さらば、フェニックス
フェニックスは強敵だった。
僕らは全員、レベルが上がった。
僕、蘭さん、シャケ、ぽよちゃんは一ずつ。クマりんは二。たまりんは三だ。
フェニックスの羽を手に入れた!
50円を手に入れた!
フェニックスは宝箱を落とした。
フェニックスの灰を手に入れた!
と、テロップが告げる。
ご、五十円って、やっす。
たまにあるんだよな。
強敵なのに、勝利報酬が激安な敵。
燃えつきたフェニックスのお母さんの灰のなかに、キラリと光る五十円玉を、シャケがひろう。
僕はそんなはした金いらないんだもんねぇ。今となっては木刀なんて何本でも買えてしまうのだ。
それにしても、宝箱?
フェニックスの灰?
そんなの貰ってないぞ?
思ってたら、僕らのガッカリ感が伝わったのか、フェニックスのお母さんが言った。
「あっ、そうそう。あなたがたには、ほんとにご迷惑をかけたので、おわびに、わたしの灰をさしあげましょう。好きなだけ持っていってください」
灰ですか?
まあ、くれるって言うなら貰うけどね。
灰、灰かぁ。灰かぶり姫!
ああ、あったかいわ。かまどのなかの灰があっかい、とか、日曜名作劇場っぽく言ってみたり。あははァ。
というのは、もちろんジョークだ。
この灰はただの灰じゃなかったのだ。
「わたしの羽で全身をなでると、その人はどんな病も治り、さらには寿命がのびます。灰にはそこまでの力はありません。が、戦闘で仮死状態になっている者をよみがえらせることならできます。どちらも効果は一回きりですが」
なっ、なんですとォー?
戦闘での仮死状態を治せる?
それって、蘇生魔法と同じ効果を持つアイテムってことか?
つまり、あのゲームで言えば“世界樹〇葉”。もひとつ人気のゲームで言えば、“フェニックス〇尾”。ほとんど伏せ字になってないけど、そういうアイテムだ。
そ、それはスゴイ!
「うおー! 拾うで! 全部、拾うでェー!」
「もちろんだよー!」
「かーくん、シャケ……落ちついて」
「ビンは? ビンはないの?」
「とりあえず袋でもなんでもええやろ。あとで小分けにすれば売れるで!」
「なに言ってんだよ! 僕らがこのさきのバトルで使うんだよ!」
「おれが売ったるさかい、かーくん買うてくれや」
「はあっ? 仲間からお金とるんだ?」
「おれは商売人やー!」
「か、かーくん。シャケ……」
僕ら(僕と三村くん)はさきを争って、フェニックスの灰をカバンにつめた。
僕はそのとき気づいた。
なんと、ミャーコちゃん風の猫型ポシェットが、口をパクンとあけて、どんどん灰を吸いこんでいくのを。
ん? どうなってるんだ?
灰を吸いこみ続けるミャーコポシェットの背中のジッパーをあけてみると、ものすごい速さで、灰が小さなビニール袋に小分けされていく。
今は薬って錠剤が多いけど、僕が子どものころには粉薬もわりとあった。あんな感じで次々に灰が一回ずつぶんにパッキングされていく。
便利だなぁ。いたれりつくせりだ。
やっぱり、このポシェット、ミャーコの魂が入ってるんじゃないかなぁ?
*
「はい。ロラン。ロランにもフェニックスの灰、わけてあげるよ。いっぱいとれたから」
「あ、ありがとう……」
「もしものときに、みんなが均等に持ってるほうがパーティーのためだと思うんだよね。僕は回復役だから、ちょっと多めに持っとくけど」
「そ、そうですね……」
王子様の蘭さんは少しあきれてるみたいだ。庶民の知恵は大事なんだよ?
これも僕の幸運度のおかげなんだろうか。宝箱は出ないけど、灰は手に入れた。それも百回ぶん以上は集まった。
三村くんも同じくらい集めたはずだから、たしかに多少は売り物にしても問題なさそうだ。そのうち蘇生魔法をおぼえたら、使用頻度も減るだろうし。
これだけでも充分なお礼だったのに、フェニックスのお母さんはさらに、こんなことまで言いだした。
「わたしたちは巣の場所をどこか遠いところに移すことにします。あなたがたに、もしも困ったことがあれば、これで呼びだしてください。きっとご恩返しをしますから」
そう言って、お母さんは僕らの前に何かをさしだした。そのクチバシにくわえられていたのは、小さな金色の羽の形をしたトップのついたペンダントだ。
「これをどうしたらいいの?」
「わたしの力が必要なときに、その羽を朝日にかざしてください」
うーむ。
これってイベントアイテムなんじゃないかな?
いずれ必須になりそうだ。
「ありがとうございます」と言って、蘭さんが受けとる。
まあ、勇者は蘭さんだからね。当然だ。僕は主役だけど、従者。
フェニックスの親子が朝焼けの空に飛んでいく。
「さよなら。神の鳥よ」
「さいなら。またなぁ」
「バイバイ。ふえ子〜」
「かーくん。ふえ子って、なんですか?」
「えっ? フェニックスの子どもだから、ふえ子」
「いいんですか? そんな名前、勝手につけて」
「変な名前やなぁ」
いや、三村くんほどじゃないよ……。
遠くなるフェニックスの親子に手をふって、僕らは下山するのだった。
スズランさん、待っててください。
僕はやりましたよ〜。
第二部 完