ヤドリギのカケラ
風のような速さでBは疾駆すると、すれちがいざまに短剣をつきだしてくる。
ああ、ダメだー!
よけられない。
と思ったけど、ん? いつもより体が軽いぞ? なんとかギリギリのところでかわせた。
「変だな? 体が軽い?」
「キュイ。キュイ」
「そうか! さっき、ぽよちゃんが魔法をかけてくれたの、僕なんだね? ありがとう」
「キュイ〜」
なかなかの賢さだ。
知力30ってモンスターにしては、けっこういいほう。
すっかり僕らの戦力になってる。
かよわいモンスターだから数値は全体に低めだけど、そのうち種で強くしてあげよう。
人さらいBの攻撃は終わった。
安藤くんはどうするのか?
「安藤くん。しっかりしてよ! 安藤くんはそんなことする人じゃないよね?」
人さらいAの安藤くんは怪訝な顔をしながらも、またまた詠唱した。なるほど。ちゃんと目つぶってる。
「みんな、巻きで行こう〜」
さあ、僕らの番だ。
蘭さんはまず、鞭でBを叩いた。
背中を向けて、自分たちの定位置に戻る途中だったBのお尻に命中。
なんとなく、女王さまに調教されてるっぽい。
そのまま、とどめの一撃かと思ったら、蘭さんは器用に瞳をうるませた。
「アンドーさん。僕らといっしょに戦いましょうよ。ね? 僕たち、友達だよね?」
うわーッ! 魅了(100%)使ったね?
安藤くんがストーカーになっちゃうよ? いいの?
ところがだ。
安藤くんは無表情に蘭さんを見ている。魅了が効いてない?
猛がうなった。
「悪のヤドリギだ。こいつ、ヤドリギにあやつられてる」
「えっ? そうなの?」
「ヤドリギのカケラを体から出さないと正気に戻せない」
うーん。どっかで聞いたような展開だが、どうしたらいいんだろうか?
「ヤドリギのカケラって?」
「ヤドリギは魂の一部を分割して、人の心のなかに宿らせることができるんだ」
「どうやって、それを出すの?」
「失神させるしかないな」
つまり、戦って勝てと。
うん。しっかりゲーム感を出してるね。
蘭さんの行動が終わった。
ブーメランは空振り……じゃなかった! 今度は人さらいBに当たったぞ。
グラリと横に傾いて、人さらいBはそのまま起きあがらなかった。
よし。あとは安藤くんだけだ。
*
さっき、ぽよちゃんが僕の素早さを上げてくれたんで、今回のターンも僕が三番め。
まあ、と言っても、僕にできることは「破魔の剣〜」しかない。
これで三回めなんで、それなりにダメージは蓄積してるはずなんだけどな。
僕は自分のターンが終わったあと、ぽよちゃんに指示してみた。
「ぽよちゃん。蘭さんに魔法かけてみて。できる?」
「キュイ」
ぽよちゃんはギュッと目をとじた。
ためるとどう違うのか、正直わからない。
でも、ちゃんと魔法はかかったらしかった。うっすらと蘭さんにオーラがつく。
ステータス向上系の魔法がかかると、ほんのり体が光るようだ。
たぶん、僕も光ってるんだろう。
これまで、蘭さんの“みんな、がんばろ〜”のあと、なんとなく、みんなが赤く光ってる気がしたのは気のせいじゃなかったか。
たぶん、攻撃力が上がると赤、素早さだと青くなるようだ。
えっ? 後出し設定だって?
ち、違う。断じて……違うよ?
いいじゃん。僕の夢なんだから。
僕らのターンは終わりだ。
安藤くんはどうするのか?
さっきまで呪文詠唱しかしてなかったけど。
見ていると、タタッとふみこんでくる。
やっぱりそうだよね。
攻撃しないことにはバトルが終わらないし。
でも、安藤くんの狙ったのは僕じゃなかった。素早さ上げの魔法がかかってない三村くんだ。
あッ! 安藤くんの短剣が三村くんの右目を狙う。
三村くん、鉄の盾で防御しようとするけど、あれじゃまにあわないよ。
すると、そのときだ。
猛が足元の小石をコツンと足で蹴りあげた。小石は弾丸のように飛んで、安藤くんの短剣を握る左の手首に命中した。
すっかり忘れてたけど、そうだった。
いちおう猛も僕らの戦闘要員だっけ。
安藤くんの狙いはそれて、三村くんの頰をかるく刃先がすべる。
安藤くんは、あわてて、とびのいた。
僕らの番だ!