基本職としては、あと覚えるのは蘇生魔法の不完全なやつくらいじゃないだろうか? 蘭さんがすでにおぼえてる『死なないでー?』だ。
もしかしたら、全員のHPを中くらい回復させる『みんな、もっと元気になれ〜』くらいはおぼえるのかもしれないけど、今のところ必須でおぼえたいのは、それくらいだ。
なんと言っても、フェニックスの灰を大量に手に入れたから、蘇生魔法のありがたみが急激に薄れてしまった。
うーん。悩むところだなぁ。
僧侶からの魔法使いで、たぶん魔法のエキスパートの上級職につけるようになる。賢者とか、そういう感じのやつだ。
魔法を自在に使いこなすかーくん。
ウットリ。憧れるなぁ。
でも、僕の得意技を考えたとき、小銭拾いを最大限に活かせるのは、商人の奥義じゃないだろうか?
そう。傭兵呼びだ。
うーん。迷う。
みんなのために僧侶になるべきか、我欲のために商人になるべきか、それが問題だ。
*
お祈りの祭壇に立つスズランさんの前に僕は歩みよった。
「転職……違った。僕を天職につかせてください! お願いします」
「天職、ですか?」
「はい! 僕の天職。それは商人です!」
ああっ、言っちゃった。
つい自分の欲に走っちゃった。
まあ、傭兵呼びができるようになれば、つねにモンスターに大ダメージを与えられるようになるし、必ずパーティーの役には立つ。
そのあとすぐに、プリーストに転職すればいいんだ。
「わかりました。では、かーくんさん。商人の気持ちで神に祈りなさい」
「はい。商人の気持ちになりきります」
僕は両手をあわせ、目をつぶって祈った。商人の気持ちを原稿用紙十枚ぶんくらい、みっちり妄想した。
そのあいだに僕は丁稚奉公から始まって、一代で財を成す大商人になった。株式も上場され飛ぶように売れた。世界のかーくん商店。かーくん財閥。素晴らしい。
ふふふ、ふふふと心のなかで笑っていると、チャララチャーンと効果音が鳴り、僕は商人の職にぶじにつけた。
ハッ! まだ妄想だった。財閥は露と消えた。いいんだ。どうせ商売しなくても小銭拾えるから、お金はめちゃくちゃたまるんだ。
これで僕は今から商人だ。
わりと現実の職業に近いものになってしまった。
現実の特技を活かしてるんだから当然か。
「じゃあ、これで全員、職につけましたね」と、蘭さんは言ったんだけど、そのとき、スルスルと火の玉が飛んできた。
たまりんだ。
何度見ても、ドキッとする。
火の玉、心臓に悪い……。
「…………」
あれ? スズランの前に立って(浮かんで)、なにやら祈っているような?
と、応えるようにスズランが口をひらいた。
「では、たまりんさん。僧侶の気持ちになって神に祈りなさい」
「…………」
チャララチャーン。
「えっ? マジで? 職につけたの? なんで?」
「わかりませんが、たまりんさんは、かつて人間だったからかもしれません」
火の玉。それは人魂とも言う……。
ちょい怖いよ。