モンスターおじい爆誕
夜になる前に、宿屋で休んでいた僕らのもとへ、見覚えのあるおじいさんがやってきた。
神殿の前で馬車を押し売りしてきた、あのおじいさんだ。
「いい馬が手に入ったんじゃ。いつでも馬車が出せるぞよ」
「ほんとですか?」
「うん。これで自分をふくめ、仲間を八人までつれて歩ける。それに、あんたたち、さっき子グマちゃんをわしのとこによこしたじゃろ?」
「あっ、すいません。数が多くてつれて歩けなかったので」
老人は怒ったふうではない。
どっちかと言うと嬉しそうだ。
「いやいや。モンスターとは言え、人になついて可愛いもんじゃな。そこで、わしは思った。馬車も譲ったことだし、わしはここを住居にして、外の花畑にモンスター預かり所を作ろうと思う。仲間の数が増えすぎたら、わしのところへ預けなされ。世話をしてしんぜよう。そのかわり、経費として五千円払ってくれんかのう?」
「五千円ですね。いいですよ。はい」
五千円くらいは聖女の塔へ向かっているあいだに拾ったから、チョロイもんだ。
やった。これで、子グマちゃんもつれて歩けるぞ。
「子グマちゃんのステータス、見とこうか?」
「そうですね」
僕らは子グマちゃんを宿の部屋に呼びよせた。
子グマちゃんは指をしゃぶりながら、三村くんにすりよる。傷をなおしてもらったので、恩義を感じているようだ。
子グマちゃんは案の定、レベル1だった。仲間になったばっかりのときは、どの子も1なんだな。
HP25、MP0、力5、体力5、知力2、素早さ2、器用さ3、幸運2。
マジックなし。
得意技
仲間を呼ぶ
合体
プリティー
仲間を呼ぶと合体はわかるよ。
でも、プリティーってなんだ?
初期数値を見た感じだと、子グマちゃんはこう見えて、意外と力と体力の伸びる戦士タイプだ。
僕がレベル1だったときより、HPや力が高い。
「子グマちゃんの名前、なんにする?」
「そんなん、クマ公でええやろ」
「ダメ! そんなダサいのイヤ!」と反論したのは、蘭さん。
う、うん。まあ、僕もクマ公はちょっと……。
「じゃあさ、クマりんってのはどうかな?」
「いいですね! クマりん。可愛いよ。クマりんにしよう」
こうして、夜はふけていく。
*
今日と明日の出会うころ、僕らは神殿を出発する。
「お兄さま。お気をつけて」
「うん。行ってくるよ。アンドー、神殿の守りはよろしく」
「お任せください」
スズランちゃんや安藤くんに見送られて、ガラガラと馬車は行く。でも、まだ馬車のなかにはクマりんだけだ。レベルが上がるまでは、なかでじっくり育てないと。
「夜明けまでにちゃんと、崖のとこまで行けるかなぁ?」
「急ぎましょう。今から六時間ってとこですね」
「六時間もあれば、まにあうやろ」
出現モンスターも途中までわかってるから、よっぽど想定外のことが起こらなければ時間内につく。神殿から崖までの所要時間は約四時間と聞いていた。
ゲームの利便性のためだろうか。
なぜか、聖女の塔までは旅人の帽子で行くことができた。
見まわすけど、やっぱり猛はいない。
どこ行っちゃったのかなぁ? 猛。
また会えるかなぁ?
急にいなくなって、さみしいよ。
「この塔、けっきょく、なかには入らなかったね」
「きっと、ここも今の僕らが行くべき場所じゃないんです。神様がちゃんと見守って、導いてくださるんです」
うん。まあ、そういう言いかたもできるかな。まちがったルートに行くと話の進行が狂うからね。
しょうがなく、夜の森のなかを進んでいく。東へ、東へ。
夜の森は不気味だなぁ。
ホウ、ホウと聞こえてくるのはフクロウかなってわかるけど、ときどき、怪物みたいな声が「ギエーッ」とか叫んで遠ざかっていく。
こ、怖い。
木の枝が風にゆれてガサガサ音を立てるし……って、うん? 変だぞ。
風なんて吹いてないんだけど?
じゃ、じゃあ、なんで揺れるんだ?
オバケか?
怖い!